Fourth poison of Hers

 =Now Loading=


「お父さん! 早く起きて!」


「どうした〜シャロール〜」


 お父さん、まだ寝ぼけてる。


「今日は佐藤を助けに行くんでしょ〜」


「んん〜」


「……そうだった!」


 お父さん、目が覚めたみたい。


「まったくお父さんは……」


「……シャロールは佐藤君に似てきたな」


「え……!」

「そんなことないよー!」


 お父さんが変なこと言うから、ドキドキしてきたじゃん。


「早く朝ごはんー!」


「はい、はい」


――――――――――――――――――――


「お父さん、大丈夫かなー」


 なんとか頼み込むって言ってたけど。


「お嬢ちゃんがシャロールちゃんかい?」


「はい?」


 私が振り向くと、そこには怖そうなおじさんが……。

 すっごく体が大きくて、筋肉ムキムキ……。

 顔もしかめっ面でとっても怖い……。

 しかも、背中にはでっかいハンマーを担いでいる。


 何の用かな?

 ドラムみたいに悪い人かも……。

 私が身構えていると、おじさんはまた質問をした。


「違ったかい?」


「あ! 私はシャロールですけど……」

「なんですか?!」


 頑張っておじさんと同じくらい怖い顔で答えた。

 これで、おじさんも逃げて……。


「ああ、よかった」


 あれ?

 顔がとっても笑顔になった。

 ホントは優しい人?

 でも、油断しちゃだめ!


「なんですか?」


「俺の名前は……」


「シャロール、その人が今回一緒に行くギルドマスターのトルさんだ」


 お父さんが奥から出てきた。


「この人が?」


 一緒に行くの?

 ていうか、ギルドマスターなの?


「そういうことだ」

「シャロールちゃん、よろしくな」


 トルさんは大きな手を私に差し出した。


「よ、よろしくお願いします……」


 私も手を出して、握手をした。


「今日は時間がないから、歩きながら作戦を話しましょう」


 そう言って、お父さんは歩き出した。


――――――――――――――――――――


「本当はもっと大人数で行くつもりだったんだがよぉー」


「なんで三人なの??」


「ヒュイがどうしてもそうするって言うもんでなー」


 お父さんが?


「どうして?」


 私がお父さんに訊いてみると、お父さんは何かを言うのをためらっている。


「えっと……それはね……」


「お父さんは娘思いなんだよ」


「え?」


 私はトルさんの言葉の意味がわからなかった。


「シャロールちゃんはモンスターと話せるんだろ?」


「はい」


「だから、ヒュイはなるべくモンスターと戦わないために少人数での隠密行動を選んだんだよ」

「そうだろ、ヒュイ?」


「あはは、バレてましたか……」


 トルさんに話を振られたお父さんはちょっと照れながら笑った。


「そうなの?」


「ああ、そうだよ。シャロール」

「なるべく平和的に終わるに越したことはないからね」


「お父さん……」

「ありがとう!」


 私はお父さんに抱きついた。


「こらこら、シャロール」

「人が見てるんだぞ」


「あ……!」


 慌ててお父さんから離れた私をトルさんは顔に似合わず、笑顔で見守っていた。


――――――――――――――――――――


「この奥に行くと、分かれ道があるんだが……」


 この前来たときはここで引き返したけど……?


「一番右の道に進むんだ」


「そしたら何があるの?」


「行き止まりだ」


 え?


「そこに佐藤がいるの?」


「それは……わからん」


 ええ?

 じゃあ、なんでそっちに行くの?


「ここからが重要なんだよ、シャロール」


「……」


「その行き止まりは実は門らしいんだよ」


「門?」

「じゃあ、開けて入ったらいいの?」


「……ところが、そうはいかない」


「えええ?」


 わかんないことがいっぱい……。


「伝説によれば、ロイエル封印のために勇者が鍵魔法をかけたらしいんだけど……」


「けど?」


「ロイエルの封印が解けてることからもわかるとおり、鍵魔法がもう機能していないみたいなんだよ」


 機能していない?

 なんだかさらにややこしくなってきたなー……。


「それどころか、向こうがここの鍵魔法を改造して、外から勝手に入ってこられないように自分で鍵をかけてるってわけよ」


「……お父さん、わかんないよ」


 私はお父さんに助けを求めた。


「要するに、鍵の開け方がまだわからないんだよ」


 鍵の開け方?

