Second magic

 =Now Loading=


「起きなさいー。朝よー」

「今日は忙しいから、さっさと朝ごはん食べちゃいなさい」


 そうだった。

 今日は彼らのところに行かなければ。


「いつ行くんですか?」


「この後すぐ行くわよ」


「お母さん、暇だからね」


「なんか言ったかい? シャロール?」


「ううん、なんでもなーい」


「シャロールも暇でしょ。ついて来ないかい?」


「う~ん」


「というか、来なかったら一人でお留守番よ」


「それは嫌!」


 こうして、なぜかシャロールまで付いてくることになった。


「遊びにいくわけじゃないんだぞ」


「もー、わかってるって」


 本当かな?


――――――――――――――――――――


「ここです」

「普通の家だね」


 コンコン。


「すみませーん」


「はい」


 ドアが開いて、昨日の女の子が出てきた。


「あ、昨日のお兄ちゃんと……誰?」


 少女はシャロールとキャイアさんに不審な目を向けた。


「あたし達はそのお兄ちゃんの友達だよ」


「そうなの?」

「まあ、入っていいよ」


 彼女は僕らを家に入れてくれた。


「あなた、名前を何て言うの?」


「ホープ」


「あたしはキャイアだよ」

「こっちが娘のシャロール」

「そして、佐藤さんだよ」


「やっぱり」


「え?」


「あの佐藤でしょ?」


 あのって……。

 何か変な噂でも立ってるのか?


「昨日の男の子は?」


 さきほどから姿が見当たらない。

 女の子は奥の部屋をちらっと見て言った。


「お兄ちゃんは今取り込み中」


 へー、お兄ちゃんだったのか。


「お兄ちゃんの名前は?」


「ノーブ」


 次の瞬間奥の部屋のドアが開いた。


「ふ~、終わったぜ」

「って、なんだお前ら!?」


 ノーブは驚いた。


「昨日、来いっていったのはそっちでしょ、ノーブ君」


「な、どうして俺の名前を!?」

「ホープ、お前か!」


 ノーブがホープを指さした。


「で、僕に何の用?」


 僕がこう言うと、ノーブは僕をじっと見た。


「お前はどうして俺の邪魔をするんだよ!」


「邪魔って?」


「だから、俺の黒魔術を!」


「その黒魔術について教えてくれないかしら?」


「……おばさん、誰?」


「あたしはキャイアよ」


「キャイア?」


 ノーブは一瞬不思議そうな顔をして


「あー!!!」


 と突然大声を出した。


「佐藤、お前がこのおばさんにかかってた黒魔術解除したんだろ!」


 キャイアさんにかかってた黒魔術?

 まさか黒魔術って……。


「黒魔術にかかるとどうなるんだ?」


「え? あー……」


 ノーブの声が急に小さくなった。


「なんか……病気にかかった? みたいになる……と思う」


 やはりそうか。

 謎が少し解けた気がする。

 しかし、まだわからないことがある。


「どうして解除したらいけないんだ?」


「それは!」

「ドラム兄ちゃんが困るからだ」


 そういえば、昨日聞いたあの声は確かにドラムだったな。


「どうしてあなたはそのドラム兄ちゃんに従うの?」


「だって、ドラム兄ちゃんは俺たちの恩人だから」


 恩人?


