Fifth passion

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「よし! 出発だ!」


「うん!」


 今日は魔王幹部ロイエルと決着をつける日だ!

 絶対に負けられない!


「シャロールは……来なくてもいいんだぞ?」


 危ないからね。


「なに言ってんの!」


 シャロールは目を釣り上げた。


「私がいなかったら、佐藤はクロイムにも負けちゃうくらい弱いんだから!」


 それは言い過ぎ……。


「早く行こ!」


――――――――――――――――――――


「そう言えば、クロイムも連れて行くのか?」


「うん、クロイムだけお留守番はかわいそうじゃん」


 死地に連れて行かれる方がかわいそうじゃないか?


「まあ、いっか」


 仲間は多い方がいい。


――――――――――――――――――――


「あれ、開いてる」


 僕達は秘密の門の前に来た。

 前に来たときは閉まってたのに、なんでだろ。


「歓迎してくれてるんだよ!」


 んなわけあるかい!


「まあ、とりあえ……うわ!」


 なにかが僕の横を通った。


「きゃー!」


 そして、後ろから叫び声が聞こえた。


「シャロール!?」


 振り向くと、シャロールはモヤに囲まれていた。


「ハッハッハ! バカなやつよ!」


 この声……!


「この小娘はもう手おくれよ!」


 まずい……。

 隷属解除ポーションはもうない。


「ここではスキルも使えないぞ」


 為す術なしだ。


「さあ、どうする?」


 今回はなかなか攻撃をしてこないな。

 きっと勝ちを確信しているんだ。


 なめやがって……!


 けど、事実僕にはもうシャロールを助けることはできない。


 あるいはシャロールを……。

 そんなこと……できるかよ……!


「さあ、ここで力尽きるまで戦い続けるがいい」 


 シャロールがクロイムを床に投げ捨て、剣を抜く。


「死ね……!」


 そうつぶやいて、シャロールは僕に斬りかかった。


 ガキィ!


 受け止めることはできる。

 僕だって、強くなったんだから。

 でも、ここからどうすることもできない。

 しょせんこれは最後の悪あがきなんだ。


 誰か、あと一人仲間がいれば……!

 アイツを倒せたかもしれないのに……!


「そうだ!」


 僕はシャロールの剣を弾き、移動する。


「何をしても無駄だよ、勇者」


 ふん、それはどうかな。


「逃げるな……!」


「おっと!」


 再びシャロールの剣を受け止める。


 よし、無事ここまで誘導できた。


「クロイム、今だ!」


 僕が声をかけると、足元にいたクロイムは足を伝って、シャロールの体を上っていく。


「ん……!」


 シャロールの顔に一瞬表情が戻る。


 今だと言ったものの、クロイムが何をするのかはわからなかった。

 だから、これは賭けだったのだが……。


「んんー!」


 クロイムはシャロールの顔をおおって……何をしている?


「あ!」


 シャロールの口から中に入っているのか……!

 クロイムの体が小さくなっていく。

 入っていっているのだろう。



「あ……」


 全部入ったな。

 どうなる?


「クソ! なぜ動かん!」


 ロイエルの焦った声が聞こえる。

 それじゃあシャロールは。


「うわ!」


 満面の笑みだ。

 いや、これはクロイムの表情なんじゃないか?


「アーアーアー、エーウー」


 シャロールは変な声を出している。


「どう……だ、クロイム?」


「イマダケ、シャロール、カリル」


 これはクロイムだな。


「一緒にアイツを倒そうな!」


「サトウ、キョウリョク、シテヤル」


 なんかちょっと生意気だけど、この際どうでもいい。


「貴様、何をした!」

「ええい!」


 またしても、モヤがシャロールに襲いかかる。


「させるか!」


 すかさず、僕はモヤを真っ二つに斬る。


「ぐわぁー!」


 ロイエルの叫びが洞窟に響く。


「その剣は……!」


 知ってるのか?

 そうか、前の勇者を思い出しているのか。


「やむを得ん……!」


 すると、目の前に大きな影が……。


「これは……」


 リザードマンだ……!


 僕よりも頭一つ高い身長のモンスター。

 人型だが、トカゲのウロコがある。

 こういうの、リザードマンっていうよね?


「くたばれ!」


 巨大なカギ爪が僕を切り裂こうと迫る。


「遅い!」


 僕はなんなくかわす。

 こんなのガドーさんの竹刀に比べたら……!


「でりゃあ!」


 僕はヤツの体に剣を叩きつける。


「あれ?」


 剣はヤツの体を斬ることはなく、止まってしまう。


 どうして斬れないんだよ!

 伝説の剣じゃないのかよ!


「どうやら不調のようだな」


 見上げると、ロイエルはニヤリと笑っていた。


「安心しろ、あの小娘は俺がかわいがってやるよ、一生奴隷としてな」


「……」


 僕はロイエルのこのセリフを聞いて、ファイヤーマンとの闘いを思い出した。

 そうだ、あのときは僕の熱意に反応して、パッションソードが現れたじゃないか。

 きっとパッションソードの力を引き出すには……!


「シャロール!」


 僕は彼女の名前を叫ぶ。


「何を言っている?」


「シャロール!!」


 そう、彼女を守りたいんだ。


「ふん、気がふれたか」


「シャロール!!!」


 僕の情熱に応えてくれ。


「サトウ、ガンバレ」


「すぐに楽にして……なんだ!?」


 パッションソードが閃光を放つ。

 真っ暗な洞窟にいた僕は一瞬目がくらむ。

 しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない!


「くらぇー!!!」


 僕は握りしめたパッションソードを思いっきり振る。

 すると、パッションソードからものすごい炎が上がった。


「グオーー!!」

「あ、熱い!!」


 ロイエルはそう言い残して、消えてしまった。


「僕の情熱でやけどしたようだな!」


 洞窟に沈黙が訪れる。


「サトウ、スベッテル」


「うるさい!」


――――――――――――――――――――


「えー!? そんなことがあったの!?」


 元に戻ったシャロールにさっき起こったことを話す。


「ああ、そうだよ」

「クロイム、今日はありがとな」


 僕はクロイムをなでてやる。


「クロイム、ありがとー」


 シャロールもクロイムをなでる。


 クロイムは嬉しそうに躍動した。


――――――――――――――――――――


「着いたー!」


 やっとホロソーに……。


「シャロール!」


 ヒュイさんが駆け寄ってきた。

 どうやら石化は解除されたようだ。


「どこに行ってたんだ!?」


「あ、あのね」


「詳しい話は家に着いてからでいいですか?」


 僕はもう疲れたから、家に帰りたい。


「わかった」


 ヒュイさんはなぜかすんなり納得してくれた。


――――――――――――――――――――


「それでパッションソードでロイエルを倒して……」


「佐藤君、すごいじゃないか!」


「その後、クロイムをシャロールから出して……」


「どうやって?」


 シャロールが興味津々で聞いてくる。


「どうって、僕がシャロールの口に指突っ込んでゲ……」


「やっぱりその話はやめなさい、佐藤君」


 ヒュイさんに止められてしまった。


「ところで、パッションソードはどうやって手に入れたんだい?」


「パッションソードは……ボルカノンで……ファイヤー……」


「佐藤君?」


「寝ちゃったみたい」


――――――――――――――――――――


「今日はお疲れ様、佐藤」


 どこからかシャロールの声が聞こえる。


「ありがと……シャロール……」


「え!? 起きてるの!?」


 眠い。


「佐藤の声、私に届いたよ」

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