First Trial (最初の試練)

Zero day Ⅰ

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「今日こそは! レベルを上げたい!」


「佐藤って勇者なんだっけ」


「このままじゃただのニートになっちゃう!」


「ニートって……?」


「何もしてない人のことだよ」


「じゃあ、佐藤はニートだね」


 そんな直球で言われると傷つく。

 しかもシャロールに悪意はないみたいだ。


「とにかくギルドに行くぞ!」


「えー! もう行くの!?」


 まだ朝ご飯をほおばっているシャロールが慌てている。


「俺も連れて行けよ、佐藤」


「私も」


「えー……」


 シャロールが嫌そうな顔をした。

 しかし……。


「置いていくのもかわいそうだろ、シャロール」

「さあ行こうか、ノーブ、ホープ」


「「わーい!」」


「待ってー!」


 家を出ようとした僕にシャロールが慌ててついてきた。


――――――――――――――――――――


「まずはスライム討伐でいいか?」


「うん」


「俺は物足りないけどな」


「いいよ」


 僕は受付に依頼を受ける手続きをしに行く。


「スライム討伐にパーティーを組んで向かうのですか?」


「はい」


「固定パーティーですか? それとも一時的なパーティーですか?」


「固定ですが……人数って後から増減してもいいですか?」


「多少なら問題ないです。具体的には固定メンバーと登録した人の半数以上が依頼に参加している場合は固定パーティーとみなされます」


 半数か……。

 僕とシャロールとノーブとホープの四人で登録した場合の半数以上、つまり二人以上で依頼を受けるときは固定パーティーということになるのか。

 一人で依頼を受けることはないだろうから、まあ大丈夫だろう。


「じゃあ、固定パーティーです」


「ではパーティー名を決めてください」


「パーティー名?」


「固定パーティーは依頼達成報酬に特別なボーナスが乗ります。そして、固定パーティーであることを判別するためにパーティー名を決めてもらわなければならないという規則があるのです」


 パーティー名か。


「ちなみに固定パーティーを解散した場合、一定のペナルティがあります。気を付けてください」


 まじか。

 どんなペナルティが……。


「早く決めてください。こちらも仕事が溜まっているので」


 ええと……。


「佐藤の……」


「佐藤の?」


 どうしよう。

 何かいい案はないか。

 助けてシャロール~。

 シャロールの方を見るが、もちろん彼女は僕が何に悩んでいるかはわかっていない。

 僕と目が合ったシャロールは首をかしげた。

 まずい、受付の人がめちゃめちゃにらんでいる。


「猫耳……」


「猫耳?」


「ラブ……パーティーです」


「えー……佐藤の猫耳ラブパーティーですか?」


 冷たい視線が突き刺さる。


「はい……」


「わかりました。係りの者を呼んできますので少々お待ちください」


 ふう。

 とんでもないパーティー名にしてしまったが……。

 仕方ないじゃないか。何も思い浮かばなかったのだから。


「こんにちは。あなたが……『佐藤の猫耳ラブパーティー』のメンバーですか?」


「はい」


「他のパーティーメンバーは?」


「あ、今呼んできます」


 僕達は担当のギルド職員の人にあいさつをして、ギルドを出た。


――――――――――――――――――――


「スライムは基本的に町を出て……」


「あ! いたー!」


 職員の人から説明を聞いていたが、シャロールが見つけたようだ。


「すぐの野原にいます。やはりいましたね」


「えーい!」


 シャロールが剣を当てるとスライムはたちまち消え去った。


「まず一匹ですね」


 じゃあ、僕もあいつを倒そうかな。

 目の前にいるスライムに狙いを定めて剣を構える。

 が、よく見るとスライムの様子がおかしい。

 しばらく観察していると、黒く染まり消えてしまった。


「やったー! 俺も倒したぜ」


「はい。二匹目ですね」


 なるほど、今のがノーブの魔法か。

 こんなに簡単にモンスターを倒せるのか。

 せっかく倒そうとしていたのに出鼻をくじかれてしまった。

 気を取り直して、今度はあいつを倒そう。


「うりゃあ!」


 しかし、僕の剣はスライムに避けられた。


「この! この!」


 何度やっても避けられる。

 前はうまくいったんだが。


「佐藤、スライムも倒せないのー!」


「はっはっは」


 みんなに馬鹿にされてしまった。


「あのスライム、特殊なスライムじゃないんですか?」


 きっとそうに違いない。


「そうなの?」


「あれは……」


「他のスライムと違いますよね?」


「いえ、普通のスライムです」


「だよなー!」


 くそー。

 これじゃあパーティー最年長の僕の面目がまるつぶれだ。


「あ! こら、逃げるなー!」


 僕は夢中でスライムを追いかけた。


「あ、そっちは森ですよ! 危険なので戻ってきてください!」


 しかし、僕はスライムを倒すことに夢中になってこの忠告に気づかなかった。


「佐藤ー!」


 シャロールの声も遠くにいる僕には届かない。


「私、呼び戻してきます。ちょっと待っててください」


「わかりました」


 残されたノーブとホープは顔を見合わせる。

「じゃあ、暇だしスライムでも狩るか、ホープ」

「うん」


――――――――――――――――――――


「おら!」


 やっと一匹倒すことができた。

 後はこれをギルド職員に報告すればいい。


「倒しましたよ」


 僕はあたりを見渡して、職員を探すが……。


「あれ?」


 ここどこだ?

 まさか迷子になっちゃった?


「佐藤ー!」


 シャロールの声だ。


「こっちだ、こっちー!」


「ここー?」


 シャロールが草むらから出てきた。


「もう! 探したんだから!」


「ごめん、ごめん。そんなに怒らないでくれよ」


 僕はシャロールをなだめながらふと思った。


「シャロール、ここどこかわかる?」


 シャロールは急に冷静になって言った。


「わかんない」


「そうか……」


 どうしよう。

 完全に迷子だ。

 このままだとこの森をいつまでもさまようことになる。

 最悪ここで夜を明かすことになるかもしれない。

 だが、ここにはスライム以外のモンスターもいるだろうからそれは避けたい。


「どうしよう、佐藤?」


 シャロールが焦り始めた。


「まあ、落ち着けシャロール」


 僕達はこの森のことを何も知らない。

 だから、ここから抜け出すにはここについてよく知っている人が必要だ。

 しかし、そんな人がいないから今僕たちは迷っているんじゃないか。


 うーん。


「佐藤がちゃんとしてないからこんなことになったんだよ!」


 む。

 聞き捨てならない。


「人に当たるのはよくないぞ、シャロール」

「僕だって人間だ。抜けているところはある」


「そうだけど……」


「僕は神じゃないから、なんでもできるわけじゃないんだよ」


 ん? 神?

 そう言えば……。


「わかったぞ。シャロール」


「え?」


「ここから抜け出せるかもしれない」


「ホント!?」


 僕はスキルを選択した。

 そして、シャロールの手を握る。


「しっかり握っとけよ、シャロール」

「途中でどうなっても僕は責任取れないからね」


 シャロールはなぜか顔を赤くした。


「ど、どういうこ……」


「僕達は管理人に今会えない」


 フォン。

 <スキルが使用されました>

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