Stone Statue (石像)

First statue

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 まだ朝早いのに、目が覚めてしまった。

 特にやることもないしなー……。


 そうだ!

 アイテムの整理でもしよう!


――――――――――――――――――――


「ん? なんだこれ?」


 この残ったポーションはなんだ?


 説明を聞いたキノコは全部出したはずだが……。


 もしかして、これって説明を聞いてないキノコなのかな?


 あのとき、適当に目につくキノコを採っていたからなー……。


 とりあえず……。


 この、なんかよくわからんポーション出てこい!


 僕がそう念じると、それは出てきた。


 赤の瓶に青の塗料で二つの丸い矢印がぐるぐるしている絵が書かれている。


 う〜ん、やっぱりわからん。


「おはよう、佐藤」


「おはよう、シャロール」


 シャロールが起きてきた。

 テーブルを片付けなくては。


「のど乾いたから、一個もらうね!」


「え?」


「これにしよ!」


「ええ!?」


 シャロールはおもむろに先ほど僕が出した謎のポーションを飲んだ。

 よく見ると、シャロールは半目だから寝ぼけているのかも。

 そんなことより、ポーションの効果は?

 大丈夫なのかな?


「なんか頭がクラクラする〜」


 そう言って、シャロールの体が揺れ始めた。


「大丈夫か!?」


 僕はシャロールを受け止め、ベッドまで運んでい……き……。


――――――――――――――――――――


「シャロール! 佐藤君!」


 ヒュイさんの声が聞こえる。


「うぅ……」


「よかった、目が覚めたんだね」


「はい……」


「一体何があったんだい?」


「シャロールが勝手にポーションを飲んで……」


「シャロール?」


 ヒュイさんは怪訝な顔をした。


「つまり、自分で飲んだんだね」


「え?」


 どうしてそうなるんだ?


「シャロールが……」


「だから、シャロールは自分のことだろ?」


「いや、僕は佐藤ですよ」


 ヒュイさんは、意味がわからないといった顔だ。


「そんな馬鹿な……」

「だが、その話し方は確かに佐藤君だな……」


 ヒュイさんは考え込んでいる。


「シャロールが飲んだポーションを教えてくれるかい?」


 僕は起き上がって寝室を出る。

 そして、歩き始めると違いに気づいた。

 いつもより、目線が低い。

 なんだか周りのものが大きく見える。


 あと……なんだこの違和感は?

 なにか、胸のあたりが……。


「うわ!」


 こ、ここ、これは!


 おっぱいだ!


 もちろん、僕は男だ。

 だから、おっぱいなんてないのだが……。


「どうしたんだい?」


「い、いえ。なんでもないです」


 なんで僕におっぱいが?


 つまり、これは……。


「シャロールはどのポーションを飲んだのかな?」


「あ! えっと……」


 僕はさっきシャロールが飲んだポーションの瓶を手に取る。


「これです」


 ヒュイさんはそれを見るや、驚いた。


「これは……」


「なにか……まずいですか?」


 すぐに答えてくれないということは、本当にヤバいポーションなのかも。

 でも、そんなものを売らない……よね?


「チェンジポーション……かな?」


「チェンジポー……」


「おはよー」


 聞き慣れない低い声がして、そちらを振り向くと……。


 僕だ!


