Administrator (管理人)

Unknown

 =Now Loading=


「佐藤……?」


「うーん……シャロール?」


「「……」」


「「うわぁ!」」


 僕達はベッドから飛び起きた。


 そうだ。

 昨日はあのまま寝てしまったのか。


 目を覚ますとシャロールの顔が目の前にあって驚いた。


「あんた達、起きたんなら朝ごはん食べなさいー」


「う、うん」


「は、はい」


 僕達は緊張しながら寝室を出た。


「あんた達が仲良くベッドで寝てたから、あたしは布団で寝たんだよ。おかげで肩こりがひどくて」


「すみません」


 あれ?

 でもあのベッドで三人で寝たことあったような。


「お母さん、私寝ぼけて何かしてなかった?」


 シャロールが焦りながら尋ねる。


「シャロールは昔からよく寝ぼけてあたしに抱きついたりしてたからね~」


 シャロールの顔がみるみる赤くなる。


「……昨日は知らないわよ」


「そ、そうだよね」

「昨日は何もなかったかも」


「おとといはしっぽを動かしてたけどね」


「え!? さ、佐藤!?」


「ほー。その話、詳しく聞きた……」


「きょ、今日は何をするの? 佐藤!」


 シャロールがキャイアさんの言葉を遮る。


「今日はスキルの練習をしようかなー」


「またあの広場に行くのね?」


「はい」


「私も行くー!」


 シャロールが元気に叫んだが……。


「ごめんよ、シャロール」

「今日は一人でいたい気分なんだ」


 ここ最近はシャロールやオリーブさんと行動を共にしていたので、たまには最初の頃みたいに一人で町を探索したい気分だった。


 シャロールはしゅんとして、うつむいてしまった。


「そっか……」


「仕方ないわね、シャロール」


「今日はお母さんと買い物に行きましょ?」


「うん……」


 シャロールのしょんぼりしている顔を見ていると心が痛む。

 しかし、今日は一人で行動すると決めたんだ。


「昼までには帰ってくるからそんなに落ちこまないでくれよ、シャロール」


「じゃあ、一緒に買い物行けるの?」


「ああ」


「わかった! 早く帰ってきてね!」


 とりあえず元気になってくれてよかった。

 そんなこんなでシャロールと約束をして、僕は家を出た。


――――――――――――――――――――


 さて、まずは何をしようか。

 おとといノーチルさんの病気を治したときに気づいたことがある。いや、確信したというべきか。


 どうやら僕のスキルは『ない』に関係しているようなのだ。


 あのとき、いやキャイアさんを治したときも僕は「病気が治らない」と言った。

 すると病気が治った。


 これは何かの偶然かもしれない。

 しかし、偶然が二度も起きるだろうか。


 それと僕がシャロールの家に初めて訪れたときにも僕はスキルを使った気がする。

 あのとき僕は焦りから「時間がない」と言ったはずだ。

 その結果としてスキルが使用され、時間が巻き戻ったのではないか。


 どうしてこんなことが起きるのかはわからないが、僕のスキルは『ない』に関係していそうだ。

 もしかしたら『ない』という言葉が入っている発言だったら、スキルが使用できるのかもしれない。

 だからこんなこともできちゃったりして。


 僕はスキルを選択してこう宣言する。


「僕はこのゲームをまだクリアしていない」


 フォン。

 <スキルが使用されました>


 しかし、何も起きな……い?


 ジジジジガーガガーザザザ。


 ん?

 世界が崩壊していく。

 この光景見覚えがあるような。


 =システムエラー=再構築します=


――――――――――――――――――――


「ここは……」


 一度来たことがある灰色の空間だ。

 しかし、前回とは違うところが一つ。


「全く君ってやつは……」


 目の前にフードを被った少年がいる。


「ゲームの楽しみを知らないのかい?」

「僕の苦労も少しは考えてくれよ」


「あの、あなたは誰ですか?」


 目の前の彼は、ため息をついた。


「そんなことどうだっていい」


「もしかして神様ですか?」

「それともこのゲームの制作者とか?」


「もーめんどくさいなー」

「大体そんなものと僕を一緒にしないでくれ」


「では、あなたは?」


「強いて言うなら管理人だね」


「管理人……」


「そう。この世界の管理は全部僕がやってるんだ」


「……」


「で、本題に入らせてもらうよ」


「本題?」


 なんだろ……。


「君は間違っている!」


 彼は突然大声を出した。


「確かにこの世界はまだまだ不完全だ」

「例えば君のアイテムは文字化けしている。チュートリアルだって、ちょっと雑だった」


 ちょっと? あれはだいぶでは?


