Ep.13 真っ赤な血しぶきが飛ぶ中で
すぐさま硬直状態から抜け出し異論を放つ古堂。
「な、何を言っているんだ? あれは本当の証拠を誤魔化すためのお金じゃないのか……?」
確かに僕はそう発言した。ただ、それは犯人である彼が僕達にさせようとしていた推理を語っただけ。
本当の真実は別にある。
「それは違う。アンタが隠したかったものはこれに関係してるんだよな……?」
「あっ……!」
僕は一万円札が入っていたであろうバッグを持って、彼の前に出してみせた。
「この中事件現場にそこはかとなく置いてあり、金が入っていたせいで皆、最初から金が全てこのバッグの中に入っていたんだろうって勘違いしたんだ。でも、違うんじゃないか。本当は違うものに入ってたんじゃないのか!」
「ひぃいい……な、何でそんなことを……」
「そんなことを考えたか、だって。まぁ、謎を解く鍵はちょっと事情があってな。知り合いがホッチキスのことを話したんだ」
「ホッチキス? うう……ああっ!」
古堂が急に叫ぶものだから、皆が目を彼に視線を集中させた。彼は「あ……いや……」と何も知らなかったように振舞うけれど。
全ての真実を推理した僕の前では無意味。
「お金にはホッチキスは使わないから、他に用意するべきものがあるだろ。札束をまとめるための帯封だ」
「ああ……ああ……」
「それともなんだ? 元々、そんなものはしていない? そんなことをしても、お金を数える必要のある怒りっぽい小山さんを更に怒らせるだけだ。取引なんか中止にされちまうだろうし。帯封がないってことは考えられない」
そこで探偵から推理を妨害する発言が飛んできた。
「おい! でも、帯封を隠しても何の意味もないじゃねえか! その帯封ってのは何処に行ったんだ!?」
そんな彼の言葉を僕の推理で簡単に叩き斬った。
「ええ。その帯封自体に隠した意味はないだろうな。凶器なんかでもないから、指紋が付いても血がついていても、そこに困ることはない。注目するべきは帯封が何故隠されたか、でない。帯封を消える状況があったら、それはどういうものだったのか、だ!」
「ああ……? 消える状況だと!?」
「そうだ。古堂は消える状況を意図せず作っちまったんだよ。そう。逆に考えれば分かる。帯封があったとして、帯封を取ってお金をばらまいた後、それを何処に置くか」
美伊子が僕の意向に沿う返答をしてくれた。
「本物の鞄の中に帯封を入れたってことね。で、お金だけばらまいて、うっかり帯封は本物の鞄に入れて持ってちゃった、と」
そう。だから事件現場に金だけあって、それをまとめるものがないと言う不思議な状況になったのだ。
この事実から導き出される、真実を語ればこの事件は解決だ。
「そう。そこにただの革の鞄が本当の鞄だと思い込ませるために金をばらまいた。そして、本当に隠したかった鞄を何故、持ち出さなければならなかったのか。古堂はその鞄存在そのものが本当の殺意の証明になってしまうと気付いたからなんじゃないのか!?」
探偵がまたしても叫ぶ。
「殺意の証明ってなんだよっ!」
もう大声で責めるだけでしか相手にプレッシャーを掛けることができない奴に屈することはない。
「そう。彼に殺意があった証拠、それはゴツンと小山さんの頭に当てるだけでいいんです。ほら、小山さんの額に切り傷があったでしょう。たぶん、あれがゴツンと当たった証拠です」
「ゴツンとだと……ふざけてるのか……!? ゴツンと何かを当てても、人は普通殺せない。何だ? お前はゴツンと壁に当てるだけで死ぬのか!? それならお前の額を壁に当てて確かめてみるか……!」
探偵の脅迫にも暴力にも屈しない。
「小山さんの場合は死ぬんだよっ!」
「はぁ……!?」
その時、小山さんを知る肥田さんが力強く声を上げた。
「そうよ! あの人、くも膜下出血で倒れたんですもの! どんな理由があったとしても、頭に強い衝撃があれば……! 確かに確実に死ぬかは素人には分からないけど、危険なことは確実よ。硬いもので殴ったってなれば、殺意は証明できちゃうわね……」
「そんなのこの古堂が知らなかった可能性もあるだろ!」
探偵が肥田さんを睨むけれど、彼女は挫けなかった。どうやら僕の意思から、探偵なんか怖くないってことを感じ取ってくれたらしい。
「いや、さっきもそこの少年の『脳の病気のこと』って、確認に応じてたし。最初に彼が少年と話してた時も脳の病気のこと自体は知ってたはずよ……」
探偵はぐぎぎと下がるも、何かに躓いて後ろに転倒した。その何かは、古堂さんだった。
どうやら眼鏡が落ちて探していたらしいが。探偵がぶつかった勢いで踏んでしまったのだろう。レンズがバキバキだ。
困っているところに悪いが、推理で精神的ダメージの追い打ちをさせてもらう。
「たぶんだが、その鞄は硬いもの。それでお金が入ってるとなったら、ジュラルミンケースが考えられる。アンタはその角で小山さんを殴ったんだ! ありったけの殺意を込めてな! 最初の一撃では死ななかったが、そのままよろけた小山さんが本棚に頭をぶつけて死んだ!」
「だ、だから……だから……自分がやったって……」
もうどうしようもなくなり、あたふたする古堂さんに最後の言葉を突き付けよう。
「まだ証拠が必要か!? それなら教えてやる。アンタが道の何処かか、家に置いてきた硬い鞄、または帯封にアンタの指紋が付いてるはずだ。その上、小山さんの額から出た血が付いてるはずだ。拭き取ってあったとしても、遅いぜ。警察はアンタとその鞄の接点を絶対に見つけるはずだ。何処で買ったか、手に入れたか、なんてものもな! さぁ、古堂! 殺人の罪を認めるんだっ!」
二回目。彼は糸が切れた操り人形のように床へ伏せた。またも眼鏡を落とし、切れたレンズが落ちている床を右手で何度も叩く。彼の手から流れる血しぶきが部屋に飛び散る中、彼は顔を真っ赤にして、憎悪の言葉を吐き出した。
「ああ……その証拠、見つかるだろうな……焦って近くの川に捨ててきてしまったから……そうだ……アイツを殺す……小山を殺すことをずっと考えてたさ。あの醜い奴のことをなぁ! 娘の仇を討つためにも、なぁ!」
娘……彼にハンカチを送った娘のこと、か。仇、つまり、亡くなっていると言うことか。
気になった僕は彼へと聞いてみた。小山さんのした悪事のことを。
「小山さんがアンタの娘に何をしたって……殺されでもしたのか?」
「ああ……! あの子に直接手出しをしたんじゃないが、殺したのも同然だ! セクハラ男は強欲も強欲! 最低の悪魔だったんだからなぁ!」
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