Third break

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「イチローに会いに行こうよ!」


「イチロー?」


 ヒュイさんが首をかしげる。


「シャロールの友達のワイルドウルフです」


「え、そうなのか!」

「すごいな、シャロール!」


 驚くのも無理はない。


「元気にしてるかな?」


「そうだな〜」


――――――――――――――――――――


 僕達は、早速ワイルドウルフの生息地に来た。

 キャイアさんにノーブとホープはどこかに行く用事があるとか。


「おっ、あそこにいるぞ」


 ヒュイさんが少し先を指差した。


「え!?」


「ホントだー!」


 え、僕には見えないけど。

 ネコミミパワーか?


「というか、警戒されてるね」

「シャロール、話しかけてくれ」


「うん」


「ガウガウ!」


 すると、向こうも少しずつこちらへ歩み寄ってきた。


「ワオ、ワオ」


 シャロールがそう言うと、狼の群れは頭を下げた。


「そういえば、シャロールは女神だって言われてるんですよ」


「ワイルドウルフにかい?」


 ヒュイさんは目を丸くして訊き返した。


「はい」

「本人は照れてますが」


「そいつはすごいな」


「ワオーウ……」


 あれ?

 なんか、狼達困ってないか?


「どうしたんだ、シャロール?」


 僕が尋ねると、シャロールはこちらを向いて話しだした。


「今イチローは闘いに出てるって……」


「闘い?」


「誰と?」


 人間とかな?


「赤い奴らだって」


「赤い……」


 だけじゃさっぱりわからないな。

 彗星とでも言うのか?


「ね、私達も行ってみよ!」


「それは……危ないんじゃ……」


「佐藤がいるから、大丈夫!」

「ワオーン!」


 シャロールがそう叫ぶと、狼達はどこかに向かって歩き出した。


――――――――――――――――――――


「ここらへんだって」


 しばらく歩くと、森を抜けた開けた場所に出た。


「その……イチローがいるのがか?」


「ガルルルルル!」


 どこからか狼の唸り声が聞こえる。


「あ、イチローだ!」


 え、声で分かるの?

 シャロールはどこかへ走り出した。

 そのまま僕達もついていく。


「イチロー!」


「ワン!」


 イチローはシャロールの顔も見ずに、正面に吠えた。

 なぜなら、目の前にはワイルドウルフとは違う、真っ赤な狼がいたからだ。


 これが闘い?


「ダメー!」


 シャロールはなんの躊躇もなく二匹の狼の間に割って入った。


「こういうところが危なっかしい……」


「そうですね……」


 二人でシャロールの心配をする。


「佐藤君、君が止めなきゃいけないんだよ?」


「わか……」


「「ガウ!?」」


 二匹とも驚いている。


「あれ!?」


 シャロールも驚いている。


「なんで争ってるんだっけ?」


「それをお前が聞くんだよっ」


 僕は近づいて、シャロールの頭を小突いた。

 まったく、本当になんにも考えてなかったんだな。


「そうだった」


 シャロールはかわいく舌を出す。


「えーと……ガウ?」


 狼の鳴き声をシャロールがまねると、二匹ともこちらを向いた。


「ガガガウ!!」


「ガオウ!!」


 なんだ?

 口論してるみたいだな。

 訳ありかな?


「なんて言ってるんだい?」


「えっとね、イチローは勝手に自分達の縄張りに住みついたこいつらが許せないって」


 ほう。


「でも、向こうの赤い狼さんは仕方ないだろって」


「仕方ない……」

「どういうことでしょう?」


 僕はヒュイさんの意見を求める。


「そもそもあの赤い狼はクリムゾンウルフといって、ボルカノン周辺に住んでいるモンスターなんだよ」


「ここにいるはずがないモンスターってことか……」


 僕達が考えている間にも、シャロールは話を続けている。


「わかった、佐藤になんとかしてもらうよ!」


 ん?

 なんで僕?


「ワオーーーーーン!!」


 遠吠えをあげて、クリムゾンウルフはおとなしく帰ってくれた。


「なんて言ったんだ?」


「佐藤が解決してくれるって!」


「ええ!?」


 そんな無責任な……。

 というか、僕に責任が僕にのしかかってる。


「彼はなんでここに?」


「あのね、ボルカノンが暑くなって住めなくなったんだって」


「それではるばるここまで来たのか」


 アイツも大変なんだな。


「ここに住めないなら、なんとかして前みたいにボルカノンを涼しくしてくれって頼まれたから……」


「佐藤君がなんとかすると言ったんだね?」


「うん!」


 な〜るほどね……。


「ずいぶん信頼されてるね」


「困っちゃいますね」


 でもちょっと嬉しい。


「ワウ!」


「わ! イチロー!」


 イチローがシャロールの顔をなめる。


「元気だった?」


「ワウ!」


「そっか」

「私も……」


「ガルル!」


 イチローがヒュイさんに向かって、唸り声を出す。


「あ、イチロー!」

「この人は私のお父さんだよ」


「ガオ!」


「ええ!?」


「どうしたんだい?」


「イチローがお父さんと決闘したいって」


 なんか僕のときもそうだったよね。


「フッ、いいだろう」

「お父さんも血が騒ぐよ」


 ヒュイさんは剣を出して、構える。

 まさかこんなことになるとは……。


――――――――――――――――――――


「君、強いね」


「ワオーウ!」


 ヒュイさんとイチローの戦いはほぼ互角だった。

 僕なんかより、よっぽど強いみたいだ。


「また会おう!」


「ワン!」


 僕達はイチローと別れて、家に帰る。


――――――――――――――――――――


「佐藤君とシャロールはボルカノンに一度行っているんだよね?」


「はい」


「うん!」


 みんなが石になってるときにね。


「どこに泊まってたんだい?」

「知り合いがいたのかい?」


 あー、それは……。


「ガドーのところよね」


「あ、はい。そうです」


 ん?

 なんでキャイアさんが知ってるんだ?


「ガドーってキャイアの……」


「兄貴よ」


「「え!!!」」


 あの人、キャイアさんのお兄さんなのか。


「なるほど、そういうことか……」


 ヒュイさんはニヤニヤしている。


「キャイア、うまいこと言ったみたいだね」


「パッションソードの取得には情熱が必要だと伝説にはあるわよね」


 へぇ。


「あの人ほど、情熱にあふれる人はいないからなー」


 まあ、確かに。


「無事パッションソードが取れたようで、よかったわ」


 うんうん。


「でも、二人は再びボルカノンに行くんだろう?」


 クリムゾンウルフの件でね……。


「またガドーさんのお世話になるのかー」

「頑張ろうな、シャロール!」


「うん!」

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