Second battle

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 ピピピピピ!


 ピピピピピ!


「なんだ!?」


 ああ、昨日目覚ましをかけたんだった。

 このゲームは目覚ましをかけることができることをこの前発見したんだ。

 使うことはない機能だと思っていたが、今日初めて使ってみた。

 なぜならみんなが起きる前にここを出なければいけないからだ。

 ばれたらきっと止められるから黙って出ていかなければならない。


「どうしたの? 佐藤」


 まずい。

 先ほどびっくりして声を出したからシャロールを起こしてしまったようだ。


「いや、なんでもないよ。ちょっと悪い夢を見ただけ」


「そう……」


 シャロールが再び寝たのを確認してから、僕は布団を出た。

 誰も起こさないように静かに玄関のドアを開ける。

 外はまだ真っ暗だ。


――――――――――――――――――――


「ここか?」


 昨日オリーブさんから聞いたところによると、果樹園を出てしばらく右に進むとコモサ洞窟が見えてくると言っていた。 

 このぽっかり空いている穴が入口か?

 朝日が洞窟の入口を照らしている。

 しかし、中は真っ暗だ。

 そこでしばらく待っていると誰かが近づいてきた。


「よ~、佐藤」


 振り返るとドラムが立っていた。


「来たか」


「どうせここまで来たんなら洞窟の中まで見学していこうぜ」


 ドラムは余裕そうな顔で言った。


「何のつもりだ?」


「いいじゃねーかよ」


 ドラムは僕の肩をつかみ、ぐいぐい洞窟の中へ引っ張って行った。


――――――――――――――――――――


「おー、きれいだな」


 この洞窟は鍾乳洞だったようだ。

 いたるところにとがった槍のような岩が見える。

 これって、ここに倒れたら串刺しになる?

 いやいや、そんなこと考えたくもない。


「ここなんていいんじゃないか?」


 洞窟を進むと開けた場所に出た。


「そうだな」


 洞窟にはまだ奥があるが、そこが危険なのだろうか。

 今のところは安全な気がするが。


「じゃ、行くぜ」


 ドラムは僕から距離を取った。

 どうやら始まるようだ。


「いつでも来い」


 僕がそう言い返すや否や、ドラムはこちらに向けて踏み込んできた。

 奴が重い一撃を放つのは知っている。

 昨日オリーブさんから聞いたようになんとか剣で受け流す。

 しかし、やはり力量差がありすぎる。

 防戦一方だ。


「どうした佐藤!?」


 ドラムは続けて数発打ち込む。


「こんなもんじゃねぇだろう!?」


 もう無理だ。

 次の一撃は耐えられそうにない。


「おらぁ!!」


「くっ!」


 僕は奴の攻撃をまともにくらい、固い地面を転がった。


「やっぱりあのときは何かずるでもしてたんだろう」

「なあ!?」


 僕はここで終わってしまうのか。

 次はどうし……。


 ゴゴゴゴゴゴゴ。


「なんだ?」


 洞窟が揺れている。


「まずい! 崩れる!」


 ドラムが出口に向かって走る。

 僕は先ほどのダメージが残っていて、まだ起き上がれない。

 このまま生き埋めになってしまうのか……。

 苦しいだろうな……。


 シュッ。


 ん?

 何かが目の前を通り過ぎた。


「ぐあ!」


 ドラムの叫び声が聞こえたような気がする。


「人の家でぎゃあぎゃあうるさいぞ、貴様」


 この声は誰だ?


「ふん、あの程度の奴に負けるとは哀れな虫けらよ」


「なんだと?」


 僕が立ち上がると目の前には……。


 なんだこれ?


 うっすら人型のモヤのようなものがある。

 声はそこから出ている。


「我は寝起きで機嫌が悪い。しかし、我は今非常に退屈だ」


「……それで?」


 僕はとりあえず返事をして、様子をうかがう。


「何か私の興味を引く話をしたなら、貴様を見逃してやるぞ」


 逆にしなかったら殺されるのか?

 とにかく僕に他の選択肢はないようだ。

 何か奴の興味を引くようなことを……。


「実は僕、この世界の管理人に会ったことがあって……」


「何?」


 モヤが揺らいだ。


「貴様、名を名乗ってみろ」


「佐藤……」


「佐藤?」


「くくく、そうか」


「何がおかしい」


 笑うようなところはなかった。


「お前があの勇者佐藤か」


 また「あの」佐藤か。

 どんだけ有名なんだ? 僕は。


「何のことだ?」


「ふん、貴様が知らなくてもいいことだ」


「そういうお前は誰なんだ?」


「ふっ、我に向かってお前とは失礼な奴だ」

「まあいい。我は魔王幹部の一人ジェクオルだ」


「魔王幹部!?」


「ああ、そうだ」


 僕はいずれこいつを倒さなければいけないだろう。


「そう焦るな」

「まだその時ではないのではないか?」


 こいつ、僕の思考が読めるのか?


「むしろ我は貴様と協定を結びたい」


「どういうことだ?」


「我はどうもあのガキ、管理人とかいう奴が気に入らなくてな」

「一緒にあいつを倒すというのはどうだ?」


「倒す……」


 考えてもみなかった。


「我は今ここで奴を倒す準備をしている。ゆえに、貴様には我を見逃してもらいたい」


「断ったら?」


 シュッ。


 目の前のモヤが僕の体を包み込んだ。

 息ができない。


「貴様は今ここで死んでしまうぞ?」


 シュッ。


「はあ、はあ」


 死ぬかと思った。


「どうする?」


 ここで死んでもまたやり直しはできる。

 なんなら次はこの洞窟に行かなければこんなことにはならないだろう。

 しかし、それではドラムにまた付きまとわれることになる。

 今はドラムが死んで絶好のチャンスだ。なんとか死なずに切り抜けたい。


「わかった」


「ほう。我はてっきり貴様が死んでやり直すことを選択すると思ったが」


 そんなことまで知っているのか。


「いや、もしかしたら我が気づいていないだけでもう何度かやり直しておるのか?」


「いいや、これが最初だ」

「でなきゃ、ドラムに負けてない」


「ふむ。確かにそうだな」


「……もう帰っていいか?」


 協定も成立したし、ここに長居する理由もない。


「待て待て、早まるな」

「せっかく協定が成立したのだから、記念にこの指輪を貴様にやろう」


 僕の手の中に指輪が現れた。


「あ、ありがとう」


「魔力が大幅に上がるおまけつきだ」


 そう言うと、ジェクオルだと思われるモヤは洞窟の奥へ消え去った。


――――――――――――――――――――


 僕がオリーブさんの家に帰るころにはもう日が高く昇っていた。


「どうしてあれだけ危ないって言ってた洞窟に行ったの!」


 家に帰るとシャロールがお怒りだった。


「私、心配したんだから!」


「あはは、ごめんよ」


 僕は笑って、ごまかした。


「あら、佐藤さん。その指輪は?」


 キャイアさんに指輪を見られてしまった。


「あー、拾ったんです」


 僕は適当なうそをつく。


「あらそう。きれいね」


 キャイアさんの目は少し疑っているようだった。


――――――――――――――――――――


 それから、僕達はキャイアさんの家に帰った。

 僕は結局誰にも今日のことを話すことができなかった。

 果たしてあの幹部と協定を結んだことが今後の展開にどうかかわるのだろうか。


 もしこの世界がゲームなら……。


 そんなことを考えながら、僕は眠りについた。

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