Fourth passion

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「今日でお前は卒業だ!」


 僕が道場に入ると、ガドーさんは唐突に告げた。


「え!?」


「俺が教えることはもうない!」

「早く出ていけ!」


 そんな……!


 短い付き合いだったし、ぶっちゃけ怒られてばっかりでこの人のことは嫌いだったけど、いざ別れるとなると……。


「師匠、僕にもっと……なにか教えて下さい!」


 僕は頭を下げて、頼んでみた。

 ちょっと頭を上げて、師匠の様子を見る。

 師匠は最初あっけにとられていたが、満足そうな顔になった。


「……そこまで言うなら、奥義を教えてやろう」


 おっ、なんだろう?


「これは剣を使わん」


 使わない……。


「しかし、重要なことだからよく覚えておくんだぞ」


「はい!」


「お前の情熱を言葉に込めろ!」


 ん?


「今お前が一番大切にしている者の名を叫ぶんだ!」


 名前を……叫ぶ……。

 なんかデジャヴ……。


「そうすれば、無限の力が得られるだろう」


「無限の……」


「感心してないで、早くやらんか!」


「痛っ!」


 やっぱり叩かれた……。


 やればいいんだろ!


「シャロール!」


「もっとだ!」


「シャロール!!」


「いい線行ってるが、まだだ!」


「シャロール!!!」


「昨日みたいに出してみろ!」


「シャロール!!!!」


 うん?

 昨日みたいに?


「もっとだ!」


――――――――――――――――――――


「そろそろ時間ですよ〜」


 時間?

 お昼ごはんの?


「どうやら出発のときみたいだな」


 そう言って、師匠は道場を出ていった。

 僕もそれについていく。


 出発ってなんだろう?


――――――――――――――――――――


「佐藤、これ持って!」


「あ、ああ」


 いつものように、お昼ごはんを食べようと思っているとシャロールが現れて僕に何かが入った包みを渡した。


「もー! 佐藤、早く行くよ!」


 シャロールは僕の手を引っ張って家から連れ出した。

 なにがなんだかさっぱりわからない。


「お世話になりましたー!」


「お、お世話になりました……?」


 なんだ?


「なぁ、どういうことだよ?」


「サラサさんがもう帰りなさいって」


「……なんで?」


 追い出されたのか?


「目的のモノはもう手に入れたでしょって言ってた」


「目的の……モノ……?」


 そもそもなんでここに来たんだっけ?


 確か魔王幹部ロイエルを倒すために……。

 パッションソードを……。


「あー!!!」


「うわー! どうしたの、佐藤!?」


「もう目的達成してんじゃん!」


「そうなの?」


「ああ、昨日ボルカノン火山でパッションソードを手に入れたんだよ」


「えー! 佐藤、すっごーい!」


「だから……」


「あ! あれだよ!」


「え?」


 目の前には馬車がある。

 これで帰るのかな?


