Targeting Her (彼女を狙っている)
First target
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「ふわぁ~、眠たい……」
シャロールが目をこすりながら口にパンを詰め込んでいる。
「さ、早く食べて行くぞ。シャロール」
「うん……」
僕たちはいつもより早く起きて、支度を始めた。
「もう行くのね」
「お母さん」
キャイアさんが家を出ようとしている僕達に声をかけた。
まだ朝早いので起こさないようにしていたが、ばれていたようだ。
「佐藤さんもすっかり我が家に馴染んできた頃なのにねぇ」
「いろいろとお世話になりました」
「あらやだ、もう帰ってこないみたいな言い方やめてちょうだい」
「え?」
「いつでもお世話されに来ていいのよ」
「シャロールもそう思うでしょ?」
「う、うん。ずっと一緒だよ、佐藤」
そのセリフはなんだかちょっと怖い。
しかし、彼女達の気持ちはとてもありがたい。
「ありがとう、シャロールにキャイアさん」
「……結局おかあさんとは呼ばなかったわね」
キャイアさんが悔しそうな顔で何かつぶやいたが、聞き取れなかった。
「あんまりここで無駄話をしている時間はないんじゃないかい?」
「「あ!」」
「行こっか、シャロール!」
「うん!」
「気をつけて行くのよー!」
後ろからそんな声が聞こえた。
――――――――――――――――――――
「お、早かったな」
町の出入り口である門付近に馬車が止めてあった。
馬車といっても元の世界で見たことが無いから本当はよくわからない。
その近くにおじさんは立っている。
「おはようございます」
「おはよう。あいさつはいいから、早く乗りな」
馬の後ろにある荷台? に僕達は乗り込んだ。
「それじゃあ、出発するぞ。揺れるから気を付けろよ」
おじさんがそう言うと、馬車が動き出した。
――――――――――――――――――――
それにしても、目的地までどれくらいかかるのだろうか?
聞きそびれてしまった。
「どれくらいかかるのかな?」
シャロールも同じことを考えていたようだ。
「さあな」
僕はわからないので適当に流した。
「それより、シャロールのお父さんってどんな人なんだ?」
暇を持て余した僕は尋ねた。
「う~ん、あんまり覚えてないんだよね。私、まだ小っちゃかったから」
「そうか」
「リンゴが好きなのは覚えてるけど……」
そういえば、前もそう言っていたな。
「じゃあ、お父さんに会うのが楽しみだな」
「うん♪」
シャロールは嬉しそうにうなずいた。
そして、今度は僕に同じことを尋ねた。
「佐藤のお父さんはどうなの?」
「僕?」
「僕のお父さんは……」
あれ?
思い出せない。
どうしてだ?
「ごめん、思い出せないよ」
「そっか」
シャロールは何とも言えない顔をしている。
「きっと私と同じで離れたところにいるんだよ。会えるといいね」
「ありがとう。シャロール」
それにしても、どうして思い出せないんだ?
――――――――――――――――――――
「むにゃむにゃ……」
シャロールは退屈だからか、僕にもたれかかって寝てしまった。
というか、よくこんな揺れている馬車の中で寝れるな。
僕がいなかったら、倒れてしまい頭を打ってしまうだろう。
このまま僕も寝てしまったら、シャロールを支える人がいなくなる。
ということで、僕は寝るわけにはいかない。
じゃあ、何をしようかな?
そうだ。
久しぶりにヘルプを見てみよう。
「ヘルプ!」
「ん~、佐藤?」
僕の声でシャロールが起きかけた。
「なんでもないよ、シャロール」
「そう? むにゃむにゃ……」
シャロールが再び眠りについたのを確認して僕はヘルプを確認する。
まずは、次に行く町について知りたい。
だから……。
「この世界の地図」
そうそう、これだ。
以前ケスカロールに来たばかりのときも、この地図にお世話になった。
早速、地図を開こうとするが……。
「あれ?」
開けない。
いくら押しても反応がない。
前は開けたのに。
まさか、バグった?
しっかりしてくれよ、管理人〜。
というか、こういうときの対処法ってないのか?
僕がヘルプをざっと見ていると、一番下にこんな項目が。
「困ったときは」
あった!
やっぱりあるんだな、よかった。
でも、ゲームがバグったときの対処法なんて普通書いてないよな〜。
そう思いながら、ざっと下の方までヘルプを読むとこんなことが書かれている。
「何か不便なことがございましたら、こちらにおかけください」
そして、その後ろには電話番号らしき数字が……。
けど、この世界に電話なんてない。
どうしろっていうんだよ!
僕は落胆して、じっと電話番号を見つめた。
すると、あることに気付く。
これ、ハイパーリンクじゃね?
つまり、押すと電話がかかる……かも。
試しにそこを押してみる。
「プルルルル」
まじか!?
本当にかかるとは思わなかった。
しかし、誰が出るんだ?
ガチャ!
