Ep.8 人狼は既に殺された
「ど、どういうことです? 何で、犯人が……!? 先輩に何の恨みがあるって言うんです?」
僕が放った言葉に浦川先輩は口での返答をしなかった。ただ首を横に振っただけ。部長も彼のことは信用しているようで。「恨まれることなんて、こいつしねえぞ」と頭を抱えていた。
僕も腕を組んで、考えた。どうして犯人に恨まれたのか。そして、浦川先輩はどのようにして犯人に恨まれていると分かったのか。
そんな反応を見せたところでまた浦川先輩は口を開く。
「で、坊主は聞きたいんだろ……? 何で犯人が自分に罪を……って」
「あっ、うん……また坊主か……まっ、いいや。そうですよ。犯人に直接命令されたり、聞いたりした訳じゃないんですよね」
「
「は、はい」
「……落ちていた物の中で一番近かったもの」
そう言われ、頭に一つの物体が浮かび上がる。「あっ!」と声を上げ、隣にいた部長が僕に「何だ何だ! 教えろ!」と肩を揺さぶって催促する。酔いそうだ。
「お、教えますから。落ち着いてください! あれですよ! ボール! ボールが落ちてたの部長も分かりますか?」
「あ……そういや、落ちてたな……それがどうかしたのかよ……」
部長は考えようとしていない。僕任せらしい。ただ彼に説明しないでいると、またもや催促されるだろう。仕方なく、僕は溜息と共に解説を吐き出した。
「あの状況で他に落ちていた人狼関連グッズから考えると、あのボール。水晶の代わりじゃないかって思うんです」
「それが水晶……ええと、占い師だよな。合ってるか?」
「ええ。部長の言う通りですよ。で、占い師は誰を示します?」
「うらない……
「警察はあれをダイイングメッセージと考えるんじゃないか。つまり、犯人は浦川先輩に罪を擦り付けようとしているんじゃないかって、浦川先輩は思うんですよ!」
あまりに大声で会話してしまったものだから、辺りの視線が凄まじい。だけれども、気にしてはいられない。
体育館の中。弓道場の中へと歩を進めつつ、会話を続けていた。
次に発言したのは、今の流れを思い過ごしではないかと言う部長の発言だった。
「で、でも犯人が浦川って思いつくか? すぐに浦川と占いをくっつける何かがある訳じゃねえだろ」
今度は僕でなく、浦川先輩が否定した。
「違う……それは違う」
事情はある。僕ももうその事情を知っている。
浦川先輩は間違いなく、占い師と連想される人物だ。浦川先輩が否定したまま、何も喋らないのでこちらに部長のキラキラした眼が向けられた。
「ううん……部長、気付いてくださいよ。パソコン部の人達の名前を……」
「えっ?」
面倒だが、部長だから仕方ない。解説しよう。
「まず、一番わかりやすいのが狐。狐ヶ崎教諭だ。で、もう一人……ああ、ちょっと文字で説明したいな」
と言ったら、無言で浦川先輩がポケットに入れていたメモ帳とペンを差し出してくれた。
とてもありがたい。今日から彼をうちの部長にしたい。
そんな余計な感情は捨てておいて、説明を続けることにした。部長の前で一人の男子部員の名をひらがなで書いた。
「『むらやまひとし』……ああ! むらひと、村人ってなる訳か。で、浦川が占い師。ううん。この関連を知ってる人物は間違いなく、浦川のことを占い師と連想するな……」
そこで部長が情報に満足していたが、浦川先輩は僕に手帳を渡すようにか手を出してきた。素直に渡すと、彼は殺された先輩の名前も書いていく。
僕も目を見張ってそれを読ませてもらった。
「
彼は肯定の意なのか、まだまだメモ帳に情報を書いていく。ついでなのか、人物の表を作ってくれた。
村山均は村人。
浦川内紀は占い師。
狐ヶ崎弥世は狐。
神原今日留は狂人。
部長がついでに人狼はいないのかと聞くと、浦川先輩は「白猫を覚えているか」と尋ねていた。
それから彼はアルファベットの単語を書いていく。
事件現場で息絶えていた白猫のロップは「Loup」。フランス語の狼から来た名前、と。つまり、人狼は猫。人狼は既に殺されている。
僕は「そこまでですかね」と呟くと、「まだいる」と返ってきた。ここまで名前に関連性があるとは、偶然なのか。はたまた運命なのか。
もう一人はまだ僕達が会った覚えのない人物だった。
そう書いたメモ帳を僕にすっと渡してくれた。どうやら、僕が何度も見返しやすいように書いてくれたらしい。僕も一礼で感謝の意を示させてもらった。
本題に戻ると、犯人は占い師である浦川先輩を犯人に仕立て上げようとしたと言う話だ。
それが本当にあり得るか。犯人の目的はそうなのか。
考えてみれば、一瞬で分かる。
「先輩、安心してください。犯人にそんな意図はないです」
「えっ……」
