Fourth day
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やはり布団で寝るのは気持ちがいい。
疲れが取れて、元気になった。
「今日はちょっと疲れる依頼よ」
「何ですか?」
「荷物運びよ」
「荷物運び?」
そんなものがあるのか。
「そう」
「どこに行くかは向こうで詳細を聞いてみないことにはわからないのだけれど……とりあえず、どこかのお店の荷物運びよ」
「運ぶだけですか?」
「ええ、運ぶだけの簡単なお仕事よ」
キャイアさんがにやりと不気味に笑った。
「それに、報酬もたーくさん出るのよ」
「私も行くー!」
「俺も俺もー!」
「私も!」
なんだかみんな報酬に釣られているような。
「ノーブとホープは危ないから、やめときなさい」
「えー!」
「がっかり」
きっぱりと断られた二人は落ち込んでいる。
「危ないの?」
一方シャロールは顔をこわばらせた。
「やっぱり私……」
「つべこべいわず、行ってきなさい!」
キャイアさんは僕とシャロールを家から追い出した。
――――――――――――――――――――
「現在募集している荷物持ちの仕事は……」
「できれば簡単な仕事がいいな……」
「それでしたら、花屋さんなんてどうでしょうか」
「花屋?」
異世界に花屋さんがあるのか。
あんまりラノベやゲームでは見ないが、あってもおかしくはないか。
「はい」
「近々この町に引っ越してこられる花屋さんの荷物運びです」
「花なら、重くなさそう」
「そうかもしれませんね」
「では、この依頼を受けますか?」
「はい」
「わかりました」
受付のお姉さんは書類をぱらぱらとめくって何かを確認している。
「ええと……花屋さんは今日の昼頃にこの町へ到着予定だそうですので、町の門でお待ちしてください」
「はーい」
「あの……」
「どうしました?」
「ギルド職員は同行しないのですか?」
「ああ、その点はご心配なく」
「この手の依頼は、依頼主がギルドにあなた達の働きぶりを報告するように決められています」
「報酬もギルドからではなく、依頼主から受け取ってください」
なるほど、そんな仕組みが。
「では、行ってらっしゃいませ」
――――――――――――――――――――
「あれじゃないか?」
「そうだね。お花がいっぱい積まれてるもん」
目の前の道から、大量の植木鉢を積んだ荷車を引いている人たちがやってきた。
そして、一人の女性が見張りの兵士に何か説明をしている。
その間に、他の人たちは町に入らず、来た道を引き返していった。
彼らもここまで荷物運びをしてきたのかもしれない。
あれ? でも、お金は?
前払いだったのかな?
僕が余計なことを考えていると、シャロールに声をかけられた。
「佐藤、あの人困ってるよ?」
推定花屋さんの女性はいつのまにか説明を終えていた。
彼女は何かを探すようにきょろきょろしている。
僕は手伝いをするために彼女のもとに歩み寄る。
「あの、今回荷物運びを手伝う冒険者の佐藤です」
目の前の彼女の顔がぱっと明るくなった。
「あら、あなたが手伝ってくれる冒険者の方なのですね」
「私、シャロールって言います! 佐藤と一緒にお手伝いします!」
「まあ、あなたも?」
「それじゃあ、お願いしようかしら」
彼女は後ろを見た。
「この荷車、商売道具をたくさん載せてしまったせいで、重くって」
僕が手を当てて、少し押してみるがびくともしない。
「あなたたち、まだ若いようだけど大丈夫かしら?」
「頑張ります」
「頑張る!」
「ふふ、元気な子達ね」
僕達は歩き始めた。
「失礼ですが、お名前は?」
「あら、私としたことが忘れていましたわ」
「私はロイルよ」
「ロイルさんですね」
「あの!」
シャロールが目を輝かせて尋ねた。
「ロイルさんはお花屋さんなんですか?」
「そうよ」
「じゃあ!」
「どうしてこの町に来たんですか?」
「シャロール、そんなに立て続けに質問したら迷惑だろう」