お、誰か出……。
「むにゃむにゃ……僕に何か用?」
この声は……。
「管理人か?」
「そうだけど? それより早く要件を言ってよ」
「えっと、ヘルプの地図がバグってるんだけど……」
「あー、後で直すね」
「え! 今直し……」
「おやすみ」
ガチャ!
電話は切れてしまった。
全くいいかげんな奴だな。
いつ直すかはわからないが、しばらく見れそうにないな。
じゃあ、他の項目でも見るか。
「各町の歴史」
これなんかおもしろそうだ。
なになに……。
「ホロソーは……」
――――――――――――――――――――
「佐藤、起きてよ。佐藤!」
ん?
「シャロール?」
「もうすぐ着くらしいよ」
いつのまにか寝てしまっていた。
反対にシャロールは起きていたようだ。
……それにしても、シャロールは僕にもたれかかっていたが、僕が寝た後倒れたりしなかったのだろうか?
「あー疲れた」
「そうだな。馬車に乗ることなんてめったにないからな」
「……そうじゃないよ」
シャロールはどこか不満そうだ。
「え?」
どういうことだ?
「なあ、そうじゃないって…」
「そろそろ着くぞ、準備はできたか!」
「「はーい」」
聞きそびれてしまった。
――――――――――――――――――――
「お代はキャイアでいいんだな」
「はい」
昨日キャイアさんと決めたことだ。あの人には最後までお世話になってしまった。
「そんじゃ、達者でな!」
「「ありがとうございました!」」
僕達はおじさんを見送った。
「で、ヒュイさんはどこだろうな」
ここは町の出入り口である門。
ヒュイさんとはここを待ち合わせの場所にしている。
……キャイアさんによれば。
「う~ん」
僕達がきょろきょろしていると後ろから声をかけられた。
「あの~、そちらのお嬢さんはシャロールさんですか?」
「「え?」」
僕達は振り向いた。
するとそこには高身長で細見の紳士風な男の人が……耳だ!
猫耳がある!
まさか……。
「そして、そちらの方が……佐藤君?」
「「……」」
「あれ? 人違いでしたか?」
目の前の紳士は困った顔をしている。
「い、いえ、僕は佐藤で……」
「私、シャロールです」
焦ってこう答えると、紳士の顔が緩んだ。
「よかった」
「私の名前はヒュイだ」
シャロールのお父さんの名前だ。
「ここで立ち話もなんだから、私の家に来ないかい? すぐ着くよ」
「は、はい」
僕達は彼の後について……しっぽだ!
腰のあたりに猫のしっぽがある。
「シャロールと同じだな……」
「なにが?」
「耳としっぽ」
「……本当だ!」
シャロールは気づいたようで、目をきらきらさせている。
「おーい、何してるんだい?」
「あ、今行きまーす!」
「待ってー!」
――――――――――――――――――――
「おなかが減っているだろう、食事でもどうだい?」
ヒュイさんはそう言って、できあがっていた食事を出し始めた。
「ありがとうございます」
「それと……」
「そんなにかしこまらなくてもいいんだよ、佐藤君」
「君は私の娘の彼氏なんだから」
「え?」
何か誤解があるようだ。
「もー! なんでお父さんまでそんなこと言うのー!」
「ははは! シャロールは相変わらず怒るときの第一声は『もー!』なんだな」
ヒュイさんは楽しそうに笑った。
「……」
一方シャロールは照れて何も言わなくなってしまった。
「ふふっ」
シャロールとヒュイさんのやり取りを見て、思わず笑いがこみあげてきた。
「な……なんで佐藤まで笑うのー!」
「ごめん、ごめん」
「君達は本当にカップルなのかい?」
「違う!」
「違います」
「ははは、息ぴったりだなー」
こんな感じで食事が始まった。
――――――――――――――――――――
「さっき食事が終わったばかりだが、今日はもう疲れているだろう」
「こっちが寝室だよ」
「あ、お父さん!」
シャロールが寝室へ向かうヒュイさんを呼び止める。
「うん? なんだい、シャロール」
「これ、プレゼント!」
シャロールはそう言って、どこからともなく花束を出した。
アイテムとして収納していたのだろう。
「シャ、シャロール……」
ヒュイさんの目が潤んでいる。
「ありがとう。大切に飾って置くよ」
そのまま受け取って、部屋の隅にあった花瓶に入れた。
「さあ、もう寝よう」
「うん!」
ヒュイさんは僕達をベッドと布団が一つずつある部屋に案内された。
あれ?
これじゃあ……。
「急遽布団を用意したんだが、どちらも一人用でね」
「シャロールは誰と一緒に寝たい?」
「いつも一緒に寝てる佐藤と寝たい!」
シャロールは即答した。
「え……いつも……?」
お父さんの顔が固まった。
「お、お父さんはとても複雑な気持ちだよ……」
これは誤解がさらに深まってしまった気がする。
「すみません……ヒュイさん」
「謝ることはないよ……佐藤君……!」
言葉とは裏腹に、ヒュイさんの顔には悔しさが浮き出ている。
「おやすみなさーい」
そんな僕達を気にせず、シャロールは布団に入った。
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