First day
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「この始まりの町ケスカロールのギルドには常に八つの常設依頼があるわ」
「八つですか」
「そして、そのうちの一つは昨日あんた達が行ったスライム討伐よ」
「うん」
「つまり、残り七つを一週間でこなすことになるわ」
「一日に一つ……できそうですか?」
「それはあんた達次第って言ってるじゃない」
「……頑張ります」
「それより……」
「その管理人の言う依頼の達成が具体的にどういう意味かがわからないじゃない……」
確かにそうだ。
「報酬を受けとった時点で依頼達成と仮定しましょう」
普通、ゲームでもそうだからね。
「あたしもそう思っていたわ」
キャイアさんは僕の意見に乗ってくれた。
「その場合、相当手こずらない限りは何とかなるわ」
「本当ですか!?」
「最低一体倒して報酬をもらえば達成なんでしょ、大丈夫よ」
「よかったー」
「で、今日はワイルドウルフ討伐に行ってきなさい」
「「ワイルドウルフ?」」
「説明している時間はないわ、早く行ってきなさい」
僕達は家を追い出された。
――――――――――――――――――――
「ワイルドウルフは素早いので、一般的には遠距離からの不意打ちを仕掛けます」
ギルド職員が丁寧に解説をしてくれた。
「ですが、あなた達は……」
彼女は僕達をじっと見た。
僕もシャロールも剣と鎧を装備していて、とても遠距離攻撃をするようには見えない。
本当はノーブとホープを連れてきたかったんだが、昨日の疲れからか爆睡していた。
それに、まだまだ子供の彼らに戦わせるのもどうかと思うし。
「なんとかがんばりましょうね」
気を遣ってくれている。
「「はい」」
そんなこんなで、しばらく歩いているとギルド職員が言った。
「この辺がワイルドウルフの生息地です」
しかし、あたりを見渡しても……。
いた!
そこの草むらに何か犬みたいな生き物が隠れている。
こちらを警戒しているようだ。
僕がそーっと近づくとそいつは叫んだ。
「ガルルルル、ガウ!」
「うわ!」
僕はそれに怯んで、後ずさった。
しかし、そいつはその場から動かず、襲ってくる気配がない。
「おかしいですね。ワイルドウルフは基本一匹では行動しないのですが……」
へー、ワイルドウルフなのに一匹狼にはならないのか。
というか……。
「この人数で、群れを倒せるんですか!?」
「安心してください。もしものときは私が加勢します」
なんて頼もしいギルド職員なんだ。
「佐藤、このワイルドウルフさ、やっぱり変じゃない?」
「う~ん」
確かにそうだ。
ワイルドウルフがどんなモンスターかは知らないが、こちらを警戒しているにも関わらず逃げたり、戦ったりしないのはおかしい。
このままこいつを倒すことはできるかもしれないが、いくらモンスターとはいえほぼ無抵抗の生き物を殺すのは後味が悪い。
こいつ、何か事情があるのか?
けがをしているとか?
「ガウ! ガウ!」
しかし、僕が近寄ると叫びながら歯をガチガチさせている。
このままでは噛まれるのが怖くて、近づけない。
なんとか意思の疎通がとれればいいのだが、モンスターと話せるわけないし……。
いや、話せるといえば……。
「シャロールのスキルって確か……」
「いきなりどうしたの?」
「話術だよな」
「そうだけど?」
ということは……。
「モンスターとは話せるのか?」
「え!?」
「無理なのか?」
「う~ん、まだやったことないからわかんないよ」
「じゃあ、やってみてくれよ」
「……わかった」
シャロールは少し悩みながらも了承してくれた。
まずはワイルドウルフに近づいて……。
「ええと……」
「私の言葉わかりますかー?」
「ガウ!」
「ひぃっ」
「ワイルドウルフっぽく話さないとだめなんじゃないか?」
「え~??」
シャロールが見るからに困っている。
「早く、早く」
「う~」
シャロールの顔が赤くなっていく。
緊張しているのかな。
「ガウガウ?」
シャロールの口からこんな言葉が出てきた。
すごくかわいい。
こんなにかわいいワイルドウルフがいたら、食べられても本望だ。
「ガウ? ガウガウガウ?」
「ガウ! ガガウガウ!」
なんて言ってるのか、さっぱりわからない。
しかし、どうも会話しているようだ。
「こんなことができる人がいるんですね……」
「ギルド職員さんは初めて見るんですか?」
「はい。モンスターと意思疎通をとるなんて、今まで考えたこともありませんでした」
「へー」
シャロールのスキルはすごいのかもしれない。
「えっとね、わかったよ」
シャロールがこちらを向いた。
「彼の名前はイチロー。冒険者に襲われて、何とかここまで逃げてきたけどけがをして動けなくなったんだって」
そうか。
どうりで動かないわけだ。
「それでね、かわいそうだから……」
「回復してやってもいいんじゃないか?」
このままではいずれ死んでしまうからな。
それはかわいそうだ。
ただ……。
「その代わり、僕達を襲わないと約束してきてくれ」
「わかった」
シャロールは再びワイルドウルフ、イチローのもとに向かった。
「ガウガウ。ガウ」
「ガウガ!!!! ガガウ!」
なんだ?
