Holy Springs (聖なる泉)

First spring

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「ううん……」


 僕はシャロールの唸り声が聞こえて、目が覚めた。

 また悪夢にうなされているのか?


「大丈夫か?」

「シャロー……」


 僕はシャロールの顔を見て、愕然とした。


 顔が真っ赤になっている。


「まさか……!」


 シャロールの額に手を当てる。


「やっぱり……」


 僕は確証を得て、寝室を出る。


「ヒュイさん!」


「お、起きたのかい?」


「シャロールが熱を出しています!」


「なんだって!?」


――――――――――――――――――――


「本当だ……」


 シャロールはすごく苦しそうに眠っている。


「風邪ですか?」


「どうして風が関係しているのかい?」


 ……もしかして、風邪はこの世界にないのか?


「とりあえず私が薬師を呼んでくる」

「佐藤君はその間、シャロールを看病していてくれ」


 そう言って、ヒュイさんは家を出ていった。


――――――――――――――――――――


「ううん……佐藤?」


 シャロールが目を開けた。

 しかし、完全にはまぶたが上がっていない。

 ぼっーとしていて、どこかつらそうだ。


「シャロール、起きたか」


「今日は……どこに……行くの?」


 シャロールはゆっくりと体を起こした。


「バカな事いうな……!」

「そんなに苦しそうなのに」


「だ……大丈夫だ」

「ゴホッゴホッ」


 シャロールが大きなせきをする。

 こんなになってもそんなこと言うとは。


「ほら、全然大丈夫じゃないだろ」

「おとなしく寝とけ」


 僕はシャロールを布団に寝かせる。


「これで頭でも冷やして考え直せ」


 シャロールの額に濡れたタオルを載せてあげた。


「なに? これ」


「僕のいた世界ではこうやって病気を治すんだよ」


「……変なの」


――――――――――――――――――――


「う~ん、これはスキル切れですな」


 スキル切れ?


「え!」

「しかし、娘はまだ数回しかスキルを使ってないと言っています」


 使用回数が関係しているのか?


「ふむ」

「シャロールちゃん、あなたのスキルは?」


「話術……です」


「やはり」


 薬師のおじいさんは心当たりがあるようだ。


「こういった珍しいスキルは、スキルポイントを多く使うのじゃよ」


「おそらくお嬢さんは、その数回で相当な量を使ってしまったのじゃろう」


「スキルポーションは?」


「残念ながら、現在在庫切れでのう……」


「そんな……」


「素材があれば作ることができるのだが……」


 これは……もしや……。


「その素材はなんですか?」


「え?」

「ホロソー山の聖なる泉の水じゃが……」


「なるほど」


「まさか、お主……」


「僕が取ってきます!」


「よしなさい、若者よ」

「あそこは危険じゃ」

「生半可な気持ちで行く場所じゃ……」


「シャロールを助けたいんです!」


「佐藤君……」


 ヒュイさんは感動するようにそうつぶやいて、おじいさんの方を向いた。


「彼に任せてもらえませんか」


 おじいさんは困った顔をした。


「お願いです!」


「ううむ、こうも意気込んでおるなら止めることはできんようじゃの」


 おじいさんは諦めたようだ。


「だが、気を付けるんじゃぞ」


「はい」


――――――――――――――――――――


「聖水はこの水筒に入れなさい」


 そう言って、ヒュイさんは木でできた水筒を持ってきた。


「ありがとうございます」


「本当に気を付けるんだよ」


「大丈夫ですよ」

「死んでも戻ってくるので」


「それでも、気を付けるに越したことはないだろ、佐藤君」

「その油断が命取りだぞ」


 ヒュイさんはとてもまじめな顔だ。


「すみません」

「気を付けて、行ってきます」


「ああ、絶対に帰ってきてくれよ」


「もちろんです」


――――――――――――――――――――


「あっ、ここだ」


 この間キノコを採った場所の奥に歩いていくと、木でできたゲートの前にギルド職員が立っている。


「すみません、ここに入れてもらえませんか」


「だめです」


 そりゃそうか。

 でも……。


「ギルド職員のヒュイさんの許可をもらったんです」


「本当かね?」


「はい。これがサインです」


 僕が手に持った紙を見せると、ギルド職員はそれをじっと眺めた。


「う~む、本物っぽいな」

「一応、連絡を取ってみる」


 そう言って、ギルド職員は何かをし始めた。


「うん、本物のようだね」

「通ってよし」


 ギルド職員は納得した顔になって、道を開けてくれた。


「気を付けるんだよ!」


――――――――――――――――――――


 しばらく進むと、道の真ん中にスライムが出てきた。

 しかし、僕の知っているスライムと色が全く違う。

 今までのスライムは青色だったが、今回はどす黒い。

 スライムは普通半透明だったりするが、こいつは違う。

 まさか、こいつ強いのか?


「えい!」


 とりあえず剣を振り下ろすと真っ二つになって、消えてしまった。


 普通のスライムと何が違ったんだ?


 僕はあまり気にせず、泉へ急いだ。


――――――――――――――――――――


「あら〜?」

「ダークスライムがやられたようね」


「ふん、奴は我らホーリーガーディアンズの中で最弱のモンスターだ」


「ねぇ、そのホーリーガーディアンズって名前ださくない?」

「人間がつけたやつでしょ?」


「何を言う!」

「中二心がくすぐられるではないか!」


「え~?」

「おじじはどう思う?」


「儂は名前なんかどうでもいいがのう」


「じゃあ、ホーリーガーディアンズってことで!」


「それより、奴がここに迫っておる」

「皆の者、戦闘態勢に入るのじゃ」


「久々の獲物で血が騒ぐぜ!」


「あたし、血が出るの嫌~い」

「汚れちゃうもん」


――――――――――――――――――――


 だいぶ歩いたな。

 もうすぐ泉に着くは……。


「ギャーギャー」


「グルルルル」


「ウキーキー」


 なんだ!?

 この不気味な鳴き声は!


「ギャー!」

「うわ!」


 上空から迫ってきた何かに鎧を突っつきまわされる。

 バサバサと僕の周囲を飛び交うこの謎のモンスター。


 鳥か?


「ガウ!」

「おっと!」


 何かワイルドウルフぐらいのモンスターが体当たりをしかけてきた。

 しかし、それくらいならイチローで経験済みだ。

 倒れる僕じゃな……。


「キー!」

「なんだと!?」


 何かに足を引っ張られた。

 僕はバランスを崩し、後ろに倒れてしまった。


「くそっ」


 打ち付けた背中が痛むが、急いで起き上が……。


「ウキー!」


 倒れた僕の体を何かが抑え込む。

 なに、こいつは猿か!?


 ザシュ。


 そいつが鎧の隙間から見えている僕の首をナイフで切りつけた。


 なんだよ、こいつら……。

 モンスターでも連携するのか?


 まさかこんなに強い……と……は。

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