Third day

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「ほら、起きなさい」


 ん?


「こんなとこで本当に寝ちゃってるんだから」


 僕が目を覚ますと、肩に毛布が掛けられていた。


「おはようございます……」


「その様子だとよく眠れなかったようだね」


「はい……」


「で、起きたばっかりで悪いんだけど今日の依頼は……」


 またモンスター討伐だなんて言われたら、断ろうかとも考えた。

 そのせいでシャロールとこんな関係が続くぐらいなら、世界がなくなった方がまだましだ。


「薬草採取だよ」


「薬草?」


 モンスターを倒すだけじゃないのか。


「そう」


「そこらに生えている草を採るだけでいいの。簡単でしょ?」


「はい」


 けど、本当にそれだけなのか?


「それと、あたしは今日ノーブとホープを連れて買い物に行ってくるから、今日はシャロールと二人で行ってきなさい」


「え……そんな……」


「俺、聞いてないぞー」


「知らないよ」


 ノーブとホープがそう言ったが、キャイアさんは強引に話を進める。


「今からあたしがシャロールを起こしてくるから、行ってきなさい」


 しばらくして、シャロールの声が聞こえた。


「まだ眠いよ~お母さん~」

 

――――――――――――――――――――


「今回採取する薬草、ヒールグラスはこのあたりに……」

「あ! これです」


 そのヒールグラスとかいう草は他の草よりも濃い緑色で、背が高い見つけやすい草だ。

 それでもこの緑一色の野原で見つけるのは苦労する。

 まあ、少なくともシャロールとの会話よりは苦労しないかな。


「シャロール、頑張ろうな」


「……」


 家を出てから、シャロールは一言も話していない。

 僕も謝るタイミングを見失っていた。

 ゆえに、僕達の間には沈黙が流れている。


「お二人は今回が初めてですか?」


「はい」


「……はい」


「そうですか」

「では、私から一つアドバイスをあげましょう」


 アドバイス?

 シャロールも不思議そうな顔をしている。


「この依頼に限った話ではないのですが、こういった開けた場所での薬草採取にはコツがあるんです」


「コツ?」


 そんなものが。


「はい。それは、発見者と採取者を分けることです」

「そうすれば効率よく採取を行うことができますよ」


 なるほど。

 しかし、シャロールが協力してくれるかな?


「シャロール、僕が採ってくるから探してくれないか?」


「ふん」


 シャロールは僕から顔を背けた。

 これ、無理なんじゃないか?

 僕は職員さんの方を見て助けを求めたが、彼女はこちらを黙って見ているだけだ。

 このまま一人で依頼をこなしてもいいんだけど……。

 それじゃあシャロールと仲直りはできない。

 ここは思い切って……。


「シャロール、昨日はごめん!」


 僕は頭を下げた。


「え……!」


 シャロールは突然のことに驚いている。


「ホントはシャロールを傷つけるつもりじゃなかったんだ」

「でも、ついあんなことを言ってしまって……ごめん!」


「佐藤……」


「シャロールだって、どうしていいかわからないで悩んでたんだよな……」

「なのに……僕は……」


 言葉に詰まった。

 シャロールにどんな言葉をかければいいかわからなかったからだ。


「佐藤は、悪くないよ」


 シャロールがぽつりと呟く。


「シャロール……」


「私も無理を言ってるのはわかってたんだ」

「でも……佐藤なら私の気持ちわかってくれるかなって思って……」


 シャロールはそんなに僕を信用してくれていたのか……。


「迷惑かけてごめんね、佐藤」


「こっちこそごめんな、シャロール」


 これで仲直りできたかな?


「……気を取り直して……薬草探してくれるか? シャロール?」


「うん、よろこんで」


 シャロールは笑顔で答えてくれた。


――――――――――――――――――――


 一方そのころ、遠くでギルド職員がこう呟いた。


「……青春だねぇ」


――――――――――――――――――――


「お母さんー!」


「おかえり、シャロール。どうだったかい?」


「うん。こんなに報酬貰ったの」


「まあ! すごいじゃない」


「そうでしょ! 佐藤と一緒に頑張ったんだ!」


「……仲直りもできたみたいね」


「え? お母さん何か言った?」


「いいや、何も。それよりこれだけあればこのお金で何か冒険の役に立つものが買えそうだね」


「そうですね」


 そういえば、剣と鎧、それに回復ポーション以外にもアイテムってあるのだろうか。


「今日はいろいろおいしいもの買ってきたから、ごちそうよ」


「やったー!」


「でも、どうして?」


「佐藤さんはまだまだ頑張って依頼を達成しなきゃいけないから、その応援よ」

「いっぱい食べて元気をつけなさい」


 キャイアさんの心遣いが身に染みる。


「ありがとうございます」


「私も頑張るー!」


「俺もー!」


「私も」


「ふふ、みんな佐藤さんのことが好きなのね」


 キャイアさんがそう言うと、シャロールだけが静かに顔を赤くしているように見えた。


――――――――――――――――――――


「もうおなかいっぱいで眠くなってきたよー」


「そうだね、シャロール」


「早く寝よ! 佐藤!」


 シャロールは僕の腕を引っ張って、寝室に連れて行った。

 ……なぜか今日はちょっと大胆だな、シャロール。

 布団に入るとシャロールは


「今日は疲れたね」


 と言った。


「あんなにきついとは思わなかったよ」


 薬草を採るのは案外腰にくる作業だった。

 明日は筋肉痛になっているかもしれない。


「佐藤は……」


 なんだろう。

 何か僕に言いたいことがあるのだろうか。


 あれ?

 続きは待てども来ない。

 言いにくいことなのか?


「シャロール?」


 僕は隣のシャロールの顔を覗き込む。


「むにゃむにゃ」


 シャロールは幸せそうに笑いながら、眠っていた。

 続きは気になるが、幸せそうで何よりだ。

 僕ももう寝よう。


「私のこと……」


 シャロールが寝言を呟いている。

 それを最後まで聞く前に僕は眠りに落ちた。

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