斧に弓とくれば次はアレ
新学期初日を迎えて、私は2年1組に配属された。校舎前の掲示板に貼り出されたクラス表を見たところ、今年の「当たり」のクラスはやはり2組であろう。
「アイドル美滝百合葉に天才柳橋美綺の黄金コンビに加えて、塩瀬日色、武村美弾、佐伯光のイケメン女子三銃士。泉見棗……うーん、これは」
クセがすごい。なんて某芸人のツッコミめいたセリフが口から飛び出てしまった。だが我が2年1組にも「梁山泊」と謳われたクセモノ集団、旧1年1組出身が何人かいる。良くも悪くも賑やかな一年間になりそうだ。
我が1組の担任は、旧1年2組を担当していた男性教師である。人によって態度を変える節があるという欠点を除けば、至って普通の教師だ。だけど正直言って歴史の
さて、学校が午前で終わった後、私は山岳部の部室に一番乗りをして軽く掃除した後、後輩部員たちと一緒に弁当を食べつつ今年度の方針について話し合った。名目上は運動部にも関わらず、活動内容は文化部という特殊な部活。このねじれを解消するためにそろそろ動こうかと考えているものの、とりあえずは新入生の勧誘について重点的に話し合われた。現在の部員数は私を入れて4名で、後の3名は中等部の三年生2人とニ年生が1人。高等部生は私しかいないので、できれば高等部からの新入生を引き入れたいところである。
結局、話し合いは新入生勧誘だけに費やされて今日の活動は終わりとなった。職員室に行き部室の鍵を返してから、ゆっくりと正門の方まで歩いていく。グラウンドに目をやると、陸上部が練習をしていた。ソフトボール部やラクロス部と共用しているが、今日は陸上部がメインで使用する日のようだ。
私から見て向こう側では短距離走とハードル走の練習が、手前の方では槍投げの練習が行われている。
「ん? あれは」
見覚えのある顔を見つけた。ピョコンと飛び出たアホ毛。もしかして、と思い近づいてみると、やはり彼女、
「あの子、陸上部だったんだ」
さすがに今は縄文服ではなく、ジャージだったが。
前の部員が投擲を終え、ムイが槍を携えて投擲に向かう。だけど何か物凄い違和感がある。そう、彼女が手にしている槍だ。
競技用の槍ではなく、石槍だったのだ。木の棒に穂先を縛り付けただけの、原始的な作り。これで練習になるのだろうか……競技用の槍に比べたら空気抵抗を受けそうなものだけれど。
それでもムイが助走をつけて、小さな体を目一杯使って石槍を投げたところ、綺麗に45度の角度で飛んでいって先程よりも遠いところに突き刺さった。おお、やるじゃない。
ムイはちょこちょこと走って槍を回収し、戻ってきたところで私と目が合った。
「あっ、この前のおねーさんだ!」
私のところに駆け寄ってきて、金網越しに対峙する格好となる。そんな彼女に向かって、
「マンモスでも狩りよるんか?」
また某芸人めいたツッコミをうっかり口から出してしまったのである。
「えへへ、そうだよ。いつもマンモスを仕留めるつもり投げてるの」
「そ、そうなの」
やっぱり縄文人だ、この子は。
「うん。いつもこれで練習してるから競技会で使う槍がすごく軽く感じるの」
アホ毛が生き物のようにぴょこぴょこ動いている。まるで彼女の感情と連動しているようで、面白いし可愛い。
「そういや、おねーさんの名前まだ聞いてなかったや」
「私は河邑撫子、高等部ニ年生よ」
そう答えて、私はムイが何年生なのか知らないことに気がついた。同級生でないことはわかっているし幼い感じがするから後輩だとは思うが、ずっとタメ口で話している。仮にムイが先輩だったら私が失礼な態度を取っていたことになってしまう。
「あなたは何年生?」
恐る恐る聞いてみたら、
「高等部一年の国際科だよー」
「国際科!?」
違う意味で驚いてしまった。今年新設の国際科の入試は定員40名に対して、中等部からの希望者も含めて400名超の応募があり、厳しい競争となっていた。それを勝ち抜いたということは、相当学力が高いようだが。
「わたし、ママがインドで暮らしてる関係でヒンディー語ができるの。入試で作文が出たんだけど全部ヒンディー語で書いたら合格したの」
「そ、そう……」
縄文人なのかインド人なのかわからなくなってきた。
「それはそうとさー、先輩のこと撫子おねーさんって呼んでいい?」
「え」
「わたしのことはムイって呼んでいいからー」
体育会系の部活に属しているくせに、私が先輩だと知っても敬語を使おうとしない。それでも不愉快に感じないのは、どこかほわほわしている雰囲気をまとっているからだろうか。
「わかったわ、ムイ」
「えへへ」
明らかに照れている。体をもじもじさせる仕草がとても可愛らしい。
「可愛い……」
「え?」
「い、いいえ。私何も言ってないわよ」
本音がうっかり漏れてしまった。でも、実際に可愛いからしょうがないのだ。
「こらーっ、ムイ! 何サボってんの!」
陸上部員の怒鳴り声が飛んでくる。
「あっ、いけない。ごめんね撫子おねーさん。わたし練習に戻るから」
「うん、またね」
ムイは戻りかけたが、一旦立ち止まって振り向いた。
「またいつでも遊びに来てよ」
そしてこの笑顔である。その可愛らしさは見ていて胸がキュッとなるほどだが、この感覚を味わうのは初めてでは無かった。
★★★★★
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『先生。恋のQuizが解けません!』(百合宮伯爵様作)
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