第2章 二人の恐怖と後悔
「やっぱり扉に、鍵が付いているのは、当たり前だよな…どうやって入っ…」
信二が、そう呟きながら、門を押してみると、バキッと音がした。信二は、門に付けられていた
――やべっ…鍵を、壊しちまった。うわー、さっき門を見て思ったけど、ずいぶんと
信二は、そのように考えながら、門の扉を開けた…
ギィイイイイイイイ
夜の静かな世界の中では大きい音を響かせながら、門がゆっくりと開いていく。
「よしっ、俊哉……先に進むぞ…」
信二を先頭に、二人は廃病院の敷地内に足を踏み入れるのである。
ガサガサ……ガサガサガサ
「それにしても、ここの庭は、本当に荒れ放題だな。雑草だらけで、凄いことになってるし……くそっ、雑草が邪魔で本当に進みにくいんだけど……わあっ。あっぶなー、もう少しでこけそうになったじゃんか…」
俊哉が、歩いていると…突然、何かに足を掴まれたような感覚がして、転びそうになってしまった。
「おーい。俊哉、大丈夫か。まったく、何…転びそうになってんだよ。雑草ぐらいで足を取られるとかマジで、だせー奴じゃん。俊哉」
信二は、笑いながら俊哉をからかった。
――ほんと、この雑草、邪魔だな!
俊哉は、自分のイライラをぶつけるために、近くの雑草を蹴り飛ばした。その後二人は、今起こった出来事を少しも気にすることなく、進み続けることにしたのである。
――あー。やっと玄関だー。なんか、雑草が邪魔で長く感じたな…
俊哉はそう思いながら、廃病院を見ると、コンクリートの壁の風化や、窓ガラスが割れている状態が鮮明に映し出された…
「うわー!近くで見ると、この廃病院って、マジでボロボロだなっ。そのほうが、肝試しの楽しみが増すから、別にいいんだけどさ」
信二の感想を聞きながら、俊哉は入り口の扉を確認してみた。外門とは違い、ここの鍵は閉まっていなかった。そのため、俊哉は、扉を開いて中に入ることした。
キィィィィィィっという音を立てながら、扉がゆっくりと開いていく。建物の中に入ってみると、埃臭さとカビ臭さが充満していた。何年も放置されていた建物なのだから、仕方のないことだろう…二人は、匂いを我慢しながら進むことにした。
二人がそれぞれ持ってきた懐中電灯を片手に周囲を見渡し始める。玄関には、靴箱があり、その上に飾られていた花瓶には、萎れてカサカサになった花がささったままとなっていた。
その隣には、日本人形が置いてあった。頭上に、大量の埃を被っており、帽子を被っているようにも見えるほどであった。それでも、静かに微笑みを浮かび続け、こちらを見つめ続けてくる姿には、もの凄く恐怖を感じた。日本人形の上には、黄ばんだカレンダーがあり、「1990年」と書かれていた。
「ずいぶんと昔にこの病院は廃院になったんだな…」
俊哉は、カレンダーを見ながらつぶやいた。二人は、土足のまま廃病院の中に入った。
ポタッ……ポタッ……ポタッ……
水滴が、落ちるような音が聞こえてきたため、音の原因を確かめるために、二人は恐る恐るその方向に近づいてみた。音の原因は水道から、水が垂れている音だった。
「なんだ…ただ水道から水が、垂れているだけか…」
それを見た信二は、すぐに興味を失ったようで、別の場所に向かって歩き出した。その時、俊哉は、少しだけ…妙な違和感を感じたが、気のせいだと思って、そのまま先に進むことにしたのである…
その後も、特に何も起こることも無く、ふたりは肝試しを続けていった。そして、二人は、ひとつの病棟の前で立ち止まった。病棟のネームプレートを確認すると……【隔離病棟】と書かれていた。
二人は、先ほど通って来た、他の病棟の病室に入るように、軽い気持ちでそこの病室にも入ってみた。しかし……その病室内は凄まじい光景になっていた…
カーテンは無残に破れ、ベッドもズタズタに引き裂かれていた…壁は、今まで見てきた中で一番剥がれ落ちていた。そして、床頭台の上には壊れて、一生時を刻まなくなってしまった時計が置いてあった……それから、何よりも…
