Second break

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「早く起きなさい!」


「今日はおでかけだよ!」


 ん?


「どこに……?」


「オ・フ・ロ!」


 お風呂?


「いいから早く起きるんだ!」

「シャロール! 佐藤君!」


――――――――――――――――――――


「なんでお風呂に?」


 僕達はみんなで家を出て、どこかに向かっている。


「あの家はシャワーしかないでしょ?」


「せっかくのお休みなんだから、お風呂に入りたいじゃないか」


 そもそも、ファンタジー的なこの世界にお風呂があるんだ。


「ねぇ、どこに行くの?」


「あたしの友人のところさ」

「なんでも銭湯ってのをやってるらしいわ」


 銭湯!?

 このゲームの世界観、ちょっと狂ってるな。


「わーい! 楽しみ!」


「楽しみ!」


――――――――――――――――――――


 うん、一般的な銭湯かな?

 受付……この人番頭っていうんでしょ?

 ここでお金を払って……。


「それでは、まず最初の二人が入ってください」


 最初の二人?


「佐藤君、行ってきな!」


「シャロールもよ!」


「うわ!」


「きゃ!」


 僕達は背中を押されて、のれんをくぐった。


――――――――――――――――――――


 あ……ここは脱衣場かな?

 いや、でも……。


「あれ?」


 普通男女に分かれてて……。


「あれれ?」


 しかもやたら狭いし。


「ど、どどどうしよう、佐藤?」


 シャロールも混乱している。


「あー……あの……あれだ」

「中で男女に分かれてるのかも」


「あー、なるほど!」

「そうかも!」


「とりあえず着替えるか」


「う、うん。そうだね」


 僕は服を脱ぎ始める。


「ねぇ、佐藤。タオルは……キャ!」


 後ろからシャロールの小さな叫び声が聞こえた。

 気になるけど、振り向けない。


「タオルは……持ってきたやつがあるだろ?」


「あ、あーあー、これか〜。あー」


 ちょっと様子がおかしいな。

 しかし、脱ぎ終わった僕はこの脱衣場が気まずかったので先にお風呂へとつながっているだろうドアを開けた。

 きっと、ここで男女に……。


「分かれてない……」


 目の前にあるのは湯船だ。

 それだけで、仕切りなんかない。

 しかも、思っていたよりも小さい。

 家庭の風呂なら普通だが、銭湯にしては小さすぎる。

 なるほど、だから二人までだったのか。

 しかし、こんなところで全裸で立ち止まっているわけにはいかない!

 早く体を洗わなきゃ!

 シャロールが来る前に!


 そう思って、僕はまず頭にシャンプーをつける。

 僕は頭から洗う主義だ。


「痛っ!」


 焦りすぎて、シャンプーが目に入っちゃった!


「どうしたの!? 佐藤!」


 ドアが開く音と同時にシャロールの声が聞こえた。


「きゃー!!!」


 そして、叫び声。

 何!?


「シャロールー! 水かけてくんない!?」


「え!? 何!?」


「目に入って痛いんだけど!!」


「あ!! うん!! わかった!!」


 突然頭上からお湯が降ってくる。


「ありがとう! シャロール!」


「佐藤、大丈夫?」


 心配してくれてる……。


「まだ目がピリピリするんだ」

「開けらんない……」


「そっか……」


「シャロール、先に洗ってても……」


「私が佐藤を洗ってあげるよ!」


「ええ!?」


 マジで!?

 ほどなくして、タオルが僕の背中をこすり始めた。


「気持ちいい?」


 シャロールの声が間近に聞こえる。


「あ、ああ」


 でも、なんかこれってさ。

 あの……そういうお店……?

 みたいじゃない?


「もういいよ! 自分でやる!」

「タオル貸して!」


 僕は恥ずかしくなって、手を後ろに差し出した。


「きゃ!」


 なにかに触れた。

 なんだ?

 この柔ら……。


「ばかー!!!!!」


 僕は洗面器で頭をぶっ叩かれた。


 何事!?


「もう! 私が洗うまで目をつぶってて!」


「はい……」


 頭が痛くて、目は痛くなくなったなー。

 マジで痛え。

 てか、もう洗ってくれないのか。


「私、お風呂入ってるから!」

「見ないでね!」


 え!?

 入るの!?

 見ないでって……。


「僕入れないの!?」


「う〜ん、それじゃあ……」


 頭にタオルが巻きつけられる。


「はい、目隠ししたから入っていいよ」


 なるほど、これで見てしまうことはないと。


「なあ、これどこ? 風呂は?」


 見えないのに入れとは鬼畜すぎる。


「こっちだよ!」


 シャロールが僕の手を引っ張る。


「足上げて!」


 言われたとおり、足を上げて……。

 あ、お湯だ。

 ということは、ここが湯船か。

 もう片足も入れる。


「入っていいよ」


「わかった」


 僕は腰を下ろす。


 はあ〜温かい〜。

 お風呂って入ったときに幸せを感じるよね〜。

 僕は底に手を……。


「あれ?」


 硬い湯船だと思ったんだが、なにか柔らかいものが手に当たる。


 この……これなんだ?

 スベスベしてて、細長い。

 感触は……ぷにぷにしてる。


「気持ちいい……」


 なんでお風呂の中にこんなものがあるのかはわからないが、とにかくさわり心地がいい。

 なんだろう……アヒルのおもちゃみたいなものか?

 いやでも、底に沈んでるよな。


「ん……!」


 シャロールの押し殺した声が聞こえた。


「どうした、シャロール?」


「なんでもないよっ!」

「ふふふっ!」


 なんで笑ってるんだろ。


「佐藤、ちょっと手上げて」


 手を?

 よくわかんないけど、上げてみる。


「私、先に上がるね」


 シャロールは湯船を出た……と思う。

 だって、水が揺れてるし。


「シャロールー! もう下ろしていい?」


「あ、いいよ!」


 なんだったんだろ。


 さらに、僕が手を下ろしたときには、さっきまであった柔らかいものは消えていた。


 今日はわかんないことばっかりだな……。


――――――――――――――――――――


「なんで私と佐藤なの!?」


 キャイアさんとホープが入っている間に、僕達は待合室でヒュイさんに詰め寄る。


「そうですよ!」


 すると、ヒュイさんは笑った。


「嫌だったかい?」


「いや……? う〜ん……?」


 シャロールはまじめに悩みだした。


「ちゃんと理由はあるんだよ」


「え?」


「今回一番頑張ったのは君達だろう?」

「だから、ゆっくり入っていてほしいと思ったんだよ」


 なるほど。

 でも、それなら……。


「お母さんとでもいいじゃん!」


 そうそう。


「そしたら、ノーブとホープの面倒を見る人がいなくなって危ないだろ?」

「お父さんとお母さんがノーブとホープの世話をする。そして、君達は二人きりでくつろぐ。完璧な計画だ」


「「……」」


 言われてみれば、そうかもしれない。


――――――――――――――――――――


「今日は楽しかったね!」


 楽しかった?

 そういえば……。


「まだ頭が痛い……」


「え……! ごめんね……」


 冗談半分で言ったことをシャロールは真に受けたようで、ションボリしている。


「なでてくれたら、よくなるかも」


 僕は調子に乗って、こう言った。

 すると、シャロールはこれも本気にしたようだ。


「よしよし、早くよくなってね」


 何度も頭をなでてくれた。


 幸せ〜♪

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