まるで怒っているようだが。
「ガウ」
シャロールが落ち着かせる。
「ガウガウ。ワオーン」
おっ。
交渉成立か?
シャロールが回復ポーションをイチローに使った。
するとイチローは立ち上がり、シャロールにお辞儀をして去っていった。
「なんて言ってたんだ?」
「怒ってたよ、イチロー」
「なぜですか?」
「もともとワイルドウルフは人間を襲わないらしいの。なのに、人間はワイルドウルフを悪者だと決めつけて襲うから腹立たしいって」
「その話本当ですか?」
ギルド職員は信じられないという風に尋ねた。
「イチローが言うにはね、ワイルドウルフは人間に襲われたときに仕返しはするが自分達からは手を出さないんだって。それに……」
「それに?」
「人間の肉はまずそうで食べたくないって」
「なるほどなー」
人間の肉の味はわからないが……。
彼らをモンスターだからと殺してしまう僕達人間が悪者だったということは知らなかった。
「その話、興味深いですね」
「今度ギルドで調査してみます」
ギルド職員はそう言った。
「できることなら、ワイルドウルフを討伐依頼から外してあげてください。かわいそうなの、イチローやその仲間が」
シャロールはイチローと直接会話しただけあって、一層かわいそうに思うのだろう。
「はい。努力してみますね」
「それと、これ……」
シャロールがなにか牙のようなものを見せた。
「イチローからお礼にもらったの」
「ワイルドウルフの牙とはまた珍しいものをもらいましたね」
「そうなんですか?」
「ええ、換金すれば六十ピローになりますよ」
ワイルドウルフ一匹につき十五ピローと依頼板に書いてあったから、四匹分か。
かなりいいもののようだ。
「お金稼ぎになってよかったな、シャロール」
「私、売らないよ。お守りにするもん」
お守りか。
それもいいかもしれない。
「イチローが守ってくれるかもしれないな」
「うん、そうだね」
「それで、今日はどうしますか? もう帰りますか?」
あんな話を聞いた後じゃ、ワイルドウルフを狩ろうとは思わない。
けど……。
「これで討伐したことになりませんか?」
「うーん。本来は認められないのですが……興味深い話も聞けたことですし、いいでしょう」
「ワイルドウルフを一匹討伐したということにしてあげます」
「「ありがとうございます!」」
――――――――――――――――――――
「ふ~ん。そんなことがあったのね」
「うん」
「シャロールのスキル、すごいですよね」
「すごいでしょ、お母さん!」
「すごいねぇ」
キャイアさんは口ではそう言うものの、どこか上の空だ。
「それにしても、あたしは素早いモンスターに対応できるようにと思ってこの依頼を選んだのに……」
ああ、そういう理由があったのか。
「すみません」
「いやいや、謝ることじゃないよ。ワイルドウルフにそんな事情があったとはあたしも知らなかったわけだし」
「気を取り直して、あしたからはモンスターをズバズバ倒してきなさい」
「はい」
「うん」
とは言ったものの、モンスターに事情があるなんて考えたら倒すときに罪悪感が出てくる。
明日からの討伐に支障が出ないといいのだが……。
シャロールの方を見ると、僕と同じことを考えているのか不安そうな顔をしている。
「何か悩みがあるならいつでも相談に乗るぞ、シャロール」
「うん……。ありがとう、佐藤」
シャロールは浮かない顔のまま寝室に入っていった。
「あの子は良くも悪くも純粋なのよ」
「何かあったときはあなたがなぐさめてあげなさい」
「……」
僕はちょうどいい返事が浮かばず、黙ってしまった。
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