声に出して驚く浦川先輩。どうやら相当心配していたことらしい。それが無駄だと分かって、大変心が乱されたであろう。
先輩に対し、もったいぶるのは失礼だと思うので、考えを伝えていく。
「一つ目。もし、本当に犯人が浦川先輩に罪を擦り付けたいのなら。一番邪魔なものがあります」
部長が最初にへんてこな予測をした。
「邪魔? そりゃ、浦川に恋人がいたらオレ達の友情には邪魔だな」
彼女がいるだけで……酷い発言だが。僕がその発言を使い、本当に邪魔なものを言わせてもらった。
「先輩……今はそういう妬みとかは後にしましょう。まぁ、恋人も犯人にとって邪魔かもしれませんね。アリバイを証明してしまいますから」
「あ、アリバイか! 確か、事件の時間に現場とは別の場所にいれば、事件に関係ないって証拠になる奴だろ?」
やっと部長も気付いたようで。
浦川先輩も目を見開いて、何回か連続して頷いた。彼等の様子を見ながら続きも話す。
「はい。だから犯人がやらないといけないのは、浦川先輩のアリバイを無くすことなんです。ただ、浦川先輩に最初に聞いた通り、彼は犯人と
そこで部長が疑問を入れる。
「じゃあ、犯人は逆に浦川に罪を擦り付けようとしたら、何をやる必要があったんだ?」
「ああ。それは、彼を絶対一人になるような場所に呼び出すことでしょうね」
「ああ……で、一つ目と言ったが、二つ目はあるのか?」
部長に言われ、僕は左手で指を二つ立てた。
「ありますよ。二つ目は名前関連です。白猫にロップと言う名を付けたのは神原先輩ですよね。神原先輩が名前を付けていたとなると、この人狼の名前が偶然あったと言うのは周知の事実じゃないですか?」
「あ……ああ……」
浦川先輩が僕の言葉を正解と示しているから、自信が持てた。このまま推理した話を進めていく。
「なら、おかしいです。夜の学校を怪しまれないように狐の仮面、弓矢、本を集めてきたと言う計画的のような犯行を見せつつも、そんなダイイングメッセージを仕向けるのは変なんです。普通自分を指し示すダイイングメッセージがあったら、犯人は消しますよね?」
部長が「確かにオレなら素早く消すぜ」と豪語した。
「浦川先輩自身が犯人だとしても、浦川先輩はボールが自分の名前に関連するものと分かれば、現場から持ち去るはずです」
そこでやっと浦川先輩が声を出して反論する。
「でも、それを犯人が……考えてなかった……とも」
それも僕は笑顔で「違う」と言った。
「まず、人狼グループの内情を知っていて、ボールイコール浦川先輩と言う式が成り立っていた犯人。事件犯行時にうろつきまわっても、証拠をほとんど残さないことを計算していた犯人。見立てもかなり計画的。それなのに、ダイイングメッセージだけがお粗末と言うのは、気になるんです」
「そうか」
「もし、そんなところで失敗する犯人なら問題ありませんよ。証拠もたぶんたっぷり残してます……って、まあ、ここに証拠がありますけど」
僕は弓道場前のボロボロになった扉を指差した。どうやら、誰かが開かないものを強引に開いたらしい。
ところどころに小さいが、血の跡も付着している。間違いなく、犯人はこの部屋から弓矢を奪ったと見て間違いない。
「そうか。ありがとな」
やっと、か。やっと浦川先輩が発する感情の籠った声が聞けた気がした。そんな彼には言えなかった。
僕はまだ貴方を疑っている、と。
一度、自分が犯人ではないと思わせる状況をわざと推理させて、捜査をかく乱しようとしていた可能性もあることを。
「……どうした?」
なんて、じっと見つめていたら、見つめ返されてしまった。
「いえ、何でもないです」
何事もないように接する。そこから演劇部部室の扉も壊されていることを知る。演劇部員達に聞いてみようとしたら、僕だけが何故か体育館の舞台に来るようにと女子生徒に言われてしまう。
「ちょっとごめんね。他の二人がいないところで話がしたいの。何か、そっちの男子は浦川と仲が良さそうだし」
「な、何ですか?」
「浦川と付き合うのはやめた方がいいって言いたいの。アイツ、何したか知ってる?」
「な、何を……?」
ショートカットの女子生徒は前髪を降ろし、まるで幽霊のよう。そんな姿で僕を怖がらせようとしていたのか。
恐ろしいことを口にした。
「ここだけの話なんだけどさぁ、アイツ。突然、自習の授業でね……女子の前でナイフを振り回したんだよ」
「えっ?」
「信じられないでしょー? でも、アイツ何も言わないけど、きっとアンタのような小さい子、見下してるよ。まだ会ってから日が経ってないなら、早く縁を切った方がいいわ。まぁ、きっと。きっと……
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