Second break

 =Now Loading=


「おはよう、シャロール」


「あ、佐藤。おはよう」


「やっと起きたわね」


 僕が寝室を出ると、みんな起きていた。


「早く行こうぜー」


「行こう」


 そうだ。今日はあそこに行くんだった。


「わかった、わかった。ちょっと待ってくれ」


 僕は朝ごはんを急いで食べて、みんなと家を出た。


――――――――――――――――――――


「ワイルドウルフはここら辺にいるはず……」


「あ! いたわ!」


 目の前を見ると、一匹の……じゃなくて群れているワイルドウルフがいる。

 そういえば、群れでいるって言ってたな。


「あの……大丈夫なんですかね?」


 ちょっと不安だ。


「シャロールがなんとかしてくれるでしょ」


 いや、そうなんだけど……。

 僕は動物園のふれあいコーナーぐらいの気持ちで来たが、実際は命がけだったりする?


「ガウ!」


 群れのリーダー的な一匹がこちらに歩み寄る。

 本当に大丈夫なの?


「シャロール?」


「な、なんとかなるよ」


 もしかして、前回のイチローはたまたまいいやつだったけど、目の前のこいつは……。


「ガウ、ガウ」


 シャロールがそう言うと、目の前のワイルドウルフは驚いた。

 ワイルドウルフの表情なんて知らないが、驚いたように見える。

 そこから、しばらくシャロールは話し始めた。


――――――――――――――――――――


「ワオーン!」


 シャロールと話していたリーダー格のワイルドウルフが後ろの群れに向かって吠えた。


「もう大丈夫だよ」


「本当か?」


「うん。ほら」


 シャロールがワイルドウルフの頭をなでる。

 ワイルドウルフに全く敵対心はないようで、目をつぶって気持ちよさそうにしている。


「あっちのワイルドウルフも大丈夫なのか?」


「うん。もちろん」


「わーい!」


 ノーブがワイルドウルフに近づいたが襲われることはない。

 本当のようだ。

 ノーブとホープはワイルドウルフに乗って、遊んでいる。


「モンスターにもいい奴がいるのねぇ」


 キャイアさんは不思議そうな顔で、ワイルドウルフを見ている。


「そうだ。シャロール」


「なに?」


「イチローのこと、聞いてみたら?」


「あ~、それいいかも」


「訊いてみる!」


 そう言って、シャロールはワイルドウルフと話し始める。

 一体どんなことを……。


「ワウ!!」


「そうなの!?」


「ガウガウ!」


 何を驚いてるんだ?


「佐藤!」


 シャロールが急いで、僕のところに駆け寄った。


「どうだった?」


「イチローってね! 有名人なんだって!」


「つまり?」


「イチローは人間に襲われた仲間を助ける正義の戦士なんだって」


「なるほど」


「ワワウ!ワウ?」


「なんだって?」


「この前イチローが人間に敗れて、けがをしたときに助けてくれた女神様はあなたですか? だって」


 ワイルドウルフを助ける人間なんてそうそういないだろうから……。


「シャロール、お前じゃないか?」


「そうだよね? でも……女神って……」


 シャロールが照れている。


「ワウ?」


「ほら、答えてやらないと困ってるぞ」


「ええと……」


 シャロールが説明をし終えると、そのワイルドウルフは仲間に向かって一言遠吠えをあげた。


「ワオーン!」


 そして、シャロールの服を引っ張り始めた。


「え? ワウ?」


「ワワウ」


「どうしたんだ?」


「ついてこい……だって」


「あ〜、これは浦島太郎や舌切り雀のパターンだな」


「え? なにそれ?」


「ついていって、損はないんじゃないかってことだよ」


「いいのかな?」


「面白そうじゃない、シャロール」


「行こう、行こうー!」


「私も行きたい」


 どうやらみんな賛成のようだ。


「まあ、いっか」


 シャロールもそう言って、歩き出した。


――――――――――――――――――――


 ワイルドウルフ達は、ちょっとした林の中へ入っていく。

 獣道を通った先には、洞穴があった。

 ここが彼らの家か?

 入り口はものすごく狭く、入るのに苦労する。

 まぁ、人間がここに出入りすることなんて滅多にないだろう。

 しかし、中は意外にも広く、頭が天井にぶつからないほどだ。 

 中を進んで行くと、別のワイルドウルフの群れが……。


「ガルルルル」


 やばいんじゃない?