「兄ちゃんは俺たちの世話をしてくれたんだ」


「世話?」


「そう。優しいからご飯とかくれるんだ」


 ドラムとはそんな関係だったのか。


「お父さんとお母さんは?」


 キャイアさんがそう尋ねた。

 確かに彼らの両親は見当たらない。

 何か事情が……。


「……お父さんとお母さんはもういない」


 ノーブは悲しそうに言った。

 その言葉をどういう意味で言ったのかはわからない。

 しかし、彼らにはドラムしか頼れる人がいなかったのが伝わってきた。

 彼の言ったことは本当なのだろう。


「だから……ドラム兄ちゃんが黒魔術をかけろって言ったから……」


「そんなの……」


 シャロールがつぶやいたのが聞こえた。

 そして、次の瞬間それは叫びに変わった。


「そんなの許せないよ!」

「あんなことして!」


「はあ? なんだよ、お前」


 ノーブはわけがわからないといった顔だ。


「お母さん……死んじゃうと思ったんだから……」


 シャロールは泣き崩れた。

 隣から聞こえるシャロールの泣き声を聞きながら、僕はこの場にシャロールを連れてくるべきじゃなかったと後悔した。

 ノーブが何をしたかは昨日の時点で予想できたじゃないか、僕の馬鹿。

 つらいことを思い出させて悪かったなシャロール。ごめんよ。


「落ち着きなさい、シャロール」


 キャイアさんが慰めるようにシャロールの背中を優しくさする。

 そして、ノーブの方を向く。


「あなた達はドラムの言うことに従うのね?」


「そうだ!」


「じゃあ、こんな風に悲しむ人が出てもあなたは何も思わないの?」


「それは……」


「あたしみたいに苦しむ人がいるのよ?」


「……」


 ノーブは黙ってしまった。

 しばらく沈黙が流れる。


「やっぱり……」


 ノーブが小さな声で話し始めた。


「やっぱりつらかったのか? 黒魔術にかかって……」


「ええ」


「……」


 ノーブは再び黙り込んだ。

 みんなが固唾を飲んで、ノーブがどうするかを見守った。


「ごめんなさい!!!」


 意外にもノーブは謝罪の言葉を述べた。


「黒魔術は人間に使っちゃだめなのは知ってたんだ!」

「でも……」


 ノーブは言葉に詰まっている。


「いいのよ。誰だって間違えてしまうことはあるもの」


「お母さん?」


 シャロールは信じられないという顔をしている。


「あなたは自分の過ちを認めることができて偉いわ」


「え……」


 ノーブは予想外の返答だったからか、あっけにとられている。


「あなたはこれからどうしたいの?」


「俺……」


「もうこんなことしたくない!」


 その叫びには決意がこもっているように聞こえた。


「そうね。ならそうしましょ」


 しかし、ノーブは困ったようにこう言った。


「でも、そしたら俺たちドラム兄ちゃんに逆らうことになるし、ご飯も……」


「じゃあ、あたしの家に来ればいいじゃない」


「え?」


「お母さん!?」


「もうすでに二人も世話してるんだから、もう二人増えても変わらないわよ」


 キャイアさんは何食わぬ顔で言った。


「さあ、そうと決まれば早く荷物をまとめなさい」


「ここを出ていくのか?」


「ここにいるとあなた達はまたドラムと悪いことをすることになるわよ。それでいいの?」


「それは……だめだ」 


 そう言って、ノーブは荷物をまとめ始めた。


――――――――――――――――――――


「おーい、ノーブ?」


 ドラムがドアを開けて、家の中に入るが誰もいない。

 人気のない暗い室内にはテーブルがあるのみだ。


「なんだこりゃ?」


 テーブルの上には紙が一枚。


「佐藤とその仲間が来て、悪いことしちゃだめって言うからやめました。兄ちゃん、さよなら」


 その瞬間ドラムの中で何かが切れた。


「またあいつか」


 彼はその書置きをぐしゃぐしゃに丸めて踏んづけた。


「今に見てろよ、佐藤」


 ドラムは吐き捨てるようにこう言った。

 宵闇の中、彼の瞳は怒りで炎のように燃え上がっている。


――――――――――――――――――――


「よろしくお願いします、シャロールお姉ちゃん」


「よろしくね。ホープちゃん」


「よろしく! 佐藤」


「ああ、よろしく。ノーブ」


 僕達の生活は、彼らが加わることでより一層にぎやかになりそうだ。


「しかし、こんなに大人数の世話をするにはお金が必要になってくるわよ」

「私の貯金ももうなくなりそうだし」


「それなら、僕が依頼を受けてお金を稼いできますよ」


 レベル上げもしなきゃいけないし。


「じゃあ、私も行くー!」


「ありがとう、シャロール」


 シャロールはなんだかにこにこしている。


「俺達も行くぞ!」


「うん」


「え!」


 なぜかシャロールが驚いた。


「あら、冒険者登録は大丈夫なの?」


 キャイアさんがこう尋ねた。

 なるほど、シャロールも同じことを考えていたのだろう。


「もう済ましてある」


「私も」


 冒険者登録をこんなに小さいときから……。

 まだ小さいので心配だが、仲間は多いほうがいいかもしれない。


「むうー」


 シャロールはなぜか不満顔だ。


「仲間は多い方がいいだろ、シャロール」


「そうだね!」


 少し怒っている気がする……。


「シャロールったら、残念だったわね」


「からかわないで!」


 こんな調子でにぎやかな夜が過ぎていく。


――――――――――――――――――――


「ノーブ、話があるんだ」


「なんだ?」


 ノーブは眠そうに答えた。

 もうみんなは寝室に行っている。

 その前に話しておきたいことがあった。


「今日、誰かに黒魔術かけてなかったか?」


「そうだけど」


「あの後どうした?」


「どうって……」

「あ!」


 ノーブは目が覚めたようだ。

 ステータス画面を出して、何かをし始めた。

 しばらくしてノーブは胸をなでおろす。


「終わったか?」


「佐藤がいなかったら、解除するの忘れるところだったぜ」


「よかった」


 これで一安心だ。


「もうこんなことするなよ」


「わかってるよ!」


「さ、早く寝るぞ」


 僕達は寝室に入った。

 すると、思わぬことが起きた。


「ノーブ君とホープちゃんはおばさんとベッドで寝ましょうね」


 キャイアさんがこう言ったのだ。

 まあ、僕より小さい子供をベッドから追い出して、硬い布団に寝ろとはさすがに言えない。

 シャロールも同意見のようだ。


「へへー、いいだろう。佐藤」


「ふかふかのベッド」


 ノーブとホープはうれしそうで、なによりだ。


「佐藤さんとシャロールは布団で寝るのね」


「はい」


「うん」


 僕は再びシャロールと同じ布団で寝ることになってしまった。


「それじゃ、おやすみ」


――――――――――――――――――――


「佐藤、起きてる?」


 暗闇の中でか細い声が聞こえた。


「もう……寝ちゃった?」


「いや、起きてるよ」


 こんな時間になんだろう。


「私ね……まだ許せないの」


 ああ……その話か。


「そうだな……」


「どうしてお母さんはあんなこと言えるんだろう?」


「それは……僕もわからない」


「……やっぱり私も……許さなきゃいけないの?」


 シャロールの声が若干震えている。

 まだ気持ちの整理がつかないのだろう。

 僕はシャロールを慰めるためにこう言った。


「自分の気持ちにうそをつかなくてもいいんじゃないか?」


「え?」


「許せないならそれでいいじゃないか」


「でも……」


「彼らを許すかどうかは自分で決めるんだ、シャロール」


「自分で?」


「シャロールが許したいってときが来るまでは、許さなくてもいいと思うよ」


「いいのかな?」


「だから、それは自分で決めろって言ってるだろ、シャロール」


「……」


「これから彼らと一緒に暮らして、その中で決めればいいと思うよ」


 シャロールから返事はない、完全に何も言わなくなってしまった。

 もしかしたら、寝てしまったのかもしれない。

 僕も眠りに着くことにした。


「ありがとう……佐藤」


 眠る直前にシャロールの声が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る