Hot Passion (熱い情熱)

First passion

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「それじゃあ、気をつけて行くんだよ」


 キャイアさんが町の入口で僕達を見送る。


「はーい!」


「わかりました」


「くれぐれも怪しい人に……」


「もー! わかってるって!」


「早く乗らないと日が暮れるまでに着かないぞ〜」


 御者のおじさんに急かされて、僕達は馬車に乗り込む。


「それじゃあ、行ってきます!」


「お母さん、バイバーイ!」


「何かあったらいつでも言うのよー!?」


 こうして僕達は次の町へ向かう。


――――――――――――――――――――


「シャロール、暇だな」


 前も思ったが、移動中って暇なんだよね。


「うん、なにする?」


 とはいうものの、何か……。


「あ!」


 シャロールが抱えているクロイムを見て、思い出した。


「そういえば、クロイムってなんで石化してないんだろうな」


「訊いてみる?」


 シャロールがクロイムと話し始める。

 それでわかればいいんだが……。


「わかんないって」


 そうか……。


「ダークスライムは石化しない……とか?」


 シャロールが再びクロイムと話すが……。


「知らないって」


 これじゃあ埒が明かないな。


「そういえば、クロイムってあそこにいるときはなに食べてたんだ?」


 確かなんでも食べるんだよな。


「そこらへんに生えてたキノコだって」


「なるほどね〜」


 わざわざ言うってことは特に食べてたんだろうな。

 あそこにはキノコがいっぱい生えていたし。

 でも、あそこのキノコって毒治しとか麻痺治しの原料だろ?

 そんなの食べて、大丈夫なのかな。

 混ぜるな危険だったり……。


「あ!」


「今度は何?」


「それだよ!」


「それって?」


「キノコの効果が混ざって石化解除になったとか?」


「そんなバカな〜」


 シャロールは馬鹿にするようにニヤニヤ笑っている。


「そうかな……?」


 ありえると思うんだけど。


「いつかわかるといいな〜」


 そこで話が終わってしまい、再び沈黙が訪れる。


――――――――――――――――――――


「なんか暑くないか?」


 日本の夏ぐらいの気温になっている気がする。

 汗がにじみ出る。


「うへぇー……」

「こんなに暑いの初めてー……」


 確かにシャロールはそうかもしれない。

 だって、ケスカロールは一日中快適な気温だったから。


「大丈……」


 夫じゃないな。


 シャロールの服は汗でビショビショになって、肌にはりついている。

 このままにしておくわけにはいかない。


「シャロール、クロイムでも抱いてたらどうだ?」


「なんで?」


「こいつ、ヒンヤリしてて気持ちいいぞ〜」


「そうだね!」


 シャロールはもとから抱えていたクロイムをさらに自分のもとに抱き寄せる。


 よし、これで一応隠すことはできた。

 目のやり場に困ることはないだろう。


 それにしても、あんなにキツく抱きしめるなんてクロイムがうらやま……かわいそうだ。


「君達〜、もう着くよ〜」


 そんな声が前から聞こえた。

 もしかして、暑いのってボルカノンに近づいてるから?


――――――――――――――――――――


「佐藤、まずは何する?」


 僕達は町の入口に立って、しばらく考える。


「とりあえず、ギルドに……」


「お前らぁ!」

「勇者佐藤とその恋人シャロールか!?」


 町の方から大声で名前を呼ばれた。


「「え?」」


「今日からお前らは俺のところで暮らせ!」


 ここボルカノンの気温と同じくらいあつ苦しい勢いで、謎のおじさんは近づいてくる。

 その髪は炎のように真っ赤でこれまた熱苦しい。


「だ、誰ですか!?」


「どうして私達を……?」


「いいから来い!!!」


 そのまま僕達の腕を掴んでどこかに連れて行く。


 僕は彼の気迫に圧されて、抵抗するのを忘れてしまった。


――――――――――――――――――――


「今日からお前はここで俺と修行をしろ!」


 そう言って、おじさんは目の前のこれまで見た家より一回り大きい家に入っていく。


「「え!?」」


「早く来い!」


 おじさんの怒鳴り声が中から聞こえる。


「シャロールちゃんはこっちよ〜」


 今度は誰だ?


 声のする方を見ると、おじさんが入った入口とは違う入口がもう一つあり、そこから優しそうなおばさんが手招きしている。


「なんでシャロー……」


「お前はこっちだってんだよ!!!」


「うわ!」


 中から伸びた腕に引き込まれた。


 家の中は道場みたいな板張りの床が一面に広がっている。


 ということは、向こうが家なのかも?


「よそ見してんじゃねぇ!」


 バシィ!


「痛っ!」


 僕は竹刀で叩かれる。


「もう一度言う!」

「今日からお前にはここで修行をしてもらう!」


 道場を震わせるくらいの大声でおじさんは叫ぶ。


「どうしてですか?」


 バシィ!


「痛っ!」


 二度もぶった……!

 親父にも……。


「強くなるために決まってるだろうが!」


「強くなる……」


 別にそんなに急いで強くならなくてもいいのでは?

 そう聞きたかったが、おそらく殴られるので黙っておく。


「グダグダ言ってないで、夜飯まで素振りだ!」


「そ、そんな……」


 理不尽だ……。


――――――――――――――――――――


「二人共〜ご飯よ〜」


 外からおばさんの声が聞こえた。


「よし!」

「今日のところはこれまでにしてやる!」


「は、はい……」


 死ぬかと思った。

 腕が上がらない……。


「早く来ないと冷めちゃうよ〜、佐藤〜」


 シャロールの声だ!


 マイエンジェル〜!


――――――――――――――――――――


「あの~」


 僕は夕食のときに訊いてみた。


「名前を教えてくれませんか?」


「俺の名前はガドーだ」


 ガドーさんね……。


「なんでこんなことを……」


「お前に根性が足りないからだ!」


 根性……。


「助けて〜シャロール〜」


「さと……」


「さっさと飯を食え!」

「この後も修行だぞ!」


「ええ〜!?」


 ここは地獄か〜!?


――――――――――――――――――――


「シャロール……」


 寝てる……。


 もう夜中だから仕方ないか。


「今日は疲れたよ……」


 一方、シャロールは気持ちよさそうだ。


「なぐさめて欲しいよ〜」


 そんなこと言っても、シャロールは寝てるので何も言ってくれない。


「寝るか……」


「おやすみ、シャロール」

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