Eighth poison Ⅱ

 スロウタースコーピオンの動きが止まる。


「スコココ、スコ?」


「スコ」


 どうやらちゃんと会話できているようだ。


「そいつはなんて言ってんだ?」


「えーとね……」

「俺はお前達を攻撃しなければならないって言ってるの」


「まあ、それがモンスターってもんだからな」


 確かにそうだ……。

 でも、一応……。


「理由を訊いてみたらどうだ?」


「う〜ん、そうだね」


 シャロールが再び話し始める。


「俺は無駄だと思うがな〜」


 トルさんはそう言った。


「おかしいよ……」


 シャロールが独り言を言った。


「何がだ?」


 何か気になることでもあったのか?


「スコーピオンさんがね、攻撃するしか言ってくれないの」


「モンスターっていつもそんな……」


「違うの!」


 シャロールがヒュイさんの言葉を遮る。


「今までのモンスターさんは、もっといろんなことを話してくれたもん!」


「そいつが攻撃しか考えてないだけじゃ……」


「違うの……」


 シャロールは涙目だ。


「違うんだな、シャロール」


 これだけ必死に訴えているんだ、信じよう。


「うん……」


 しかし、どうすれば……。


 なぜそれしか言わないんだ?


「ホントにそれしか言ってくれないのか、シャロール?」


「うん、変なの……」

「何を言ってもうわの空って感じ……」


「うわの空……」


 まるでこの前のシャロールみたいにか?

 僕達を無慈悲に攻撃する、虚ろな目のシャロールが思い出される。


 まさか……こいつも……。


「やってみる価値はあるな」


「え?」


「シャロール、こいつを飲ませてみてくれ」


 僕はそう言って、隷属魔法解除ポーションを出して、シャロールに渡す。


「わ、わかった……」


 シャロールがポーションを持って、スロウタースコーピオンのところに向かう。


「あれは……」


「隷属魔法を解除するポーションだね?」


「はい」


「なるほどなー」


「盲点でしたね」


 そんなにか?

 いや、でも、案外この世界の人達はモンスターが攻撃的かどうかしか見ていないのかもしれない。

 モンスターが別のモンスターに操られているなんて思いつかないのかも。


 そうこうしている間に、シャロールはポーションを飲ませて、話している。


「どうだ?」


「ちょっ、ちょっと待ってて」


 シャロールが慌てて言った。

 スロウタースコーピオンも慌ただしく動いている。

 さっきとは大違いだ。

 どうやら話が盛り上がっているみたい。


「許せないよ!」


 シャロールは顔を真っ赤にして、僕達の方に戻ってきた。


「なんて言ってたんだ?」


「あのね! 魔王幹部がサソリさんに魔法をかけて、操っているんだって!」


「そうか」


 やはり隷属魔法にかかっていたのか。

 そして、魔王幹部か……。


「それで、あのサソリはこれからどうするって?」


「前みたいに暮らすんだって」


「前みたいって……」


「もう人間を襲わないのか?」


「そうみたいだよ」


「そいつはいいニュースだな」


 トルさんが満足そうに笑顔になった。


「ついでに、他のスロウタースコーピオンも……」


「あ! それは……!」


 無理……。


「どうしたんだい?」


「あれが最後のポーションなんです」


 もともと二つしかなかったからね。


「そんじゃ、帰るか」


 トルさんは諦めて、来た道を引き返し出した。


「今日のところはそうしましょうか」


「バイバーイ!」


 シャロールがスロウタースコーピオンに手を振る。

 アイツも元気にハサミを振っている。

 ……僕はあのハサミに殺されたんだけどね。


――――――――――――――――――――


「今日は大活躍だったな、シャロール」


「うん!」


「これでホロソーにも平和が訪れそうだよ」


 ただ、気がかりなのが……。


「ポーションを大量に作ったりするんですか?」


 スロウタースコーピオンの数がどれくらいいるかはわからないが、全てにポーションを行き渡らせるのはすごく大変なのでは?


「それはトルさんの判断次第だね」


 あの人、ギルドマスターだったな。

 どうするのかなー……。


「トルさんもなにやら考えているようだが……」

「とりあえず、今日は寝なさい」


 な、なにを企んでいるんだ?

 気になる……。


 しかし、眠たい。

 今日は疲れた……。


 僕は寝室に入った。


――――――――――――――――――――


「ねえ、佐藤」


 僕はシャロールの声で目を覚ました。

 せっかく寝れると思ったのに……。


「なんだ?」


「あれ……ホント?」


「あれって……?」


 眠くて頭が回らない。


「私が……その……」


 なんだよ、早く言って……くれ……。


「グー……グー……」


――――――――――――――――――――


「あれ?」


 佐藤の方を見ると、寝ているみたい。


「……もう、佐藤のバカ」


「う〜ん……無事でよかった……」


 寝言言ってるし……。

 なんの夢見てるんだろ?


「ホーント、佐藤ってなに考えてるのかわかんない」


「シャロール……」


 なんで私の名前を呼んでるんだろ。


 そうだ!

 寝ちゃってるだろうけど、あのことを聞いてみよ。


「佐藤は私のこと、ス……スキ?」


「……スキ」


「え!?」


 起きてるの!?

 でも、目をつぶってるよ?!


「ル……すごいな……」


「……ホントにバカ……!」

「もう知らない……!」


 ドキドキして損したじゃん!


「いいじゃないか、シャロール」


「お父さん……!」


 さっきの会話、聞かれてたかな?


「シャロールのスキルはすごいだろ?」


「からかってるでしょー!」


「そんなことないぞー」


 もう!

 顔が笑ってるじゃん!


「明日も頑張るために、もう寝なさいー」


 確かに佐藤が寝てるの見てたら、私も眠たくなってきちゃった。


「おやすみ、お父さん」


「ああ。おやすみ、シャロール」


「……佐藤も、おやすみ」

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