A Break (小休止)

First break Ⅰ

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「やあやあ、おはよ……」


「何してんの!?」


 ん?

 ここは?

 この声は管理人か?


「佐藤君、何をしてるんだい?」


「うう~ん、何をしているって……」


「あー!」


 僕は布団から飛び起きた。


「シャロール! 起きて起きて!」


「ふぇ?」


「ここ、家じゃないぞ!」


「……」


 シャロールはあたりを見渡す。


「本当だー!」


 シャロールも布団から飛び起きた。


「あー……突然呼び出して、すまない」


「そうだ、そうだ」


「なんでそんなことするの!」


「いやー、佐藤君にお知らせがあってね」


 お知らせ? 依頼を達成したからか?


「でも、まさか君たちがこんなことをしてるとは思わなかったよ」


「……」


 シャロールが恥ずかしそうにしている。

 こんなことって、一緒に寝てるだけ……いや、騒がれるには十分なことだな。

 確か昨日は、あの後シャロールが眠れないと言ったので、布団の中でも慰めていたんだっけ。

 そして、シャロールの温かい背中を撫でるうちに僕も眠ってしまったようだ。


「プライバシー侵害だぞ!」


「わかった、わかった。僕が悪かったよ」


「ただ、シャロールちゃんを巻き込むつもりはなかったんだ」


「本当か?」


「ああ、近くにいたから一緒に来ちゃったみたいだ」


「今度からは他人と距離を置くように」


 そんな無茶苦茶な。


「……で、本題なんだけど」


 さあ、なんて言われるかな。

 正直依頼を達成したかと言われれば、グレーゾーンな気がするな。

 昨日なんて、モンスターを倒してないし。



「頑張ったんじゃない?」



「……は?」


「よく頑張ったね、佐藤君」


「……じゃあ、世界は……?」


「世界?」


「初期化するって……」


「あー、あれは君に発破をかけるために言っただけで特に意味はないよ」


「……え?」


 僕は管理人に騙されたというわけか。


「なんか君が必死にいろんなことにチャレンジしている様子を見て、僕は感動したよ」


「そりゃどうも」


「君の頑張りを認めて、少しはだらだらしても大目に見てあげるよ」


「やったー……」


「ただし!」


 管理人が急に叫んだ。


「また前みたいにずっとだらだらしていいというわけではないからね」


「少し休憩したら、別の町に行くんだよ」


「どうして?」


「どうしてって、君。同じ町にとどまっていたらゲームが進まないだろう」


 まあ、そうか。

 ここで逆らうと管理人の怒りを買いそうだし、黙って従うか。


「確かにそうだ」


「ふふん、妙に素直だね」


「やっと僕の素晴らしさがわかったのかい?」


「まあ、そんなところだよ」


「そんじゃ、バイバイ~」


――――――――――――――――――――


 見慣れた寝室で僕たちは目を覚ました。


「シャロール、今のは夢か?」


「ううん、違うよ。私も見たから」


「そうか」


「朝ごはん食べよっ」


――――――――――――――――――――


「今日は何するの?」


「あー、シャロール……あれ覚えてるか?」


「え? あれって?」


「コモサ洞窟の……」


「わー! あれは忘れてよ!」


 シャロールがわたわた手を振る。

 さては何か勘違いしているな?


「いや、マッサージだよ」


「へ?」


「マッサージするって言っただろう?」


「あー……それね……はいはい」


 シャロールが急に冷静になった。

 勘違いに気づいたのだろう。


「え……! 本当!?」


 そして、再び興奮し出した。


「昨日も言ったが、僕は嘘をつかないよ」


「え~……でも~……」


 シャロールはもじもじしている。


「いいじゃない、シャロール。今更佐藤さんに触られるのが恥ずかしいのかい?」


「な……! 恥ずかし……くなんて!」


 シャロールが表情を目まぐるしく変化させている。


「いいよ! 佐藤! マッサージされてあげる!」


 されてあげる?


「それじゃあ、ノーブとホープを起こしてくるわ」


「なんでですか?」


「マッサージって言ったらベッドでしょ?」


 そうかな? 別に布団でやってもいいと思うけど。

 なんだか騙されている気がする。


――――――――――――――――――――


「ここらへんか?」


「あ……! そこはだめ!」


「じゃあ、ここは?」


「う~……そこは……」


 僕がシャロールの体に触る度に、彼女は変な声を出す。

 僕のマッサージってそんなに気持ちいいのかな? 


「えい!」


「ふにゃあ!」


 僕が好奇心で、目の前に揺れているしっぽをつかむと彼女はまるで猫みたいな声を出した。

 まあ、実際猫耳としっぽが生えてるし。


「も~! やめてよ、佐藤!」


 うつぶせになっているシャロールが顔を起こして、抗議した。 


「しっぽは敏感なんだから!」


「ごめん、ごめん」


 僕が謝ると、シャロールは再び顔を伏せた。


「そう言えば、シャロール」


「んっ……! 何?」


「なんでもするって約束したけど、何してほしい?」


「えっ……! 昨日のこと?」


「うん」


「それっ……! なら、もういいよ。これだけで十分だよ」


「そうか? でも、約束は約束だし……」


「わっ……! かった。じゃあ……私と散歩に行こうよっ……!」


「散歩? そんなことでいいのか?」


「うっ……! ん。そんなことがいいの!」


「そうか、わかった。これが終わったら行こうな」


――――――――――――――――――――


 僕たちがマッサージを終えて、寝室から出るとキャイアさんがこう尋ねた。


「で、あんた達はこの後何するんだい?」


「デー……散歩に行くの」


 今シャロールが何か言いかけたような……。


「デートに行くのね」


「え? そんなこと言いましたか?」


 おかしいな。


「いーや、言い間違えただけよ。散歩でしょ?」


「そうだよな? シャロール」


「う、うん。そうだよ」


 シャロールはなぜか戸惑いながら答えた。


「でも、どこに行くんだ?」


「あ! う~ん、どうしよっかな~」


 考えていなかったのか。

 かといって、僕はこの町、というかこの世界についてよく知らないし……。


「それじゃあ、この町を佐藤さんと散歩するのはどうだい」


「え~、ここ?」


「佐藤さんは異世界から来て、何も知らないのよ」


「……う~ん」


 シャロールは悩んでいるが……。


「僕は行きたいですね」


「ほら、佐藤さんはこう言ってるわよ」


「わかったよ」


「暗くなる前には戻ってくるのよ」


「俺も行くー!」


「私も」


 ノーブとホープがそう言ったが……。


「だめよ」


「えー! なんでだよー!」


「今日は二人の大事なデートなのよ。ノーブとホープはあたしとおでかけしましょ」


「ちぇー」


「わかった」


 やっぱりデートって言ってない?


「なあ、シャロール。デートって……」


「さ、さあ早く行こうよ」


 シャロールが僕の肩を押して、家の外へ出た。

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