壁に書かれていた赤黒い文字が
『許さない 許さない 絶対に許さない 私をこんなところに閉じ込めたやつらをすべて 私をこんなところに閉じ込めた原因は 家族だ 会社だ 医師だ 違う 周りのやつらすべて 社会が 私を捨てたんだ 私は 社会のすべてを憎みながら死んで行こう 死んで 呪ってやる 私と同じようにすべてを不幸にしてや』
『や』の部分の最後だけ、下の方に線が長く伸びていた。まるで、書いている途中で、こと切れたかのように…
チク……タク……チク……タク……
突如、何かの音が聞こえてきたため、二人は、
「なぁ…俊哉ひとつ聞いていいか、あの時計ってさっきまで止まっていたはずだよな…」
俊哉は、信二の言葉を聞いて、やっと気が付いたのだ…
水道を見た時の妙な違和感について…
――そうだ、ここが、廃病院になったのは「1990年」……この廃病院の水道など、とっくの昔に止められていて、一ミリの水が出ることさえ、おかしい状況のはずなんだ……それなのに……それなのに…先ほど、水道から水が垂れていたではないか!
俊哉は、この時、もの凄く後悔をした。あの時、少しだけでも妙な違和感を覚えたはずなのに…なぜその違和感についてもう少し深く考えなかったのだろうかと…
「おい、信二!ここは、ガチでやばい!今から逃げるぞ!」
俊哉は、そう言いながら、信二の方を向いた。
信二は、顔を青ざめさせ、身体をガタガタと震わせながら、ある一点を指差していた。そちらを俊哉が向くと、何も無いはずの壁に赤黒い文字が浮かび上がってきていた。すべての文章が浮かび終わった内容はこうだった。
【今更逃げることはできない 私の世界の時間が動き出した お前たちは 私が一生追い続けてやる】
ダダダダダダダダダダダダダダダダッ
突然、後ろから大きな音がこちらに近づいてきた。二人は迫りくる恐怖を我慢しながら振り返った。
「ひゃはははははははははは」
童話の山姥が本当に出てきたような風貌の女性が笑いながら、こちらに向かって走り寄ってくるところだった。口元は異様なほど避け、目は飛び出し、服装はボロボロで血まみれだった。手にはナイフが握られていた…
「「わぁああああああ!」」
二人は叫びながら、逃げ出し始めた。その時ふたりは気が付いた…さっきまで病室の中にいたはずなのに、今は、先の見えない廊下を走っていた。走っても、走っても…どんなに逃げようとしても、出口には辿りつくことはできなかった。まるで、終わりがないトンネルのように…
そして、あの恐怖の対象はいつまでも自分たちを追ってくるのであった。そう…いつまでも……
テレビの画面に映っている、ニュースキャスターが、新たなニュースの原稿を読み始めた。
昨日から、○×中学校の群青俊哉君と山高信二君の二名が行方不明となりました。
警察は周囲の捜索にあたっており、警察犬も導入されましたが、すべての警察犬が現在、廃墟となっている
その結果、何者かに鍵を壊された形跡と、二人の指紋が発見されたことが判明しました。しかし、その後の二人の足取りは消えており、この病院内で、二人は何らかの事件に巻き込まれたと想定され、現在その後の行方を追っている模様です。
二人の行方とともに、犯人につながる痕跡を警察が捜査いたしましたところ、病院内に置いてあった日本人形の目が水で濡れており、警察は犯人に繋がる痕跡とみて捜査を続けて行くと報告がありました……
その時、テレビの画面に映った日本人形はとても悲し気な表情を浮かべていた…
終わり……
【あとがき】
読んでくださった皆様ありがとうございました。
最後の恐ろしい怨霊が、登場する前の心霊現象は、二人に引き返すように教えようとしていた優しい幽霊だったのかもしれませんね…
夜の廃病院 ノアのロケット @gurug9uru33
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