Black Magic (黒魔術)

First magic

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「あんた達、暇ならギルドで依頼でも受けてきたら?」


「依頼?」


「そう。モンスターを倒せば経験値やお金がもらえるのよ。行かない理由がないわ」


「特に佐藤さんは勇者なんでしょ。こんなところでだらだらしてないで早くレベルを上げたほうがいいんじゃないかい?」


 うっ。

 確かに……。


「なんだかおもしろそうだね、佐藤」


「そうだな。行ってみるか」


――――――――――――――――――――


「これが依頼板だね」


「結構あるな」


 そこにはたくさんの依頼書が貼り付けてある。


「このスライム討伐が一番簡単って言われてるんだよ」


「へー」


 スライム討伐には苦い思い出があるが、これが最初にもってこいなのは事実だろう。


「じゃあ受付に言ってくるよ」


「あ、待って」

「私、忘れ物したみたい」

「取ってくる!」


 そう言って、シャロールはギルドを出ていった。

 家までそんなに遠くはないし、すぐ戻ってくるだろう。

 それまで……。


「あの~」


 声の聞こえた方を見ると、見知らぬ女の子がいた。


「ここらへんでぬいぐるみを見ませんでしたか?」


 これはイベントなのか?

 それにしてもこのゲーム、やたら女性が出てくるな。


「いいや、見てないよ」


「そうですか」


 女の子はがっかりした。

 このまま放っておくわけにもいかないので、話を続ける。


「一緒に探そうか?」


「ありがとうございます」


 女の子はかわいくおじぎをした。


――――――――――――――――――――


「ここにいたときは手に持っていたの」


 僕たちはギルド裏の広場に来た。


 早く見つけて、シャロールが心配する前に戻らなければ。


「あそこのベンチに座らせてたの」


 う~ん。

 下に落ちてたりしないかな。

 僕はしゃがみこんだ。


「う!」


 その瞬間突如として、後ろから何者かにぶん殴られた。

 意識がもうろうとしてくる。


「よくやった、ホープ」


――――――――――――――――――――


 ここは?

 目を開けるとどこかの家の中だ。

 僕の体は椅子にロープで拘束されている。


「お目覚めのようだね、佐藤君」


 僕の目の前には椅子に座った男が……。


「子供じゃないか」


「な!?」

「今俺を馬鹿にしたな!?」


「馬鹿にはしてないよ」


「その子供と話すみたいな態度やめろよ!」

 少し気が抜けたが、部屋の中には緊張感が漂っている。


「で、どうして僕をここに拘束してるんだ?」


「知りたいか?」


「教えてくれるとうれしいなー」


「仕方ない。教えてやろう」

「お前、俺の魔法をどうやって解除したんだ?」


「魔法? 解除? なんのことだ?」


「俺が子供だからってなめてると痛い目にあうぜ」


 少年はナイフをちらつかせた。


「待った、待った」

「本当にわからないんだ」


 僕がそう言うと、そいつは興奮して


「俺が黒魔術をかけて、病気になった人がいただろ!」


 と言った。

 まさかキャイアさんやノーチルさんのことか?


「どうって……スキルで」


「はあ?」


 少年はそんな馬鹿なという顔をした。


「あれは使用者である俺しか解けない魔法だぜ?」

「お前の言うことは嘘だね」


 困ったな。信じてくれない。


「あー、俺のスキルはなんでもできるんだ」


「まだ嘘をつくのか?」


「嘘じゃないって」


「試しに今使ってみようか?」


「ふん、やってみろ」


 僕はスキルを選択する。


「僕の体を拘束しているロープが消えない」


 フォン。

 <スキルが使用されました>


 ロープが跡形もなく消えてしまった。


「な、なに!?」


 少年は愕然とした顔をしている。


「あー……帰っていいい?」


「逃がすか!」


 少年はとびかかってきた。

 しかし、あのドラムに比べれば大したことない。

 オリーブさんとの練習で体力や反射神経なども少しは上がっていたのかもしれない。

 なんなく避けて、僕は部屋のドアに走る。

 ドアを開けると、さっきギルドにいた女の子がテーブルでご飯を食べていた。


「あ、帰るの?」


「う、うん」


「ホープ、そいつを捕まえろ!」


 後ろから少年が大声で叫ぶ。


「無理。ご飯食べてる」


 僕達はしばらく狭い部屋の中で追いかけっこを続けていた。


 ドンドン。


「ノーブ、何やってんだ~。入るぞ~」


「ヤバ、隠れて!」


 そう言って、少年は僕を奥の部屋に押し込んだ。


「何やってたんだ?」


「あはは、ちょっとね」


 ん?

 聞き覚えのある声だな。


「次の獲物はこいつだ。名前は……」


 獲物?


「よろしく頼むぜ」


「わかったぜ、兄ちゃん」


「最近はあの佐藤とかいう野郎のせいで、せっかくお前ががんばってくれているのに稼げなくてすまないな」


 佐藤?

 僕ですか?


「そんなこと気にしないでいいよ! あいつは俺が捕まえて二度と邪魔できないようにしてやるから」


「はっはっは、そいつはありがてえ」


「そんじゃ、またな」


「ばいばいー」


 部屋が静まり返る。

 そして、ドアが開いた。


「あの……俺おなか減ったから……ご飯食べたいから……」


「今日は帰ってくれ」


「は???」


「早く!」


 僕は家を追い出された。


「また明日来いよ!」


 なぜ?

 そう尋ねる前に玄関の戸は閉められた。

 気づけばもう夕方だ。


――――――――――――――――――――


「もー! 私心配だったんだから!」


 家に帰るとシャロールがかんかんに怒っていた。

 幸い彼らの家はギルドの近くで、しばらく歩いたらここに帰れた。


「メッセージ送っても返事してくれないし!」


 本当だ。

 ものすごい数のメッセージが来ている。

 メッセージは受信したら音がするはずなんだけど……。

 来すぎて通知音がバグったのかもしれない。元からこのゲームはバグってるし。


「ごめん、ごめん」

「いきなりどこかもわからない場所に連れていかれて、拘束されてたんだよ」


「え……」


 シャロールが驚いて、口をぽかんと開けている。


「どうやって帰ってきたんだい、佐藤さん?」


「えっと……帰っていいって言われたんです」


「は?」


 シャロールはあのときの僕と同じ反応をした。

 仕方なく、僕は詳しい状況を説明した。


「どうやらわけありみたいね」


「そうですね」


「じゃあ、明日私もそこにいくわ」


「お母さん!?」


「そんな子供達を放っておけないでしょ」


「でも……大丈夫なの?」


 シャロールが心配そうにしている。


「佐藤さんがいるから大丈夫よ」


「え?」


「うーん、そうだね」


「ええ!?」


 なぜか僕はやたらと信用されているみたいだ。


「さあ、今日はもう遅いから寝るわよ」


「「はーい」」

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