 たぶん……。


 少なくともシャロールではない男がそこに立っていた。


「おそらくあの佐藤君の中身はシャロールだよ」


 つまり……。


「入れ替わってると?」


「そういうことだね……」


「ねぇー、二人共何の話してるの?」


 推定シャロールはそう言った。

 僕の声でいつものシャロールの言い方だから混乱する。


「シャロール、この人誰だと思う?」


 ヒュイさんがそう言うと、シャロールは寝ぼけた目を開けて、僕を見た。


「……だれ?」

「まさか……私?」


「そうなんだよ、シャロール」


「そっかー」


 どうやらシャロールは衝撃の事実すぎて、夢だと思っているようだ。


「では、二人共起きたようだから説明を始めようかな」


――――――――――――――――――――


「えー!!!」


「そんなことが……!」


「で、この効果はいつ切れるんですか?」


「う〜ん、はっきりとはわからないが……」

「健康な状態でポーションを飲んだときの副作用はだいたい一日でなくなる……かな?」


 ホントに戻るのか、不安だな〜。


「これ、佐藤の体なんだ〜」


 シャロールが自分の体……僕の体を眺め始めた。

 僕もシャロールの体をじっと見る。


「あ!」


 シャロールは思い出したかのように僕を見た。


「私の体で変なことしないでね!」


 なぜか警戒されている。


 そして、そんなこと言われると逆に気になってくる。


 特にこのおっぱいとか……。


「ダメー!」


 シャロールは突然立ち上がって、僕のしっぽをギュッと握った。


「にゃあん!」


 その瞬間、僕の体に電流が流れたような衝撃が走った。

 僕は思わず、猫のような声を出してしまった。

 こ、こんなに敏感なのか……しっぽって……。


「ダメ、ダメ、ダメー!」


「にゃ、にゃ、にゃあ!」


 シャロールが何度もしっぽを握るたびに衝撃が走る。


「も、もうやめてぇ……」


 頭が真っ白になって、なんにもかんがえられないぃ……。


「あ……」


 シャロールがやっとしっぽを離してくれた。


「怖いよぉ……」


 あんなにしっぽを掴むなんて……。

 目の前にいるこの男はなんてやつだ。

 僕の目に涙がにじむ。


「だって……」


「こら!」

「シャロールを泣かせちゃだめじゃないか、佐藤君!」


 ヒュイさんがシャロールに怒鳴る。


「佐藤はあっちだよ、お父さん!」


「あ、そうだった……」


 ヒュイさんも混乱しているみたい。


「とにかく、もとに戻るまでおとなしくしていなさい」

「お父さんは仕事に行ってくるからね」


「はーい!」


 シャロールが答えた。


――――――――――――――――――――


「なんでそんなに僕を見るの?」


 シャロールが鋭い目で僕を睨んでいる。

 僕の目つきってこんなに悪いんだなー。


「だって、佐藤が私の体でいけないことしようとするでしょ?」


「しないって……」


「ホントに?」


「ああ……」


「ま、そんなことはどうでもいいんだけどね」


 なんか僕みたいなこと言うな。

 これって性格も入れ替わってるんじゃないか?


「それより、私がマッサージしてあげるよ」


「どうして?」


「いつも迷惑かけているお詫びだよ」


「あ、ありがとう」


 でも、これってシャロールにマッサージすることになるよね。

 僕の体は休まらないような……。


「さ、ベッドに行こう!」


「はいはい……」


――――――――――――――――――――


「ああん!」


「もう! 私の体で変な声出さないで!」


「だってぇ! 気持ちいいんだもん!」


 これはシャロールのマッサージの腕がいいのか?

 それとも、シャロールの体が敏感なのか?


「えい!」


「んん!」


 もしかすると、恋人同士だから……。

 そんなわけないか。


「ここ!」


「はぁん!」


 こんなに気持ちよかったら、考え事に集中できないよ〜。


「シャロール、お前のことめちゃくちゃにしてやるぜ」


「え!?」


 僕は佐藤だよ!?

 それに、めちゃくちゃにするって!?


 シャロール、変なスイッチが入って……。


「おら!」


「にゃあん!!」


 一際大きな衝撃が走る。

 こんなの続けてたら……。


「ゴホン、ゴホン」


「「ん?」」


 咳払いがした方を見ると、ヒュイさんが立っていた。


「心配でお昼休みに戻ってきてみたら、これだ……」

「二人共、ほどほどにするように。まだ昼だよ?」


「はーい……」


 シャロールが残念そうに僕から離れた。


 まだ昼って、どういうこと?


――――――――――――――――――――


「このしっぽって自分で動かせるのか?」


 腰のあたりで揺れている自分のしっぽを見る。


「うん、力を込めたら動くよ!」


 マジ?


