Fourth poison

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 あれからもうどれくらい経っただろうか。


 どれだけ考えても、何をしてもここから出られそうにない。


 この状況、手も足も出ない。

 ……縛られてるから。


 もう誰かの助けを待つしかないのかな?


 そういえば、僕をここに監禁したやつは何が目的なんだ?

 もちろん勇者である僕が目障りだから、というのが一番の目的だろう。

 だが、他に目的があるとしたら?


「佐藤ー!」


 ん?

 遠くでシャロールの声がする。

 なんでここにシャロールが?


「ううっう!」


 奴の目的はシャロールだ……!

 前もシャロールを狙う奴がいたじゃないか!

 僕は囮に使われたってことか……?


――――――――――――――――――――


「はっはっはっ! 油断したようだな、お前ら!」


 そう言って、シャロールの持っている灯りにぼんやり照らされたもやがシャロールを包み込む。


「あ……ああ……ああああああ!」


 まずい……!

 これはあの時と同じだ……!


「邪魔者は……排除する……」


 虚ろな目でシャロールが自分の剣を構えて、僕たちに斬りかかった。


「シャロール! 大丈夫か!?」


 ヒュイさんが動揺しながらもシャロールの剣を受け止めた。


「これは隷属魔法です!」

「僕が解除しますので、それまで持ちこたえてください!」


「佐藤君……!」


「さすがは勇者だな」


 この人誰だ?


 いや、早くスキルを選択して……。


 あれ?


 スキルがステータス画面に表示されていない。


「残念だったな、勇者よ」


「なに?」


「ここでは俺が結界を張っているからスキルが使えないんだよ」


「なんだって!」


 これじゃあ、隷属魔法を解除できない。

 何か他に方法は?


「すみません! そこのおじさん!」


 この人が誰か知らんが、今はそんなことを考えている場合じゃない。


「あ? 俺か?」


「そうです!」

「隷属魔法の解除方法を知ってますか?」


「あー、あれはポーションじゃねぇと無理だな」


 そんな……!

 ポーションなんて……。


 あるじゃないか!


 ここに来る前に受け取ったあれが!


 でも、どうやってシャロールに渡す?


「チッ、しぶといやつだ」

「おい、女。お前はあっちの勇者を攻撃しろ。俺はこいつを仕留める」


 ガキィ!


「うわー!」


 ヒュイさんが何者かに吹き飛ばされた。

 そして、そいつはヒュイさんの後ろにいたハンマーを持ったおじさんに襲いかかる。


 ガァン!


「このトルを……舐めるなよー!」


 あのおじさん、なかなかすごい……。


「ほう、お前はなかなかやるようだな」


 あれ?

 シャロールはどこに行った?


「死ね……」


 ヒュン!


「うわ!」


 剣が僕の頬をかすめる。

 あとちょっと反応が遅れていたら、死んでるところだった。

 シャロールは体勢を整えて、再び剣を振る。


 ガキィ!


 僕も剣を構えて、シャロールの剣を受け止める。


 しかし、シャロールの力が思ったより強い。

 両手でしっかりと構えているはずだが、だんだん押されていく。

 このままじゃ、限界が来る。


 早くポーションを……!


 けど、今は両手が塞がっていてポーションを飲ませるなんて……。


 いや、手を使わなくても……。


 いやいや、そんなこと……。


「おい、勇者! なんとかしろ!」


 えーい!

 こうなりゃ、やけくそだー!


 隷属魔法を解除するポーションを口の中に出してくれ!


「ん!」


 結構いいかげんな指示だったが、無事出てきた。

 あとはこれを……。


 シャロールの生気の無い顔を見る。


 シャロール、すまない!


 僕はそう思いながら、シャロールと自分の唇を合わせる。

 そして、そのまま舌でシャロールの口をこじ開け、ポーションを流し込む。


 どうだ……?


 シャロールの力がだんだん弱まってきた。

 どうやら成功のようだ。

 やがて、シャロールは剣を下ろした。


 シャロールの目にも光が……。


「んー!」


 シャロールが目を見開いた。


 ……あ。

 正気に戻ったみたいだ……が……。

 この状況……まずい……?


「んー! んー!」


 シャロールがキスをしたまま、なにか喚いている。


 ここまで来たら、もう後には退けない。


 僕は剣を床に投げ捨て、シャロールを片手で抱き寄せる。

 そして、しばらく見つめあった後、口を離す。


「大丈夫か?」


「……ら、らいよううやないよー……」


 シャロールが目を白黒させている。


 きっと刺激が強すぎたんだ。

 僕もそうだ。


「ふふふ、面白い……」

「おまえ達の愛に免じて、今日は手を引こうではないか」


 謎の声がそう告げた。


「なに?」


「それでは、さらばだ」


「あ、てめぇ!」


 おじさんのハンマーが空を切る。


「クソ〜、逃げられたな」


 僕は再び静かになった洞窟を見渡す。


「じゃ……帰ろっか。シャロール」


「うん……」


――――――――――――――――――――


「どうして教えてくれないんだい?」


 ヒュイさんは、帰路でしつこく聞いてくる。


「それは……」


「あんなこと……」


「「……」」


「……教えてくれないみたいだね」

「どうやってポーションを飲ませたのか、知りたかったなー……」


 ヒュイさんは悔しそうだ。

 あのとき、気絶してたから何があったのか知りたいのだろう。


 けど……。


「秘密だよな、シャロール」


「うん!」


「そうか……」


「俺も知りたかったが、秘密なら仕方ないな」


 トルさんも知りたがっているが、教えない。


「それじゃあ、お父さん達は少しだけ仕事をしてくるから、先に帰ってなさい」


 ヒュイさんは諦めたようだ。


「「はーい」」


――――――――――――――――――――


「今日も遅いなー」


 夜になってもヒュイさんは帰ってこない。


「そうだね……」


 シャロールも心配そうだ。


「ね、ねぇ、佐藤」


「なんだ?」


「どうしてあんなことしたの?」


 シャロールが突然こんなことを訊いてきた。

 あんなことって、やっぱりあのことだよな。


「あれは手が塞がってて……」


「ホントにそれだけ?」


 ……たぶん。

 とっさのことで、なんであんなことをしたかなんて僕もわからない。

 というか……。


「シャロール、覚えてるのか?」


「うん、ぼんやりと」

「操られてるときもなんとなく何をしてるかわかるんだ」


「そうか……」


「ごめんな、シャロール」


 僕の口から自然とそんな言葉が出てきた。


「どうして謝るの?」


 シャロールは首をかしげる。


「それは……」


 どうしてだろう?

 なぜか謝ってしまった。


「……私は全然いいのに」


「え……?」


「ううん、なんでもない!」


「今、なんて……」


「おやすみ!」


 シャロールは布団を被って、寝てしまった。


 う〜ん。

 シャロールは僕のことをどう思ってるんだ?


 僕はモヤモヤしたまま眠りにつく。

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