Fourth spring

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 苦しくて死ぬかと思った。

 いや、死んだけど。


 困ったな。

 戦ってもだめ、逃げてもだめ。


 じゃあ、どうすりゃいいんだよ!


 真面目に戦えば勝てるかな……。


 鳥を追い払って……。

 犬をかわして……。

 猿を避ける。


 難しそうだな……。

 さすがは鬼を倒した桃太郎の配下だ。強い。

 いや、こいつらはモンスターだからもっと厄介だ。


 きびだんごでもあれば楽なのにな~。


 そう思いながら、アイテム欄を見るがそんなものはない。

 というか、まだ文字化けしている。


 あれ?

 なんか黄色のアイテムが山ほどある。

 一つは幸運の女神だろう。

 あとは……なんだっけ?

 気になって選択してみる。


 <幸運の女神を外しますか? はい/いいえ>


 違う、違う。そうじゃない。

 アイテム名がわからないから、区別がつかなくて困る。


 幸運の女神の下にあるこのアイテムは?


 <ジェクオルの指輪を外しますか? はい/いいえ>


 あ!

 そうだった!


 僕は自分の右手を見る。

 そこには、黒い指輪があった。

 いや~、すっかり忘れていた。


 ジェクオルって魔王幹部がいたな~。

 あいつが仲間になってくれたら心強いのだが……。


 待てよ……。

 もしかして、これを使って……。


――――――――――――――――――――


「ギャーギャー」


「グルルルル」


「ウキーキー」


 来たな……。

 作戦決行だ。


「控えおろう!」

「この魔王幹部ジェクオル様の指輪が目に入らぬか!」


 そう言って、僕は指輪を天高く掲げる。


「「「?」」」


 モンスター達の動きが止まった。


「僕はあの方の命でこの泉の水を取りに来た者だ!」

「僕を襲うと、あの方の怒りを買うぞ!」


「「「……」」」


 そもそも言葉が通じているかが怪しい。

 奴らも半信半疑といった顔だ。


 だが、ここで突っ立っていてもしかたない。

 とっとと回収して帰りたい。


 僕は指輪をかざしながら、泉に向かって歩き出す。

 モンスター達に近づくことになるけど大丈夫かな?

 しかし、僕が側に行くとモンスター達は突然地面にひれ伏した。


 成功だ!

 名付けて「水戸黄門」作戦だ。

 まあ、僕には助さんも格さんもいないんだけど。


 このまま泉の水を水筒に入れて……。

 帰るだけ……。


 モンスター達も完全に信じているわけではなさそうだが、この指輪があるのでうかつに手が出せないのかも。


「それでは、さらばだ」

「これからも頑張りたまえ」


 そのまま僕はなんとか無傷でゲートまで帰ることができた。


――――――――――――――――――――


「あれ、本物なの?」


「怪しいぜ、人間が持っているなんて」


「しかし、あの指輪から漂う邪悪な魔力は幹部相当のものじゃった」

「信じられんが……」


 ゴゴゴゴゴゴゴ。


「お前ら!」


「「「は、はい!」」」


「まんまと騙されやがって!」


「……と言いますと?」


「あいつは勇者佐藤だ!」


「どうしてわかるん……」


「幸運の女神を着けていただろう!」


「なるほどね……」


「お前らに泉を任せていた俺が馬鹿だった!」

「お前らには死んでもらう!」


「そ、そんな!」

「まだ死にたくないわ!」

「や、やめてくだされ!」


「うるさい!」


「「「ギャー!」」」


――――――――――――――――――――


「これだけあれば、五個は作れそうじゃな」

「よく一人で、あのモンスター達の攻撃をかいくぐり、これだけの量の聖水を回収なさったもんじゃ」


「運がよかったんです」


「明日、届けに来るので待っていてくだされ」


「はい」


「では」


 そう言って、薬師のおじいさんはヒュイさんの家を出ていった。


――――――――――――――――――――


「シャロール、明日までの辛抱だからな」


「……佐藤、行ってきたの?」


 シャロールには言ってなかったはずだが、聞こえてたのかな。


「……ああ」


「……」


 シャロールは静かに目を閉じた。

 もう眠って……。


「何回死んだの?」


「え!」


 その質問は予想外だった。


「勇者が死ぬわけないじゃん」

「ゼロだよ、ゼロ」


「ウソ……」


「ええ!?」


 ごまかせてないの?


「……佐藤ってそんなに強くないもん」


 なんてことを言うんだ……!


「でも、佐藤……ありがとう」


「……私のために」


 そして、シャロールは寝返りをうって、僕に背を向けた。

 彼女の一言がとても心に響く。


「……どういたしまして」

「ゆっくり休んでいろよ」


 僕はしばらく眠っているシャロールを眺める。


「佐藤君、ちょっといいかい」


「あ、はい」


 ヒュイさん、なんの用だろう?

 僕は寝室を出た。


――――――――――――――――――――


「佐藤……行っちゃった……」


――――――――――――――――――――


「佐藤君はどうやってホーリーガーディアンズを倒したんだい?」


 僕がテーブルにつくと、ヒュイさんが話し始めた。


「なんですか?」

「そのホーリーなんとかって」


「ああ、すまない」

「泉の周りにモンスターがいただろう?」


 あいつらが、ホーリーなんとかなのか。


「はい」


「どうやって倒したんだい?」


 倒したも何も……。


「僕は倒してませんよ」


「え?」


 ヒュイさんは僕に疑いの目を向けた。

 そんなにおかしいこと言ったかな?


「じゃあ、あれは誰が……」

「いや、そもそもどうやって聖水を手に入れたんだい?」


 あー、ジェクオルの指輪のことは面倒くさいことになりそうだから言いたくない。


「なんとか、逃げながら取ってきたんです」


「ふ~む」


 納得してくれるかな……。


「佐藤君、何か隠してるな?」


 う……!


「い、いえ。なにも」


「まあ、深くは追及しないよ」

「いつか話せるときが来たら、話してくれ」


「……」


「で、本題はここからだ」


「本題?」


 一体なんだろう。


「本当はギルドの機密事項なんだが……」


 そんなこと言ってもいいの?


「今、あそこを警備しているギルド職員から連絡が来てね」

「泉の近くで爆発があったらしいんだ」


「え!」


「幸い泉は無傷だったが、ホーリーガーディアンズが見当たらないらしい」

「佐藤君、何か心当たりは?」


 そんなこと訊かれても……。


「僕は何も知りません」


「本当かい?」


「はい」


「君が行ったとき、何か異変はなかったかい?」


 ヒュイさんはしつこく訊いてくる。


「ありませんでした」


「それとも、君が彼らに何かしたとか……」


「僕は何も知りません!」

「そう言ってるじゃないですか!!」


 僕はヒュイさんに執拗に疑われたので、イライラして怒鳴ってしまった。

 すると、ヒュイさんもなんとか納得したようにうなずいた。


「疑ってすまない、佐藤君」

「今日はもう寝なさい」


「はい……」


――――――――――――――――――――


 まさか、僕がジェクオルの手下だって言ったから?


 いや、そんなわけないか。


「早く明日になるといいな、シャロール」


「佐藤……」


「どうした?」


「うう〜ん」


 よく見るとシャロールは目をつむっている。

 なんだ寝言か。


「おやすみ、シャロール」

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