Fifth statue

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「今日は森に行ってみないか?」


「どうして?」


「あそこにはいっぱい役に立つキノコが生えてるだろ?」


「うん」


「これから旅に出るなら、それを使うときが来るかもしれないからな」

「備えあれば憂いなしだ」


「う〜ん、そうだね」


 まあ、本音を言うとキノコだけじゃ、あまり効果は出ないんじゃないかとは思ってる。

 けど、ないよりはましだろう。


 それに……。


「森のイノシシさん、大丈夫かな?」


 そう、森のモンスターも気になる。


「それを確認するためにも、早く行こうぜ、シャロール」


「わかった!」


――――――――――――――――――――


「おーい!」


「イノシシさーん!」


 返事がないな……。

 いや、そもそもモンスターは返事なんてしないか。


「やっぱり石になってるのかな?」


「うーん」


 その場合、見つけるのは非常に困難だ。

 もともとイノシシってのは、森の中に溶け込むような毛色だし、動いてないとなるとなー……。


「先にキノコを採りに行くか」


「……」


「また後で来ような」


 僕はしょんぼりしているシャロールを引っ張って森を進む。


――――――――――――――――――――


「ねぇ、佐藤」


 しばらくキノコを採っていると、シャロールが僕に声をかけた。


「なんだ?」


「あの門は何?」


 シャロールが指差している方には……。


「あー、あれは……」


 確か聖なる泉への道だよな。


「行ってみるか?」


「うん」


 シャロールも興味津々だ。

 僕達は門に向かって、歩を進める。


――――――――――――――――――――


「本当は門番がいるんだが……」


「石になっちゃってるね」


 目の前にはあくびをしたまま石になっている人がいる。

 どうやら石化魔法の効果を受けているのは町の中の人だけではないらしいな。


「勝手に入っちゃうか」


 僕がシャロールにニヤリと笑ってそう提案すると、シャロールも同じように笑った。


「佐藤、いけないんだ〜」


 口ではそう言うものの、もう門の持ち手に手をかけている。


「ただ、ここからは気をつけるんだぞ」

「危険なモンスターがいるからな」


 ホーリーガーディアンズ……だっけ?

 ……石になってなければ。


「わ、わかった」


 僕が真剣な顔になったからか、シャロールは少し怯みながら答えた。


――――――――――――――――――――


「ここにはホーリーガーディアンズってのがいてな」


「ホーリー……なに?」


「そいつらはトリオを組んで攻撃してくるんだ」

「それがすごく強くてな」


「ねぇ、佐藤」


「どうした、シャロール?」


「スライムがいるよ!」


 僕はシャロールと話すのを止めて、正面を見た。

 すると、そこには漆黒の柔らかそうなボディのスライムがいた。

 石になっても柔らかそうに見える。

 こいつは確か……。


「わー、やわらか~い!」


 そんな声が聞こえて、シャロールを見るとスライムをいじっている……。


「バカ! そいつから早く離れろ!」


「え?」


 僕はシャロールの手を引っ張って、スライムから引き離す。


「そいつは鎧も溶かす程の毒液を出すんだよ!」


「ええ!?」


 やっと恐ろしさがわかったようだ。


「でも、柔らかくて気持ちよかったよ」


「だからって、危険じゃないわけじゃ……」


 待てよ。


「柔らかかった?」


「うん、ぷにぷにだよ」


 ということは……。


「石になってないのか!?」


「そう……だね」


 僕は少し離れたところにいるスライムを見る。

 確かによく見ると、動いている。


「いいか、シャロール?」

「スライムには慎重に……」


「だから、大丈夫だって言ってるじゃん」


 シャロールは全く気にせず、スライムに再び近づく。


「ほら、かわいいよ」


 そのまま手に抱えて持ってくる。


「うわぁ!」

「そんな危険なもの……!」


「佐藤、スライムの鳴き声は?」


 ああ、そっか。

 シャロールがいるんだから、話してみればいいのか。


 ……スライムの……鳴き声?


「ポヨポヨとか?」


「ポヨポヨ?」


 シャロールが声をかけると、スライムの動きが少し活発になった。


 確かに改めて見ると、このポヨポヨしてる生き物はかわいい。


「で、どうなんだ?」


「う〜ん、ちょっと長くなりそう」


「そうか……」


 石になってないから、訳ありだったりして。


「ちょっと散歩してくるわ〜」


 聖なる泉でも見てこよう。


――――――――――――――――――――


 しばらく歩くと、泉に着いた。

 前に来たときと同じくきれいな透き通る水だ。

 どうやら聖なる泉は無事みたいだな。

 ここに来たついでに、この水を汲んどきたいんだが……。

 空き瓶とか持ってな……。


「うわ!」


 僕は突然現れたポーションの瓶に驚いた。

 しかも、中身は……空?

