Second apple Ⅱ

「お父さん」


「おお、オリーブどうした」

 オリーブさんのお父さん(ノーチルさんだっけ?)はベッドに横たわっている。


「彼が病気を治してくれるらしいわ」


「は、はじめまして。佐藤です」


「なんだ~? こんなひょろい奴が治せるのか?」


「もうっ! お父さん!」


「で、そっちのお嬢ちゃんはもしかして……」


「私、シャロールです」


 シャロールは緊張している。


「久しぶ……」


「ゴホッゴホッ!」


 ノーチルさんは苦しそうにせき込み始めた。


「お父さん大丈夫!?」


 オリーブさんが背中をさする。

 そして、僕を見た。


「治せそうですか? 佐藤さん」


「やってみます」


 僕はシャロールのお母さんを治したときのようにスキルを選択した。

 しかし、ここからどうすればいいんだ?

 未だにこのスキルの詳しいことはわからない。

 なにしろ説明が何もないのだから。


「どうですか?」


 オリーブさんが心配そうな顔をしている。


「あのときはどうやったの? 佐藤?」


「ええっと、あのときは……」


 シャロールがお母さんの病気は治らないと言った。

 そして、その後僕も治らないとつぶやいた。

 するとスキルが使用されたとメッセージが……。


「スキルには条件があるものもあるって、前に言ったよね?」


 そうだ、条件か。

 しかし、それがわかっているなら苦労はしない。

 確実に言えることは、あの時何かの条件を満たしていたということ。

 そうでなければスキルは使用できないはずだ。


「無理なようでしたら諦めていただいても……」


 思い出せ。

 あの時僕は何をした?


「佐藤?」


「病気が治らない」


 僕はそうつぶやいた。


「そうですか……残念です……」


 フォン。

 <スキルが使用されました>


 成功だ。

 どうやら僕の推測は当たっていたようだ。


「ん?」


「お父さんどうしたの?」


「治ったぞ!」


 ノーチルさんはベッドから飛び起きた。

 そのまま僕のところまで歩み寄り、僕の手を握る。


「ありがとう、佐藤君!」


「ど、どういたしまして」


「本当に治ったの? つらくないの?」


「今から剣の特訓をしていいぐらい元気になったぞ」


「お父さん……よかった……!」


 オリーブさんは目に涙を浮かべている。


「スキル使えたの?」


 シャロールが尋ねた。


「ああ、完璧だ」


 僕は自信満々に答える。


――――――――――――――――――――


「やはり普通の飯はうまいな!」

「病人だとろくな飯が食えんからな!」


「お父さん! お客さんの前でそんなに下品に食べないで!」


「ふふふ、いいじゃないオリーブ」

「お父さんが前みたいに元気になったんだから」


 僕達はオリーブさん一家と夕食を食べることになった。


「佐藤さん、本当にありがとうございます」

「主人もすっかり元気になったみたいで」


「どういたしまして」


「いくら感謝してもしきれませんけど、ひとまず今日はゆっくりしていってください」


「ありがとうございます」


「シャロールちゃんも大きくなったわね」


「はい!」


「元気ねぇ。昔のオリーブを思い出すわ」


「ちょっとお母さん、昔の話はしないで!」


――――――――――――――――――――


「この部屋で寝ていいわよ」


 夕食後、僕達はゲストルームに案内された。


「わかりました」


「けどごめんなさいね」

「この部屋一人用だから布団も一枚しかないの」


「だ、大丈夫です」


「それじゃあ、おやすみなさい」


 オリーブさんのお母さんが部屋を出ていった。

 僕達はしばらくの沈黙の後顔を見合わせた。


「ね、寝よっか」


「う、うん」


 最初にシャロールの家で寝た時を思いだす緊張感だ。

 いや、今回はシャロールのお母さんがいないからあのときよりも緊張する。

 狭い布団に入ると体をくっつけていなくてもシャロールの体温が感じられる……気がする。


 僕が緊張で全く眠れないでいると、何かが足に絡みついてきた。


 シャロールの足か?

 それにしてはもふもふだ。


 まさかこれって……。


 毛布の中の暗闇に目をこらすとシャロールのしっぽが僕の足に巻きついている。

 このままでは身動きがとれない。


「ちょ……シャロ……」


 僕はシャロールを起こそうとしたが、考え直した。

 シャロールが笑顔で寝ているからだ。

 今朝みたいにうなされていないのなら起こす必要はない。

 このまま幸せな夢を見させてあげよう。


 僕はトイレに行きたくなったらどうしようかと考えながら朝を待った。

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