「あ……」
「いいのよ。私も暇でしたので」
ロイルさんはにっこり微笑んだ。
「私が以前いた町は有名な温泉街だったんですけど、最近近くの火山が噴火しまして……」
「えー!」
「火山灰で、お花がうまく育たないのです」
「だからこの町に……」
「はい、ここは空気もきれいなようでよかったです」
「大変でしたね」
「お気遣い感謝します」
「あの~、ロイルさん」
シャロールが申し訳なさそうに言った。
「何ですか?」
「目的地はどこなんですか?」
「もうしばらくしたら、見えてきますわ」
――――――――――――――――――――
「ここです」
目の前にはちょっとぼろい一戸建てがある。
まあ、大体シャロールの家と同じだ。
というか、ここって……。
「本当はもっと花屋さんに向いている建物を探していたんですけど……ここしか空き家がないと言われまして」
「あの、前に誰かが住んでいたとか訊きましたか?」
「え?」
彼女が怪訝な顔をした。
「いきなりこんなことを訊いてすみません。ちょっと気になって……」
「確か身寄りのない兄弟が住んでいたとか。いつのまにかいなくなったらしいです」
「そうですか……」
やっぱりそうだ。
ここはノーブとホープの家だ。
以前来たときよりだいぶぼろくなっているがおそらくそうだろう。
そんなことを考えていると、ロイルさんが
「まずは、掃除からです」
と言った。
あれ?
「荷物運びで終わりじゃないんですか?」
シャロールも隣でうなずいた。
「あら、それでもいいですけど……」
「報酬はでませんよ」
そんな!
しかし、報酬をもらわなければ依頼を達成できない。
「やります!」
シャロールが僕を見て、目を丸くした。
「……佐藤、めんどくさいよー」
小声で抗議された。
「……仕方ないだろう、シャロール。報酬がもらえないんだぞ」
「む~」
文句を言いながらも、シャロールは掃除を始めてくれた。
まずはクモの巣を落とさなければ。
――――――――――――――――――――
「よし。終わりですわ」
家の中は見違えるほどきれいになった。
「後は荷車のお花を中に運ぶだけですわ」
よ、ようやく終わった。
掃除って思いのほか疲れるんだよね。
「大丈夫か? シャロール」
「う、うん」
僕たちは最後の力を振り絞って、植木鉢に入った花々を運んでいく。
そして、残りが二つになったとき……。
「あ、その二つは私からあなた達へのプレゼントですわ」
今僕が持っている白い花とシャロールが持っている黄色い花のことか?
「「ありがとうございます!」」
「ふふ、二人ともよく頑張ってくれたわね」
「それと、これが今回の報酬金よ」
「こんなに……」
「わー! すごーい!」
モンスターを倒すよりもはるかに多い。
「それじゃあ、また機会があれば」
「今日は本当にありがとうございました」
「ありがとうございましたー!」
僕達はロイルさんの家を出た。
――――――――――――――――――――
「「ただいま……」」
「その様子じゃ、相当疲れたようね」
「はい……」
「うん……」
「あら? その花は?」
「もらったんです」
「あら、よかったわね」
「そこに飾って置いてちょうだい」
僕達は花を部屋の隅に置く。
「そう言えば、危ないって何のことだったんですか?」
「ああ、それは……」
「ノーブとホープは子供だから、大事な荷物を壊しちゃいそうで危ないでしょ」
「確かに」
「なんだとー!」
「そんなことない」
「わかった、わかった」
僕達はノーブとホープをなだめながら、夕食の準備を始めた。
――――――――――――――――――――
寝室にもわずかに花の香りが漂ってきている気がする。
いい香りでぐっすり眠れそうだ。
「おやすみ、シャロール」
「うん、おやすみ」
このまま順調に依頼を達成できればいいのだが……。
明日は何をするのかな?
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