「う〜ん!」


 これで……動く……はず……!


「動かない……!」


 どうしてだ?


「う〜ん、なんでだろ?」


「もっとお腹のあたりに力を込めて!」


 お腹ねぇ……。


「動け……!」


「もっと踏ん張って!」


「ぐぐぐ……!」


「全然動いてないよ?」


「あ!」


「どうしたの、佐藤?」


「トイレ行きたくなってきた……」


「はぁ〜、勝手に行ってきてよ」


 シャロールは呆れ顔だ。

 この顔、ムカつくな〜。


 いや、それよりトイレだ。


――――――――――――――――――――


 どうしよう……。


 パンツ脱いでいいかな?


 だめ……だよな。

 でも、脱がなきゃおしっこできないよ?


 ていうか、もう漏れそう。


「佐藤ー! おしっこしちゃだめー!」


 ん?

 外からシャロールの声が聞こえる。


 気持ちはわかる。

 けど、それは無理なお願いだ。


 だって、漏れちゃうんだもん!!!


 どうする?


 いっそのこと、パンツ履いたまま漏らすか?

 それなら、セーフでは?


 いや、それはそれでアウトだ。


「早く出てきてー!」


 シャロールの声が一層大きくなる。


 僕はとてつもない尿意を抑え込み、考え続ける。

 しかし、もう限界だ。

 頭がクラクラしてきた。


 そのままトイレの壁に背中を預け、気を失った。


――――――――――――――――――――


「うぅ〜ん」


 ここは……トイレの前だ。


 あれ?

 僕はトイレの中にいたはずだ。

 どうして外に?


 というか、先ほどまであった尿意が消えている。

 まさか……漏らした?

 しかし、触ってみたがズボンはまったく濡れていない。


「あ!」


 ズボンを触って気づいたが、あれがある。


 そして、おっぱいがない!


 ということは……。


「も、戻った?」


 やったー!


 ……ん?


 どこからか、おしっこの匂いがする。

 そりゃあ、トイレなんだからおしっこの匂いがするのは当然なのだが……。

 こんなに強烈だったかな?

 まるで、今したかのような……。


 嫌な予感がする。


 戻ったということは、シャロールはトイレの中にいるはずだ。

 そして、シャロールの体はさっきまでおしっこを……。


「シャロール〜、起きてくれ〜」


「うぅ〜ん」


 お、起きたかな?


「大変なことになってるかもしれないんだ……」


「大変なこ……なにこれ?」


 なにこれ?


「きゃー!!!」


 シャロールの叫び声が家中に響き渡った。


――――――――――――――――――――


「どう思う!? お父さん!?」


「まあまあ、戻れたからよかったじゃないか」


「なんで笑ってるの!?」

「私、めちゃめちゃ嫌な思いしたんだよ!」


 シャロールは必死に主張する。


「だから、謝ってるじゃないか」


「だって、だって……!」


 シャロールはまだなにか言いたいことがあるようだ。


「それに、わざとやったんじゃないんだ」

「わかってくれよ」


 そろそろ許してくれたっていいじゃないか。


「……うん、そうだね」


 シャロールは突然納得したようで、黙ってしまった。


「それで、今日は他に何をしたんだい?」


 他に……。


「マッサージ!」


「あぁ、あれマッサージだったのか……」


 ヒュイさんはつぶやいた。


 逆になんだと思ったの?


――――――――――――――――――――


「今日は迷惑かけたな、シャロール」


 もとはと言えば、僕がポーションを出していたからだ。


「そうだよ、佐藤!」


 シャロールは少し興奮して言った。


「ごめんな」


「気をつけてね!」


 まだ怒ってる?


「それじゃあ、おやすみ」


「……」


 あれ?

 返事がない。


 寂しいけど、もう寝よう。


――――――――――――――――――――


「でも、楽しかったなぁ……」


「また飲んでみたいな」


「ふふふ」


 シャロールが佐藤に聞こえないように小さくつぶやいた。

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