Fourth statue

 =Now Loading=


「ホントに町の人はみんな石になってるの?」


 今日やることを決めようとしていた僕にシャロールがそう確認した。


「ああ、このニ日で石になっていない人は一人も見なかったな」


 まだ全員がとは言えないが、多くの人が石になっているだろう。


「そっか」


「だから、どうやって戻すかを……」


「じゃあ、人間以外はどうなんだろう?」


 人間以外?

 それは、つまり……。


「モンスターのことか?」


「うん」


 でも……。


「人間を石にしたのはモンスターの魔法だぞ?」

「だから、モンスターが石になっているわけないじゃないか」


 しかし、シャロールは納得していないような顔だ。


「でも、私が会ったモンスターはそんな魔法使わなかったよ?」


 確かに……。


「まだ未知のモンスターがいるのか?」


 石化魔法を使うやつには会いたくないがな。


「それも気になるけど……」


 けど?


「まずは知り合いのモンスターに会いに行こうよ」

「何か知ってるかも」


 まあ、この石化がモンスターの攻撃ならモンスターに事情を聞くのが手っ取り早いかもな。

 そう簡単にうまくいくとは限らないが、今は少しでも情報を得たい。


「それじゃあ、行くか」


――――――――――――――――――――


「あ! いた!」


 いくら見通しのいい荒野でも、細い蛇を探すのは至難の業だ。

 今回はなぜか襲ってこないのもあって、見つけるのに手間取った。


「バイティングスネークの鳴き声って、ニョロニョロだっけ?」


 いや、なんか違うような……。


「ま、それでもいいんじゃないか?」


「ニョロニョロ?」


 シャロールが蛇に話しかける。


「あれ?」

「ニョロニョロ?」


「どうしたんだ?」


「反応がないの……」


 聞こえてないんじゃないか?

 というか、蛇に耳ってあったかな?


「近づいてみたら……」


「あ!」


 もうすでに蛇に向かって歩いていたシャロールが叫んだ。


「佐藤! これ見て!」


 シャロールが手招きする。

 そいつ、毒があるから近寄りたくないんだけど……。


 僕はおそるおそる近寄る。


「あ!」


 近くで見て、ようやく気づいた。


「石になってるのか……」


 どうりで襲ってこないわけだ。


「そうみたい……」


 一体なぜだ?


 石化魔法を使ったモンスターは人間だけでなく他のモンスターまで石にする必要があったのか?


「シャロール、他のモンスターのところへ急ごう」


 気がかりだ。


――――――――――――――――――――


「見た感じ、いつもどおりだな」


「佐藤、行ってきてよ」


 えー……。

 あいつに近づくのも嫌なんだが……。


 またまた危険を冒してモンスターに近づく。


 だって、シェルリバーって僕みたいなオスが近づくと……。


「あー……」

「僕が近づいても、動かないな……」


 シェルリバーのハサミをつっつくが、動く気配なしだ。


「じゃあ、シェルリバーさんも石になってるんだ」


「そうみたいだな」


 ますます謎が深まる……。

 この二体のモンスターが石になっていることを偶然で片付けられるか?


「佐藤、スロウタースコーピオンさんにも……」


「ダメだ」


「え! どうして?」


「暗くなる前に、町へ帰って夕飯を……」


「食べなきゃいけないからかー……」


 その前に、食べ物をお店から盗……買わないといけないしな。

 いつもはヒュイさんが買ってきて、調理していたのでご飯はわからないことだらけだ。


――――――――――――――――――――


「この町を出ることも考えないとなー」


「どうして?」


「食べ物が尽きるから……」


「そうだね」

「でも、まだ……」


 食べ物があるって言いたいのか?

 だが、町を出るにはまだ他の理由がある。


「それに、他の町にはまだ生きている人がいるかもしれないだろ?」


 それを聞くと、シャロールは寂しそうな顔をした。


「私、お母さんにも会いたいな」


「そうだな、戻ってみるのもいいな」


 知らない町に行くよりか、まずはケスカロールに戻る方がいいかもな。


「私、みんながいなくなったみたいですっごく寂しい」


 シャロールの顔がさらに暗くなる。


「僕だってそうだよ」

「でも、今はシャロールがいる」


「佐藤は一人ぼっちで頑張ってたんだよね」


「そう……だな」


 あの孤独な一日は思い出したくもない。


「偉いなぁ……」


「……」


 シャロールの元気がない。

 心配だな……。


――――――――――――――――――――


「佐藤、私寂しくて眠れない」


 シャロールがポツリとつぶやいた。

 その背中はとても哀愁に満ちている。


「僕がいるじゃないか」


「私、お父さんに会いたいの」


 そうだよな……。

 こんな他人の僕より肉親に会いたいよな。


「そんなときは……気分転換に別のことを考えるのはどうだ?」


「別のこと?」


「僕達以外には誰もいないんだよ、だからなんでもできるぞ」


「なんでも……」


「何かやりたいことを言ってみてくれよ」


 すると、シャロールは急に黙り込んでもじもじしだした。


「何もなかったか?」


「……ス」


 ス?


「スってなんだ?」


 僕が訊き返すと、シャロールは突然寝返りをうって僕の方を向いた。


「キス!」


 キス……。


「キス!?」


 え!?

 キスって、あの……その……。


「ん!」


 シャロールは目を閉じて、僕に顔を近づけた。


 こ、これって……そういう展開!?


 どうしよう……。


 ええい!

 キスなら一度したじゃないか!

 何を今更恥ずかしがっているんだ!


 やるぞ、やるぞー!


 やる!


 僕も目を閉じて、シャロールの口に……。


「「痛っ!」」


 勢い余って、お互いのおでこをぶつけてしまった。

 せっかくの雰囲気が台無しだ。


「ごめんな、シャロール」


「ふふっ、それでこそ佐藤だよ」

「今度は頑張ってね?」


 シャロールは無邪気に笑った。

 なんだかからかわれたみたいで悔しい。


「それじゃあ、おやすみ佐藤ー!」


「おやすみ……シャロール」


 僕はしばらく呆然とシャロールを見つめた。

 まあ、とりあえずシャロールの元気が戻ってよかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る