「ガドーさんの紹介で……」


「おっ、君達がシャロールちゃんと佐藤君だね」


「はい!」


「早く乗りな!」

「日が暮れる前に着かなくなるぜ!」


「はーい!」


――――――――――――――――――――


「お腹減った……」


 昼飯食ってない……。


「そのためにそれがあるんだよ!」


 シャロールは僕が持っている包みを見た。


「これなんだ?」


「サンドイッチ!」


 あー……これお弁当だったのか。


「でも、これ、固くって開かないんだけど」


 ひもがめっちゃ固く結ばれている。


「もー! 私が開けてあげるよ!」

「クロイム持ってて!」


 シャロールは僕にクロイムを押しつけて来たので、受け取る。

 すると、シャロールは包みを引き取って開け始めた。


「ほら! 開いたよ!」


 シャロールの言っていたように、中にはおいしそうなサンドイッチが入っている。


 開いてよかった……。

 でも……。


「これじゃあ、食べれない……」


 クロイムを持ってるから。

 とりあえず。


「クロイムを床に置いて……」


「ダメー!」


 えぇ……。


「私が食べさせてあげるから!」

「クロイムは佐藤が持ってて!」


「え!?」


 思わぬ展開に僕は驚く。


「はい、あ〜ん!」


 シャロールはサンドイッチを片手に持って、僕の口に入れようとしている。


 なんか……恥ずかしい……。


「あ、あ~ん……」


 仕方なく僕は口を開ける。

 ほどなくして、口にサンドイッチが入れられた。


「どう?」


「うん、おいしい」


「ヤッター!」


 シャロールは両手を上げて、喜んでいる。


「これ、私が作ったんだ!」


 そうなのか。


「どうりでおいしいわけだ」


「ふふふっ、ありがとう!」


「クロイムもあ~ん!」


 シャロールが手を差し出すと、クロイムはシャロールの手ごと取り込む。


「もう! それは私の手!」


 シャロールが怒ると、クロイムは手だけ吐き出した。


「クロイムは食いしん坊なんだから!」


 クロイムはシャロールにつつかれる。

 ……なんだか、クロイムに嫉妬しちゃう。


「シャロール、のど乾いたんだけど」


「わかった!」


 シャロールは首から下げた水筒の蓋を開ける。


「はい、あ~ん!」


「あ〜……ぶっ!」


 馬車が揺れて、シャロールは中に入っている水を僕の顔にぶちまけた。


「あ! ごめん!」


「いいよ、いいよ」

「わざとじゃないんだし」


「佐藤は優しいね」


「う、うん」


 優しい……。

 そんなこと言われたら照れちゃう。


――――――――――――――――――――


「もうすぐ着くぞ〜」


 そろそろかな。


「シャロール、起きろよ〜」


「んえ?」


「着いたって!」


「まだ眠い……」


 そう言って、シャロールは再び目を閉じた。


 どうしよう。


「よし、着いたぞ〜」


「しょうがない……」


 僕はシャロールをおんぶする。


「ありがとうございました〜」


「はいよ〜」


 そして、馬車を降りる。


――――――――――――――――――――


「ただいま〜」


 といっても、誰もいない。


「あれ?」


 テーブルの上になにかある。

 けど、その前にシャロールを寝室に。


「おやすみ、シャロール」


 ベッドに寝かせてあげる。


 ホント、僕がこんなに苦労してるのに幸せそうに寝やがって。


「この〜」


 僕はシャロールのほっぺをつつく。


「んへへ〜」


 幸せそうな笑顔はすごく癒やされる。


「かわいいやつめ……!」


 僕はそうつぶやいて、寝室を出る。


 さて、テーブルの上の紙はなんだろう。


「ええと……」


「この手紙を読んでいるということは、無事パッションソードを手に入れたようね」


 この話し方……キャイアさんかな?


「魔王幹部を倒すなんて、こう言っちゃ悪いけどあなたにできるとは思えないわ」


 ……自分でもそう感じている。

 今の自分で大丈夫なのかな。


「だからこの回復ポーションはあたしからの餞別よ、頑張るのよ」


「キャイアさん……」


 僕はちょっと感動して、涙が出てきた。

 こうやって応援してくれる人がいるんだ。


「よし、頑張ろう」


 なんとかなる……はず!


――――――――――――――――――――


「佐藤、ご飯」


 眠っていた僕はシャロールに起こされた。


「んん?」


「ご飯食べたい」


「……」


 シャロール?

 ご飯?


「あー……」


 確かシャロールが気持ちよさそうに寝てるから、起こさないで僕だけ食べたんだった。


「早く起きて」


 んなこと言われても。


「僕は……眠いの……」


「むぅ~……」


 てか、シャロールって自分でご飯作れるでしょ?

 僕が作らなくてもいいじゃん。


「おやすみ……」


「あ……!」


「佐藤の作ったご飯が食べたかったのに……」

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