夜の廃病院
ノアのロケット
第1章 恐怖への入り口
「行ってきまーす。母さん」
「行ってらっしゃい。
俊哉は、今日もいつもと変わらない朝を迎え、中学校へ向かうために家の玄関の扉を開けて、外に出た。
――俺の名前は、
「よっ。今日は、朝から考え事か?さては、恋の悩み事かな?」
少しだけ制服を着崩している男の子が、俊哉の右肩に手を乗せながら、後ろからひょっこりと現れた。
「いや、明日からの夏休みが楽しみだなーって」
「そうそう。明日からついに夏休み。マジで楽しみだー。今日の授業早く終わってくんねぇーかなー」
一人でテンション高めに、回りだした男の子の名前は、
二人で、普段通り楽しくおしゃべりしながら歩いていると、突然、
「あれ、信二?どうかしたのか?」
突然立ち止まった信二の行動に対して、疑問に思った俊哉は、振り返ってから質問をした。
「いや、いつ見ても不気味だなーって思ってさ。この廃病院…」
「確かに…この廃病院っていつ見ても不気味だよなー。中学校の行き帰りの度に、ここの前を通らないといけないのが、ほんとに嫌になるんだよなぁー。ほんと、早く取り壊してくれないのかなー。多分、持ち主がお金とかの関係で、取り壊せない事情があるのかもしれないけどさ…はっきり言って、こっちは大迷惑なんだよ…」
俊哉も、廃病院に目を向けた後、愚痴を述べた。
「大迷惑をしているか…なるほど……」
信二は、そう呟いてから、黙り込んでしまった。二人は、そのまま一緒に歩き続け、何事も無く中学校にたどり着いた。
それから、休み時間となり、信二が俊哉の元に駆け寄って来た。
「なぁ。今日、学校に行く途中に廃病院の話題になっただろう。それに対して、俊哉は大迷惑してるわけだよな」
信二に突然切り出された俊哉は、少し困惑してしまった。
「えっ。確かにそうだけど、迷惑してるのは、ちょっとだけだって、そこまで気にしすぎることじゃないよ。マジで!」
俊哉は、慌てて両手を振りながら答えた。
「違う、違う。別に攻めてるわけじゃないから。その逆だって、俺も薄気味悪くて、正直嫌だったし。そこで、俺は考えたんだけど…」
信二は、首を横に振りながら答えた後、会話を一時中断して、俊哉の顔色を窺ってきた。
――ああ、これは質問してきてほしいって時の顔だな…
「な…何を考えたんだ…」
――信二は、昔からお調子者で突然、変な計画立てるからなぁ…この流れだと、大体の予想は着くけど…
俊哉は、少しだけ引き気味になって信二に質問をしてあげた。
「肝試しとか、面白そうじゃねぇ。名付けて、『迷惑料代わりに俺たちは無料で肝試しさせてもらうからな』だ」
信二は、両手を腰に当て、自信満々な態度をしながら言った。
――やっぱり、そんなことだろうと思った。それにしてもネーミングセンスがひどい…でも、ここは、気が付かなかったことにしてあげよう…
「あー。肝試しかー。確かに夏休みの定番だもんなぁー。俺も賛成。あの廃病院、めちゃくちゃ、肝試しに向いてそうな見た目してるもんな―。あの存在感は、マジでヤバイ…あの、一度入ったら、出られなくなりそうな感じのところとか…それで、待ち合わせ時間はどうするんだ」
「どうせ明日から、夏休みが始まるんだし、この際、明日決行しようぜ。時間は夜の9時とかいいんじゃないか」
「わかった。明日の夜9時ね。親たちにばれないようにこっそり抜け出さないといけないな」
【肝試し当日、時刻は夜の9時】
俊哉は、両親にばれることなく、自宅からこっそり抜けだして来て、今は例の廃病院の前で信二の到着を待っていた。ちなみに、俊哉は、まだ廃病院の外観は見ないようにしている。理由は、二人で一緒に見たほうが、面白そうだからである。
「ごめん。ちょっと遅れちまった。ちょっと、ばれずに行くのに手間取ってさ。まさか、お前、先に…廃病院を、見てないだろうな…」
「別に遅れたことに対しては、怒ってないから…あと廃病院は、まだ見てないから大丈夫。俺だって、早く見たくてドキドキしているところだよ」
そう俊哉が答えた後、二人は、頷きあった。
「「せーーーーーの!」」
二人が振り返ると、目の前には、廃病院が、静かにたたずんでいた。周りは虫の音しか聞こえず、昼に見たときでさえ、引き込まれそうな感じがしていたのに、その闇が、何十倍になって濃くなっている気がした……
病院の名前は『
「えっ、これはマジでやばくないか!」
俊哉が、廃病院の外観を見て感想を述べた。
「ここって、精神病院だったんだな。だったら、大丈夫なんじゃねぇ。だって、他の病院より、手術とか死んだ人とか少なそうじゃん。俺は逆に安心したかも…」
お調子者の信二は、わくわくした顔を向けながら、感想を述べた。
「確かに、他の病院より幽霊は少なそう…信二の言葉を聞いて、俺もわくわくしてきた。じゃぁ、気を取り直して行くとしますか…」
俊哉が、そう言った後、二人は闇の中に不気味にたたずむ世界へ、足を踏み入れて行くのである。
二人はその後、その浅はかな考えに後悔することになるというのに…
後半へ続く…
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