A Break Again (再び小休止)

First break

 =Now Loading=


「シャロールに佐藤君」


 ヒュイさんが朝ご飯を食べている僕達に話し始めた。


「なに?」


「なんですか?」


「今日はギルドに来てもらいたいんだよ」


 ギルドに?


「どうして?」


「今回の事件について一番よく知ってるのは君達だろう?」


「はい……」


 ということは、これって事情聴取?


「詳しい話が聞きたいんだよ」


「わかりました」


 こうして、僕達は朝からギルドに行くことになった。


――――――――――――――――――――


 ギルドの応接間でトルさんと向かい合う。


「トワイルが残していった報告書を読んだら、大体はわかったが……」


 が?


「一番要……お前がどうやってロイエルを倒したかを教えてくれ」


 トワイルさんが帰った後だもんね、それは。

 僕達以外は誰も知らないわけだ。


「トルさんが日報に書いたように、パッションソードを取りに行きました」


「あ、あれ読んだのか」


 トルさんはちょっと照れている。


「だが、お前がパッションソードを……」


「取れました!」


 どうも信用されてない。


「へぇ、そいつはすげぇ」

「でもまあ、あん時も熱くなってたからな」


 あん時?

 いつだろう。


「佐藤、すごいんですよ!」

「大っきな声で『シャロール!』って……」


「ちょっ、恥ずかしいじゃん」


「へぇ〜」


 ニヤけ顔のトルさんをごまかすために、話を進める。


「クロイムの活躍もあって……」


「クロイム?」


 そうか、トルさんはクロイム知らないのか。

 ええと、クロイムは……。


「シャロールの……」


 なんだ?


「お友だち!」


「……のダークスライムです」


 さすがにギルドに連れて行くのは危ない気がしたので、今日は置いてきたけどね。


「で、そのクロイムがどうしたって?」


「クロイムのおかげで操られたシャロールを戻せたんです」


「どうやって?」


 説明するのが難しいな。


「クロイムがシャロールの中に入って……」


「なるほど!」


 何がわかったんだ?


「スライムは人に寄生できるんだよ」


「そうなんですか!?」


 衝撃の事実に僕は驚く。

 そんな危険なモンスターなのか。


「大抵はその前に殺られるがな」


 スライムって弱いから?


「つまり、クロイムは自身の能力で隷属魔法を上書きしたのか」


「そうみたいです」


「は〜、スライムってすごいな」


 僕もそう思う。


「それで、ロイエルはどうなった?」


「なんか……でっかいトカゲみたいなのになって……」


「伝説でもそうだな」


 へー。


「そいつを……頑張って斬りました」


 なんか、うまく言葉にできないんだよね。

 パッションソードでズバーって感じ。


「フッ、そうか。わかった」

「それじゃあな」


「ありがとうございました」


 僕達は部屋を出……。


「ちょっと待った」


「なんですか?」


「ヒュイに伝えてほしいことがある」


 ヒュイさんに?


――――――――――――――――――――


「休暇ですって」


 僕は家に帰ると、ヒュイさんに伝言を伝える。

 トルさんが最後に言ってた。


「休暇?」


「スロウタースコーピオンの件も解決のメドがたったし、魔王幹部も倒したし、なにより……」


「なにより?」


「頑張った僕達に何もあげられないから、せめてどこかに連れていってやれって」


「なるほど……」


 トルさんの気遣いがありがたい。


「それじゃあ、久しぶりにキャイアに会いに行くか!」


 ケスカロールに帰るってことかな。


「私達はこの前会ったけどね」


「え?」


「なんでもないです!」

「早く準備しましょう!」


――――――――――――――――――――


「クロイム、どうしたの?」


 いつもより激しく動いている。


「ふんふん」


「なんて言ってるんだ?」


「そろそろ帰りたいってさ」


 そうか、クロイムの家族も石から戻ってるだろうしな。


「よし、それじゃあ行ってくるか!」


「お父さんは荷物をまとめてるから、早く帰ってくるんだよ〜」


「はーい!」


――――――――――――――――――――


「久しぶりに帰るな〜」


 馬車に乗ると、ヒュイさんは嬉しそうに言った。

 確かシャロールが子供のころなんだよね、ケスカロールにいたのは。


「シャロールが旅立った今、キャイアは一人で……」


「あ……」


 ヒュイさん、知らないのか。


「どうしたんだい?」


「あのね、今はノーブとホープがいるの」


「ノーブとホープ?」


「話すと長くなるんですが……」


 ちょうど暇だったから、いっか。


――――――――――――――――――――


「そんなことがあったんだね……」


 ヒュイさんは僕達が話し終えると、口を開いた。


「シャロール、辛かったね」


「うん……」


「そして、佐藤君」

「シャロールを……いやみんなを救ってくれてありがとう」


「いえ、礼には及びません」

「だって、僕は……」


 僕は自分が生きるためにそうしたのであって、本当に助けたかったのかは自分でもわからない。


「理由はどうあれ、佐藤君の行いは正しかった、それで十分じゃないか」


「ヒュイさん……」


 その言葉に少し救われた気がする。


「ヒュイさんにはお世話になってばっかりですね」


「まだまだ子供なんだから、大人の世話になるのは当たり前だろ?」

「これからもどんどん迷惑をかけなさい」


「もー! なに言ってるの、お父さん!」


 シャロールが大声で笑った。


――――――――――――――――――――


「お母さんー!」


 幸いキャイアさんは家にいたみたい。

 シャロールはお母さんの姿を見ると、駆け寄った。


「久しぶりだね、シャロール」

「と言っても、この前会ったけどね」


「キャイア! 元気だったかい?」


 ヒュイさんも駆け寄る。

 この親子は本当に仲がいい。


「もちろん、元気さ」


「晩ごはんの準備をしないとノーブとホープが怒るから、離れなさい」


「はーい!」


――――――――――――――――――――


「なんだか、にぎやかになったな〜」


 部屋をぐるりと見渡したヒュイさんが楽しそうに言った。


「子供が三人も増えたからね」


 僕も入ってる?

 というか、そろそろ……。


「僕、出ていきましょうか?」


 狭くなっちゃうし。


「佐藤さんは……」


「ダメー!」


 シャロールが大声で叫ぶ。


「あはは、佐藤君はシャロールに気に入られてるみたいだね、羨ましいな」


 なんか……照れる。


「……そうみたいです」


「いずれは結婚かい?」


「「ブー!!!!」」


 僕とシャロールは勢いよく吹き出した。

 今、なんて!?


「お前ら、汚ーぞ」


「汚い」


「ごめん、ごめん」


「お母さんが変なこと言うんだもん」


「ホントにこういうところが昔のあたし達に似てるわね〜」


「そうだね、キャイア」


 二人は顔を見合わせて、いたずらっぽく笑っている。


 他人事だと思って!


――――――――――――――――――――


「誰がリビングで寝るか」


「布団は持ってきたよ!」


 そう、布団はある。


「あたしはノーブとホープと一緒にベッドに寝るわ」


 前もそうだったね。


「それじゃあ、お父さんと寝るのは誰だい?」


「「……」」


「まさか、二人共私と寝たくない?」


 ヒュイさんは手で顔を覆って、泣き始めた。


「違うの、お父さん!」


「そうです!」


「あの……別に……これは……」


「いいんだよ、二人で寝なさい」

「お父さんは狭いから、リビングで寝るよ」


 ちょっとした罪悪感を感じながら、僕達はしょんぼりしているヒュイさんの背中を見送る。


「佐藤、早く寝よ」


「ああ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る