「それは君という存在が少々特殊だからなんだけど……」


「特殊って?」


「もうわかっているだろう?」

「君は何度死んでも生き返るじゃないか」


 確かにそれは普通じゃない。


「おまけに君のスキルだ」


「スキルがどうかしたんですか?」


「あのスキルは処理が難しい。だから慎重に使ってほしいんだ」

「なのに!」

「君があんなことをするんだもの」


「あんなことって?」


「君、馬鹿なの?」


 管理人は嘲笑した。


「さっき自分がスキルを使って何をしようとしたか覚えてるでしょ?」


「ただゲームをクリアしていないと言っただけじゃないか」


 あわよくばゲームクリアになると思っていたのだが。


「それだよ!!!」

「もう君もわかっていると思うが、君のスキルは無限の可能性を秘めている」

「本当は病気を治すためだけにスキルを使うと想定していた。けれど君がスキルを選択して時間がないなんて言うから、僕が気を使って朝からやり直しもさせてあげたじゃないか」


 やはりあれはスキルが関係していたのか。


「なのに! それに飽き足らず君は!」

「ゲームをスキルの力でクリアしようとしただろ!!!」


「ただクリアしていないって言っただけ……」


「だから! それでゲームをクリアできるとわかっててそう言ったんでしょ!」


 ばれていたか。さすが管理人だ。


「だめなの?」


 僕は開き直った。


「だめだよ!」


「君はあれか? いわゆるRTA走者なのか?」

「せめて初見のときくらいまともにプレイしてくれよ!」

「忙しい現代人は何かと時短を求め……」


 なるほど。

 このスキルでゲームをクリアするのはいけないことのようだ。

 彼は正規の方法でクリアしてほしいらしい。

 つまり、僕のスキルであまり大それたことを行わない方がいいようだ。

 さもないと、また彼から呼び出されそうだ。


「……そんなわけで、わざわざここに呼び出した僕の苦労も考えてくれよ」


「すみません。聞いてませんでした」


「なんだって!?」

「まあ、大したことは話してなかったからいっか」

「じゃ、今後はそのスキルを常識の範囲内で使ってくれよ」


「スキルを使ってお金を増やしたり、レベルをカンストさせるのは?」


「だめ!!!」


「さもないと僕の怒りに触れて……」


「触れて?」


「永遠にこの世界に閉じ込められるよ」


 彼がそう言った一瞬、フードの下から彼の顔が見えた。

 あどけない少年の顔でありながら、そこには背筋が凍るような冷徹な表情が浮かんでいた。


「さ、帰った、帰った」


 再び世界が崩壊していく。


 =再構築完了=ゲームスタート=


――――――――――――――――――――


「はっ」


 ここはギルド裏のあの広場。

 来たときは朝だったが、いつのまにか昼になっている。

 早く戻らないとシャロールを怒らせてしまう。

 僕は家に向かって走り出した。

 本当はスキルの練習をしたかったんだが、さきほどのことが夢でないならば恐ろしくてとてもスキルを使う気にはなれなかった。


――――――――――――――――――――


「佐藤はどこにいたの?」


 シャロールが尋ねた。


「広場でスキ……」


「嘘だ!」


 シャロールはどこかで聞いたことがあるようなセリフを放った。


「だって私が広場に行ったら佐藤いなかったよ?」


 結局シャロールは僕に会いに来たのか。


「えっと……その……」


「シャロールという彼女がありながら浮気かい、佐藤さん?」


「えー!!!」


 根も葉もないことを言われた僕よりもシャロールが驚く。


「別にいいじゃない、シャロール」

「佐藤さんの彼女じゃないって前に自分で言ってたでしょ」


「でも……」


 なんだか話がとんでもない方向に行っているので収拾をつける。


「人と会う用事があったんです」


「やっぱり浮気ね」


「そんな……」


 シャロールが落ち込んでいる。


「男の人だから、浮気じゃないよ」


「そっか!」


 シャロールの顔が一転して明るくなった。

 シャロールは僕の何を心配しているのだろうか。


「お昼ご飯を食べたら買い物に行くわよ」 


――――――――――――――――――――


 午後は買い物を楽しんだ。

 異世界ならではの面白いものを見ることができて楽しかった。

 しかし、その最中僕の頭の中では午前中の出来事への様々な思いが渦巻いていた。


 この世界の管理人……。

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