 なんで空のポーションが……?

 瓶の正面にはイラストが描かれている。

 これは……鎖?

 そして、その上に大きなバツマーク。


 よくわからないけど、これに水を入れようかな。


 僕は泉の水を汲む。


「よし、そろそろ帰ろう」


 もう話は終わっただろう。


――――――――――――――――――――


「おーい、シャロールー」


「佐藤、遅いよ!」


 シャロールは僕の姿を見るなり、近寄ってきた。

 まだ手にスライムを抱えている。


「ごめん、ごめん」

「で、そいつはなんて?」


「クロイムはね……」


 クロイム?

 まさか、そいつの名前か?


「愛する家族が石になってしまって、絶望のまま森をさまよってたんだって」


 スライムにも家族がいるのか!?

 とツッコミたいが今それよりも気になるのは。


「スライムも石になってるんだな」


「そうみたいだよ」

「でも、クロイムはなぜか石にならなかったんだって」


「不思議だな……」


 この石化事件にはまだまだ謎が多い。


「それで、私達に出会ったからいっそのこと殺されて、家族の元に行こうと考えてたんだって」


 こいつ、そんなことを……。

 だから無抵抗だったのか。


「それをシャロールが説得したわけだ」


「うん」


「これからどうするって?」


「私達についてくるんだって」


「どうしてだ?」


 僕はまだモンスターを完全に信じることはできない。

 特にスライムには一度殺されてるからな。


「寂しいんだって」


 寂しい……。

 さっきの話が本当なら、こいつもすごく孤独で追い詰められているのだろう。

 この前の僕みたいに。

 僕にはシャロールがいるが、こいつには……。


「まあ、いいか」


「いいの!?」


「ああ」


 こいつを独りにしておくのはかわいそうだ。


「よろしくな、クロイム」


 僕が笑顔で手を差し出すと、クロイムはシャロールの腕に抱えられていながらも、みょーんと体を伸ばして僕の手を包み込んだ。


「うわ!」


 スライムのなんとも言えない感触に僕は驚きの声をあげた。


「これが握手なんだって」


「へー」


 面白い。


「今日はもう家に帰ろうか、シャロール、クロイム」


「うん」


 クロイムも上下に大きく体を動かしている。

 これは、人間でいう「首を縦に振る」ってことかな?


――――――――――――――――――――


「なあ、クロイムって何食うんだ?」


 僕がそう聞くと、シャロールはクロイムと話しだした。


「なんでもだって」


 そうか……。

 じゃあ、僕達と同じものも食べれるわけだ。

 一人家族が増えたみたいなもんだな。


 それにしても、どれくらい食べるんだ?

 こいつ、結構でかいんだけど。


 僕は改めてシャロールに抱えられているクロイムを見る。


――――――――――――――――――――


「で、クロイムはどこで寝るんだ?」


 僕がそう尋ねると、クロイムは布団に潜り込んできた。


「一緒に寝るのか?」


 クロイムはシャロールの体にまとわりつく。


「クロイムは私のことが好きみたい」


 クロイム、お前……!

 お前には愛する家族がいたんじゃなかったのかよ!


 クロイムの奥さんー!

 旦那さんが浮気してますよー!


「シャロールにベタベタするな!」


 僕はクロイムを掴む。

 スライムだからホントにベタベタしてるし!


「もー、佐藤! 乱暴はやめて!」


 シャロールが僕のことをにらむ。

 そう言われたら、離さざるをえない。


「よしよし。怖かったね、クロイム」


 シャロールはクロイムを慰めるように撫でる。


 そして、怒られた僕をからかうようにクロイムはより激しく動き出した。


「わ! クロイム! あ! やめて!」


 クロイムが這うたびにシャロールが気持ちよさそうに声を出す。


「もう寝るんだからおとなしくしてて!」


 イカといい、クロイムといい、どうしてシャロールが……その……こんな感じになるように仕向けるんだ!?


 このゲームを作ったやつ、出てきやがれー!


 僕は心の中でそう叫んで一人寂しく寝た。


 シャロールは隣にいるけどね!!!

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