First break Ⅱ
町の散歩とは言うものの、これといって特に見どころはないみたいだ。
僕達の間にしばらく沈黙が漂っていると、シャロールから話しかけてきた。
「佐藤、迷子になったらいけないから私と手をつなごう♪」
そう言って、シャロールは僕の手を握った。
僕だって、もう高校生なのだからそんなことを言われるのは心外だ……が……。
それより、これって恋人みたいじゃない?
なんだか同じようなことをつい数日前も考えた気がする。
今回はちょっと強引だ。
理由はあるが、絶対そんなこと思ってないだろ、シャロール。
「……ただ手をつなぎたいだけか」
「え!?」
「え?」
「そ、そそ、そんなことないよ!」
シャロールは僕の手をぱっと離した。
考え事に夢中で、つい口に出てしまったか。
「いいよ、シャロール」
僕はシャロールの手を握り直す。
「理由なんていらないじゃん」
「佐藤……!」
シャロールは満面の笑顔になった。
「えへへ、そうだよね♪」
やっぱり、シャロールは笑顔のときが一番かわいい。
僕達はそのまま散歩を続ける。
――――――――――――――――――――
……しかし、気になる。
シャロールって僕のことが好きなのだろうか。
前から気になっていた。
特に今なんて、手をつなごうと言ってきたわけだし……。
いやいや、それだけでシャロールが僕のことを好きかどうかはわからない……。
けど気になる。
あんまりこういうことを堂々と訊くのはどうかと思うが……。
「な、なあシャロール」
「なに? 佐藤」
「シャロールって僕のこと……好きなの?」
「……え……え……え……!」
突如として、シャロールが壊れたロボットみたいになってしまった。
そういえば、この世界はゲームだったな。
今のはNPCが対応できない質問だったのか?
でも、シャロールがNPCだなんて信じたくないな……。
「さ、とうはどう、なの?」
「どうって?」
「好きなの?」
「何が?」
「……何って……その……わ、たし……のこと」
シャロールは今にも消え入りそうな声だ。
「う~ん」
難しい質問だ。
「僕はシャロールのことが嫌いじゃないよ」
「じゃあ……好き?」
「それは……わからないな~」
「そっか」
「……実は、私もわからないんだ」
シャロールの笑顔に少し困惑が混じっている。
「でも、佐藤といると楽しいよ」
「それはよかった」
「佐藤は私と一緒だと、楽しくないの?」
シャロールはちょっと不安そうな顔になった。
「いいや、とっても楽しいよ」
「よかった」
シャロールが再び笑顔になった。
心なしか、握っている手の力が少し強くなった気がする。
――――――――――――――――――――
「たっだいまー!」
「おかえり、シャロール」
「もう夕ご飯ができるわよ」
「わーい。私、おなか減っちゃった」
暗くなるまで歩き回ったから僕もそうだ。
「そういえば、佐藤さん」
「何ですか?」
「依頼を達成したのに、管理人から何も言われてないの?」
「あ、忘れてました! ご飯のときに話します」
「わかったわ」
――――――――――――――――――――
「で、僕が困っているのはどの町に行こうかなと思って」
僕はキャイアさんに説明し終わった。
「それなら、ホロソーっていう町に行ってみるのはどうだい?」
「どうしてですか?」
「そこにはヒュイっていう人が住んでて……」
「知り合いですか?」
「どこかで聞いたことある名前……」
「シャロール、忘れたのかい?」
「え?」
「あんたのお父さんの名前だよ」
「「え!?」」
「失踪したってシャロールが……」
「はあ?」
「どっかに行っちゃったんじゃないの?」
「馬鹿ね~、あれは冗談だったのに」
「じゃあ、お父さんは……」
「ぴんぴんしてるわ。今でもよく連絡しているし」
「なんで言ってくれなかったの、お母さん!」
「あたしに怒らないでよ。あいつがあたしにそう言えって言ったのよ」
「どうして?」
「仕事に集中したかったんじゃないの?」
「そうなのかな」
「まあ、あいつだって本当は自分の娘には会いたいみたいだし、行ってみたらどうだいシャロール」
「う~ん」
シャロールは悩んでいる。
「じゃあ、僕は邪魔なんじゃ……」
「そんなことないわよ。佐藤さんと行きたいわよね、シャロール?」
「うん!」
シャロールは僕と一緒だとわかると即答した。
「ほら、決定ね。あなた達、行ってきなさい」
「キャイアさんは行かないんですか?」
「あたしはこの町が気に入ってるから、ここから出ないわ」
「俺たちはー!」
「私は?」
ノーブとホープが話に入ってくる。
「あなた達は……あんまり大人数で行くと迷惑だから、あたしと一緒にお留守番よ」
「またかよー」
「また?」
どこか不満そうだ。
思えば、イビルバット討伐以来、ノーブとホープとは一緒に依頼に行っていない。
だから、彼らも冒険に行きたくてたまらないのだろう。
「佐藤は仕方ないし、シャロールはお父さんに会うためなのよ。わかるでしょ?」
「「う~ん、わかった」」
明日は依頼に連れて行ってあげようかな。
「……でも、あと何日かはここにいていいですか?」
「もちろんいいわよ」
「じゃあ、明日はモンスター討伐……じゃなくて、シャロールがモンスターと話すところを見に行こう」
「「わーい!」」
「それ、おもしろそうね。あたしも行くわ」
「え~、緊張しちゃうじゃん! そんなに見られると~」
――――――――――――――――――――
布団の中で、眠りかけているとシャロールが話しかけてきた。
「ねえ、佐藤」
「ん~」
「私、お父さんに会うの楽しみ」
「そうだな」
「早く会いたいな」
「そうだ……ね……」
睡魔に負けて、意識が遠のく。
「佐藤は……」
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