Third apple
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「佐藤、朝だよ」
いつのまにか寝てしまっていたようだ。
シャロールはもう布団から出ている。
「おはよう」
「もうすぐ朝ごはんだから来なさいって」「早く起きてよ」
「う、うん」
なぜだかシャロールが少し冷たい。
そういえば昨晩のしっぽはどうなったんだろ。
シャロールが自分でほどいたのかな。
僕が布団をたたみながらシャロールの方を見ると、彼女はしっぽを大切そうに撫でていた。
「佐藤に……しちゃった……」
「どうかしたのか? シャロール」
「え、ううん。何でもないよ!」
「早く行こっ!」
シャロールは慌てて部屋を出て行った。
――――――――――――――――――――
「今日は何か予定が?」
オリーブさんが僕達にこう尋ねた。
「ないです」
「ないよー」
「では、また剣の練習を一緒にしませんか?」
「それはいいですね」
ついこの前ドラムに負けそうになったので、ありがたい。
今度はシャロールの力を借りずに勝てるようになりたい。
「シャロールはどうする?」
「う~ん」
シャロールは悩み始めた。
「やって損はないですよ」
「それに……」
「それに?」
「私に剣を習えば初級クエストは楽勝になりますよ」
オリーブさんは自身満々にこう言った。
「やる!」
シャロールはその言葉に食いついた。
いやだまされたと言うべきか?
しかし、オリーブさんの剣の腕前が優れているのは確かだ。
なにせあのドラムを追い払ったのだから。
僕達は朝ごはんを食べて、外に出た。
――――――――――――――――――――
「今日はここらへんにしましょう」
朝から始めた練習は昼まで続いた。
もっとも、時間の進みの早いこの世界のことだから、僕の元居た世界に換算すると二、三時間といったところかな。
「疲れた……」
足がうまく動かない。
剣を持つのはもちろん手だが、剣技は全身を使うので手が筋肉痛になるだけでは済まないようだ。
この後シャロールの家まで戻ることを考えるとさらに体が重く感じる。
まずは昼ご飯を食べて、帰りのことはそれから考えよう。
僕は重い足を引きずりながら、家に向かうオリーブさんについて……。
「ぶっ!」
オリーブさんが突然立ち止まったのでぶつかってしまった。
「どうしたんですか……?」
彼女はどこかを見ている。
視線の先には見覚えのある奴らがいた。
「どうだい? お父さんの調子は?」
「……」
「俺たちが薬を売ってやってもいいんだぜ?」
「その必要はありません」
「ああ?」
ドラムは見るからに困惑している。
「何馬鹿なことを言ってんだ?」
「あのノーチルだって、黒魔術にかかったら……」
「わしがなんだって?」
声の方を見るとノーチルさんが来ていた。
「な、馬鹿な!?」
「残念ながらわしはぴんぴんしておるぞ」
「どうやったんだ! てめえ!」
「そこにいる佐藤君のおかげじゃよ」
「あん!?」
ドラムが僕をじろりと見た。
「てめえはあの時の!」
「お前はどうして俺の邪魔ばかりするんだ!?」
怒りで体が震えている。
「死ねえ!」
ドラムがベルトに差していたナイフを抜き、僕に向かって突っ込んでくる。
このままではナイフを突き立てられ、死んでしまう。
しかし、疲れている僕にそれを避ける体力は残っていない。
これは死んだか?
ガキィン。
「怒りに身を任せていると良い動きができないぞ」
いつのまにか剣を装備していたノーチルさんが、目にもとまらぬ速さで割って入った。
あのオリーブさんのお父さんだ。
現役の冒険者にも引けをとらない実力者なのだろう。
おかげで僕には傷一つない。
「しかし、力はなかなかのものだ」
そう言いながら、ドラムのナイフを押し返した。
「ちぃっ!」
ドラムはくやしそうな顔をした後に
「覚えてやがれよ小僧!」
と捨て台詞を吐きながら去って行った。
「ありがとうございます!」
「なに、これくらいのこと」
ノーチルさんは余裕の顔だ。
「しかし、あれくらいの攻撃はしっかり裁けるようにならないと冒険者としてやっていけんぞ、佐藤君」
「そうですね」
オリーブさんも同意した。
「これから頑張って上達しましょうね」
彼女は天使のような笑顔を見せてくれた。
しかし、同時にあの地獄のような練習を思い出し、僕は複雑な顔になった。
「は、はい」
――――――――――――――――――――
「帰りました」
あれから昼ごはんもごちそうになって、僕達はようやく家に帰った。
「あら、おかえり」
お母さんは料理をしている。
「ノーチルはどうだったの?」
「安心してしてください。キャイアさんみたいに元気になりました」
「よかった」
お母さんが胸をなでおろした。
「それと……私のことはおかあさんと呼んでもいいのよ~」
「い、いえそんな」
「娘の彼氏なんだからそれくらい……」
まさか「お義母さん」の話?
「そういえば、シャロールはどこなの?」
「シャロールは……ここです」
僕は振り返って、背中で寝ているシャロールを見せる。
「あらまあ、シャロールったら」
「ごめんなさいね、佐藤さん」
「そのままベッドまで運んでくれないかしら」
「はい」
僕は寝室のベッドにシャロールを寝かせる。
午前中の剣の練習で相当疲れたのだろう。
道中でシャロールが「眠たい」と言って、原っぱに寝っ転がったときはどうしようかと思った。
放っておくわけにはいかないから、おんぶして家まで運んだのでものすごく疲れた。
背中からシャロールの柔らかい肌の感触や体温を感じたが、それよりもふらつく足を動かすのに必死だった。
しかも、町中で周りの人にじろじろと見られたのが恥ずかしかったし……。
そして、こんなことを言うのは失礼だがシャロールはそこそこ重かった。
きっと明日は筋肉痛で動けなくなるだろう。
今日はしっかり寝て、体力を回復させなくては。
……というか寝ているシャロールを見ていると、僕も眠くなってきた。
眠くて頭がぼーっとしてきた僕は、思わずシャロールの隣に倒れこんだ。
「佐藤さん?」
誰かが僕を呼んでいるようだが、眠気には勝てない。
「あんた達はホントに仲がいいんだから、まったく」
そのまま眠ってしまう。
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