 そんなの……。


「こうなったら、ぶっ壊して……」


「私、聞いてくるー!」


「「え!?」」

「シャロール!?」

「シャロールちゃん!?」


 なんであんなに驚いてるんだろ。

 こんなに簡単なことなのに。

 私は走りながら、そう思った。


 そして、洞窟を出て彼に話しかけた。


――――――――――――――――――――


「シャロール、一人でどっかに行ったら危ないだろ!」


「そうだぜ、お嬢ちゃん」


 二人共、怒ってる?


「ごめんなさい……」


「今度から気をつけるんだよ」


「はい……」


「まあまあ、そんなに怒らなくってもいいじゃないか、ヒュイ」

「それに、シャロールちゃんにも何か考えがあったんだろう?」


 トルさん……。

 やっぱり見かけによらず、優しいー。


「何をしてきたんだ、シャロール?」


 あ!

 そうだった!


「開け方を訊いてきたの!」


「開け方ってあの門かい?」


「うん!」


「誰にだい?」


「シェルリバーさん!」


「「……」」


 あ、あれ?

 どうして二人共黙ってるの?


「はっはっはっ! そりゃすごい!」


 うわ!

 トルさんがいきなり笑いだして、びっくりしちゃった。

 トルさんは笑いながら、お父さんの肩を勢いよく叩く。


「お前の娘は将来有望だぞ! ヒュイ!」


「ありがとうございます……」


 お父さん、ちょっと顔がひきつっている。


「そ、それでどうやって開けるんだ、シャロール?」


 あ、そうだった。


「あのね、モンスターの鳴き声で開くんだって」


「なるほど……」


「だが、モンスターの鳴き声ってどうやって出すんだ?」


 確かに……。


「シャロールのスキルを使って見たらどうだい?」


「私のスキル?」


「確かにそうだな」

「モンスターと話せるんだ。スキルを使ったらシャロールちゃんの声はモンスターの鳴き声って認識されるようになるのかもな」


 そうかな……?


「じゃあ、シャロールちゃん、ここに立ってくれ」


「この壁に向かってなんでもいいから言ってみてごらん、シャロール」


 えー……。

 なんでもってのが一番困るんだよ、お父さん。


 私は仕方なく、スキルを選択して一言言ってみた。


「ガウ!」


 イチローを思い出すなぁ。

 元気かな?


 フォン。

〈スキルが使用されました〉


 ゴゴゴゴゴゴ。


「お、開いた!」


「すごいな、シャロール」

「さすが私の娘だ」


 お父さんは私の頭をなでてくれた。


「えへへー」


 私も嬉しくなって、ほほえんだ。


「おーい、今は親子で仲良くしてる場合じゃないんだぞー」


「「あ!」」


 私達ははっとして、先に進むトルさんについていく。


――――――――――――――――――――


「さーて、勇者君はどこにいるかなー?」


 ホントに佐藤はここにいるのかな?


「佐藤ー!」


 洞窟に私の声がこだまする。


「ん?」


「どうしたの、お父さん?」


「シャロール、耳をすましてごらん?」


 そう言って、お父さんは耳を動かした。


「う〜ん」


「あ! 何か聞こえる!」


「そうだろう?」


「……俺には何も聞こえないがな」


 トルさんが小さな声でつぶやいた。


「どうしてー?」


「俺は純粋な人間だからな」

「この耳じゃ、そんなに聞こえないよ」


 そう言って、トルさんは自分の耳を引っ張った。


 そっか。

 お父さんや私とは違うのか。


「もうちょっと歩いたところにいそうだな」


「なあ、何が聞こえるんだ?」


「あのね、うめき声!」

「うー! って言ってるの」


「本当か?」


 む!

 トルさん、私を信用してない!


「ええ、本当です」

「ただ、もしかしたらモンスターの可能性も……」


「え……!」


「とりあえず、何かがいるんだな」


「はい」


 えー……。

 コワーイモンスターだったらどうしよう。


――――――――――――――――――――


「あれは……」

「シャロール、見えるか?」


「えー?」


 私は目を凝らした。


「なんか誰かいない?」


 人影が見える。


「おお、そうか」

「とりあえず、モンスターじゃないんだな?」


「そのようですね」


 そのまま、私達はそれに慎重に近づく。


「あ! 佐藤!」


「ううーう!」


 縛られて苦しそう……。


「お父さん、ほどいてあげて」


「もちろん」


「うううう! うううう!」


 佐藤は必死に叫んでいる。

 どうしたのかな?


「佐藤君、何か言いたいことがあるのかい?」


 お父さんは佐藤の口にはめられた拘束具を解いた。


「僕から離れてください!」

「これは罠です!」


「え?」


 罠?


「はっはっはっ! 油断したようだな、お前ら!」


 誰かの声が聞こえると同時に、私は気を失った。

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