幕間

第12話 動き出す女神と小国の王。

 真っ白な空間に、可憐な少女が寝ころんでいた。


「はあ、せっかく私がこの世界の為に勇者を送ってあげようと思ったのに。あの子、口うるさいのよねぇ。世界が停滞するほうが、危ないと思うのだけど。停滞の先にあるのは、緩やかな衰退でしょ?」


 苛立っているのか、体をばたばたさせている、子供の癇癪みたいに。


「それに、見てて全然面白くないもの。確かに前は失敗しちゃったけど、今度は上手くやれるわ!!」


 少女は何かを決意したように、立ち上がった。


「ただどうしよっか、私は人族を管理する神だし、人族に願われなければ、勇者を送ることができない。テキトーに送るのは、あの子との誓約を破ることになってすぐばれる。」


 しばらく悩み、下界をながめていると、


「この国ちょうどいいじゃない!!今のうちに、細工しておこーっと!!」

 



===とある小国の王===

 

「宰相よ、このままでは我が国は、商業国家アーセナルによって、崩壊させられてしまうと申しておったが、どういうことじゃ。」


 宰相とよばれた、初老の男性が、深刻な顔をし王からの問いに答える。


「はい、今後も現在のように、食糧を輸入に依存すれば間違いなく、アーセナルの商人共に食い物にされてしまいます。陛下も、ご存じの通り、我が国は急速な人口増加をしております。」


「うむ、民が増えるのはよいことじゃ。我が国の成長に直結するからの。それがなぜ、我が国の崩壊につながる?」


「先ほども申しました通り、急激な人口増加によって、食糧を自国内で賄うことができず、隣国からの輸入に頼っているのです。そして今後も人口は増え続けていくでしょう。そうすれば今以上に、食糧をアーセナルから輸入するでしょう。」


「ふむ。続けろ。」


「はい。ですが、もし仮に、アーセナルから流入する食糧の価格が吊り上げられる。もしくは、食糧の輸出に条件を付けられたらどうでしょう。」

 

 王はそれを聞き、想定していない事態に驚く。


「なんだと......。」

 

 宰相は、続ける。


「我が国から、多くの資金がアーセナルに流れることになるでしょう。アーセナルと我が国の立場は対等ではなく、食糧という鎖の元に服従を強いられる可能性もあります。それだけでなく、食糧の高騰を皮切りに、急激なインフレーションが起き、収入の少ないものから順に、貧困し飢えます。」


 王はそれを聞き、最悪の事態が頭によぎる。


「そんなことが......。」


「はい、さらに最悪のことに、既に食糧の高騰が始まっております。このままでは、民の不満が国に向いてしまいます。対策として、国庫の食糧、資金を放出し、緩やかに抑えることは可能です。しかし、国庫が尽きれば......。」


 一瞬、あまりのことに狼狽えてしまうが、一国の王として何とか立ち直り、対策を考える。


「わかった、まず、国庫からの支援を許可する。そして、事態を収束させるには、我が国の食糧事情を何とかしなければならないわけだが.......。」


「かしこまりました。食糧事情の改善は、農耕地を増やすしかないでしょう。ですが、我が国は人口が増えているとはいえ小国。領地は狭く、これ以上農耕地を国内に広げても限りがあります。そして周囲を、巨大なグランツ山脈とアーセナル、そして魔族の領域である広大な"ティリアの森"に囲まれております。」


 王は、ある結論に達する。


「まさか、お主は魔族の領域に手を出せとでもいうのか?」


 宰相は、これしかないのだという表情で王に進言する。


「はい。おっしゃる通りでございます。アーセナルは大国恐らく勝てません。グランツ山脈は農耕地に向きません。そうなれば、ティリアの森しかないのです。」


「だが、ティリアの森は、過去、偉大な祖王をはじめとした、優れた先王たちは国土拡大の為に侵攻し失敗しておる。それ故、森を侵すことは、タブーとなっていたはずだ。」


 かつて、この国の王たちは、国の立地故に、背後から襲われる心配がないため領地拡大を目指し、軍事行動をとっていた。だが、森への進軍に限っては幾度となく失敗し、甚大な被害を出し国力が大幅に低下。

 そのすきに、商業国家が樹立される前の国に、大きく攻め入れられ、現在の国土に納まったという歴史がある。


「しかし、残された手立てはありません。迅速に行動しなければ、アーセナルに飲み込まれるか、国ごと飢え死ぬかです。」


 王は、先祖の戒言か、宰相の提案か、どちらにせよ、この国の歴史は大きく動くだろう。そして決断する。


「そうか......。わかった。もう、そんなところまで来ておるのだな......。しかし、我が国の軍事力で、魔族を追い払うことができるであろうか。この立地故に、軍事力はずっと縮小してきたからの。冒険者も、他国に比べとどまっている数は少ないしの。」


 この国の現状では、恐らく、過去の王に倣い甚大な被害を出してしまうだろう。だが、宰相は思いもよらいことを口にする。


「はい、ですので、今回は"勇者"を使います。」


「勇者だと?我が国が勇者を保有していないのは知っておろう。それに、勇者の適性を持つ人物を探すのは、聖国が保有する法具や聖女でなければ無理だ。」


 聖国には、法具と呼ばれる道具が存在する。様々な言い伝えのあるものが多く、その中には勇者を探し出すものもある。また、聖女と呼ばれる女性がおり、高い治癒魔法や強力なスキルを持つ。


「えぇ、存じております。ですので、勇者を"召喚"したいと思います。」


 勇者召喚、その言葉に王は、


「まさか、あの伝説の勇者なのか?何千年も昔、われら人類を魔族から守るために世界を渡ってきたという。そんな存在を、召喚することなぞ、可能なのか?」


「はい、その勇者です。実は作日、長きにわたって調査していた古代遺跡から、多くの文献と、勇者召喚のものと思われる魔法陣が発見されました。我が国の現状とこの大発見は、きっと神の思し召しだと思い。このような報告をさせていただきました。」


「それはすばらしい!!首の皮が一枚つながった思いだ!!だが、此処までもったいぶらずに話してくれればよかったものを。心臓が持たんわい。」


 王はホッと安心し、そのまま続ける。


「して、侵攻までの流れはどうする?勇者という存在は目立つものだ、いらぬ混乱を招かないためにも、筋道はいるとおもうのだがな。」


「では、こうしましょう。まず、現在食糧が高騰してきているのは、魔族による農耕地の襲撃のせいだと表明。そして、民が困窮しないように、国庫から支援をすると宣言する。ただ、そのままではいつかは国庫も尽きてしまうため、魔族を追い払い、新たな土地を手に入れそのちを開拓。そのために、国の威信かけて勇者を召喚する。という流れにしましょう。」


「なるほど、これであれば、魔族に対する国民の不安、怒りを煽り、逆に国は信頼と威光を強めることができるということだな?」


「はい、その通りでございます。この侵攻がうまくいけば、きっと、あなたは賢王とたたえられ、この国の歴史にの強く名を遺すでしょう。」


「うむ、お主の進言あってこそだ。それでは、後は頼んだぞ。」


「承知いたしました。陛下。」


 その後すぐに、国民への情報操作がされ、着々と勇者召喚の準備が進んでいくのであった。






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