「あ、あれイチローだよ!」


「イチロー!」


 シャロールはワイルドウルフの群れに入っていった。


「お、おい! シャロール!」


「大丈夫かい?」


「あはは、イチロー! 元気にしてた?」


 僕たちの心配をよそに、シャロールはワイルドウルフとじゃれている。


「もう仲良しね~」


「そうですね」


「ワワウ、ワウワウ」


「ワウ? ガウガウ」


「ワオワオ」


「なんて?」


「えぇ……恥ずかしいよぉ」


 シャロールが顔を赤くする。


「気になるじゃない、シャロール」


「……う~ん」


「イチローがね、ここら辺のワイルドウルフに女神シャロールの伝説を話したって言ってるの」


「もう伝説になってるのか」


「すごいわ、さすがあたしの娘ね」


「も~からかわないで!」


 からかっているわけではないのだが……。


「ガウ! ガウ!」


 イチローが僕を見て、吠えた。


「僕に何か用か?」


「お前に女神様をお守りする実力があるか見極めてやるって」


「ガウ!」


「ついてこい、だってさ」


「えっと……」


「女神様をお守りするには強くなくっちゃね、佐藤さん」


「からかわないでくださいよ!」


 そんな会話をしながら、僕たちはさらに洞窟の奥に進んだ。


――――――――――――――――――――


「こんな場所が……」


 洞窟の奥には、広く開けた場所があった。

 ここなら、人間でも動き回れる。


「ガオガウ」


「これより訓練を始める」


「ワオワオ」


「早く装備をつけろだって」


 僕は言われた通り、剣と防具を身に着ける。


「これ、本気でやっていいのか?」


「そうだね……聞いてみる」


「ガオウウググ?」


「ガオ!」


「真面目にやれ! だって」


「わかった、わかった」


「ワオーン!」


「はじ……」


「それはわかったよ!」


 僕はそう言って、イチローに向かって行った。


「そりゃあ!」


 しかし、僕の剣は空を切る。

 なぜならイチローが僕の目にも留まらぬ速さで避けたからだ。


「ガウ!」


 ドン!


 背後に回ったイチローが僕に突進した。

 てっきり僕は鎧に牙を立てるかと思ったが、さすがにそれは見くびりすぎたようだ。


「おっとっと」


 バランスを崩した僕にイチローがもう一度突進をくらわせようと向かってきている。


「そうは問屋が……え!?」


 突進をしてくると思って、僕は身構えたのだが……。

 イチローは僕の近くに来ると、突進せずに僕の周りを回り始めた。

 一体何を企んで……。


「うわ!」


 目をまわしかけている僕は、横からとびかかったイチローにバランスを崩され、倒されてしまった。


「グルルルル」


 イチローは倒れた僕の体に飛び乗った。


「こんなものか? だって」


「あらあら」


 くそ~、悔しいが完敗だ。


「もう一回!」


「ワンワウ」


 シャロールがイチローに向かって何かを言った。


「ガガウ、ガウ」


 そう言って、イチローは僕の上からどいて、最初の位置に戻った。


「いいだろうって」


 よーし、次こそは。


――――――――――――――――――――


 結局、イチローには一撃も入れられなかった。


「やっぱり強いな~」


「ガウオウガ!」


「なんて?」


「そんな実力ではシャロール様を守れんぞって」


「く~、今度は負けないからな!」


 僕はイチローを見て、こう宣言した。


「ワオウ!」


 イチローも僕に向かってこう吠えた。


「いつ……」


「いつでも受けてたつ……だろ?」


「わかるの?」


「勘だよ」


――――――――――――――――――――


 僕たちは家への帰り道で今日を振り返る。


「今日は楽しかったわね~」


「オオカミと遊ぶの楽しい~」


「楽しい」


「イチローも元気でよかった」


「そうだな」


「しかし! あんたたち、家に入る前に一つお知らせがあるわ」


「「「「?」」」」


 四人同時に首をかしげた。


「帰ったらすぐにシャワーを浴びるのよ。私たち、とてつもなく獣臭いから」


 僕たちは自分のにおいをかいでみた。


「本当だ!」


「くさい!」


「くっさ!」


「くさいね」


 それぞれが悲鳴を上げる。

 キャイアさんの言うように、すぐにシャワーを浴びた方がいいようだ。


――――――――――――――――――――


「ホントに臭くない?」


「ああ、大丈夫だよ」


 シャロールからワイルドウルフのにおいはもうしない。

 その代わり、今まで嗅いだことのない不思議ないい匂いがする。

 これが女の子のにおいってやつかな?


「もう! いつまで嗅いでるの!」


 シャロールが僕から離れる。


「佐藤の変態!」


「あはは、つい……」


 確かに今のはシャロールに引かれても仕方ない。


「さ、今日はもう寝よう」


「うん、そうだね」


 僕達は布団に入ったが……。


「嗅がないでね!」


「嗅がないって言ってるだろ、早く寝てくれ」


「む~」


 シャロール、やたらこだわるな。

 何かあるのか?

 僕はそう思いながら、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る