Second apple Ⅰ
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「さあさあ、起きなさい!」
もう朝か。
昨日は疲れてぐっすり眠っていた。
そのおかげで疲れもとれてすっきりとした目覚めだ。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
僕は椅子に座って朝ごはんを食べ始めた。
「今日は何か予定があるのかい?」
「今日は……」
オリーブさんは昨日、また明日と言っていた。
しかし、まだ連絡がない。
僕達が行かなければならないのだろうか?
「ちょっと聞いてみます」
<今日もお昼ごろにそちらに行っていいですか? by佐藤>
すると思わぬ返事が来た。
<今そちらに向かっているのでもう少しお待ちください byオリーブ>
向かっている? ここに?
「返事は来たかい?」
「ここに向かっているそうです」
僕が不思議そうな顔をしているとお母さんは
「もしかして……」
と言った。
「何か知っているんですか?」
「ええ、心当たりがあるわ」
「けど、それを教える前にお寝坊なシャロールを起こしてきてくれないかしら?」
「そうですね、わかりました」
僕は立ち上がって、寝室に入っていった。
「シャロール~」
「ううん……」
シャロールは何やらうなされているようだ。
「ごめんなさい……、佐藤」
シャロールは僕に謝った。
しかし、見た感じ寝ているようなので寝言だろう。
まだ昨日のことを気にしているのかな。
「おーい、朝だぞー。シャロールー」
僕はシャロールを起こすために、肩に手をかけた。
すると、僕が触れるや否やシャロールは跳び起きた。
「さ、佐藤!」
シャロールが素っ頓狂な声を上げる。
「お、おはよう」
「う、うわーん!」
シャロールが僕に泣きついてきた。
「私、佐藤を……」
「ええと……」
僕の胸で泣いているシャロールにどう対応したらいいかわからず、おどおどしているとお母さんが寝室に入ってきた。
「あらあら、こんな時彼氏は優しく抱きしめるものよ」
「そんな……」
抱きしめるなんて、そんな大胆な事僕には……。
というか僕はシャロールの彼氏じゃない。
でも、泣いているシャロールに何もしないなんてかわいそうだ。
じゃあ、せめて……。
「シャ、シャロール」
「泣かなくていいんだよ」
僕はシャロールの頭をなでる。
もふもふの猫耳とさらさらの髪が気持ちいい。
「さ、佐藤……」
シャロールが僕の顔を上目遣いで見つめる。
「何も心配することはないんだよ、シャロール」
「佐藤は私の事許してくれるの?」
「怒ってない?」
「ぜ〜んぜん」
僕はにっこり笑った。
「本当?」
「本当、本当。マジだよ」
「ふふっ」
やっとシャロールの顔が笑った。
「マジって何? 聞いたことないよ」
「マジは僕のいた世界では本当って意味なんだよ」
「ふーん」
「よかったわね、シャロール」
「素敵な彼氏ができて」
お母さんがそう言うとシャロールは僕から離れた。
「彼氏じゃないってー!」
シャロールが顔を真っ赤にして反論する。
「冗談はさておき、顔を洗ってきなさい、シャロール」
「うん」
シャロールは流しに走っていった。
「全くシャロールったら……」
「佐藤さんがいなかったらどうなっていたことか……」
お母さんがつぶやいた。
「僕ですか?」
「ああ、独り言よ。気にしないで」
それから僕達は、朝ごはんを食べながらおしゃべりを始めた。
シャロールもさきほどのことが無かったかのように楽しく笑っている。
よかった、よかった。
――――――――――――――――――――
コンコン。
「すみませーん」
誰かが来たようだ。
「はーい」
お母さんがドアを開けると、そこにはオリーブさんが立っていた。
手にはリンゴが入った籠を持っている。
「私、オリーブという者です」
「こちらはキャイアさんのお宅ですか?」
キャイア?
初めて聞く名前だ。
「そうだよ。あたしがキャイアさ」
え! そうだったの!
確かに名前を聞いたことがなかった。
「父のノーチルとお知り合いということで……」
「ああ、ノーチルとは知り合いだよ」
「立ち話もなんだから入りな」
「失礼します」
オリーブさんが家の中に入る。
目が合った僕とシャロールは、軽く会釈をした。
オリーブさんはお母さんが椅子に座ると話し始めた。
「キャイアさんは私の父ノーチルと知り合いなんですか?」
「ノーチルとは昔パーティーを組んでたんだよ」
「そうだったんですか」
「あたしが結婚してパーティーを解散することになって……あなたのお父さん最後に何て言ってたと思う?」
「さあ?」
「俺はリンゴを育てるんだー! って宣言してたの」
「ふふ、お父さんらしい」
「まさか本当にりんごを育てるとは思わなかったわ」
「あ! そういえば!」
「昨日のリンゴ、おいしかったですか?」
「とっても」
「おいしかったー!」
「ありがとうございます」
オリーブさんがうれしそうに笑顔をみせた。
そして、リンゴが入った籠を見せた。
「これ、新しくお父さんが品種改良したリンゴです」
「どうぞ食べてみてください」
「あらあら、ありがとう」
「お父さんが『キャイアも驚くほどのできだ』と言っていました」
「ほー、そうかい」
「オリーブさんはどうしてこの家がキャイアさんの家だとわかったんですか?」
僕は気になったことを聞いてみた。
「父がシャロールさんのことを知っていて……」
「ノーチル果樹園には何度か行ってるからね」
「キャイアさんの住所を父から教えてもらいました」
「げっ、あいつまだ住所覚えてるのかい? もう何十年も前だよ、あいつがここに来たの」
「ははは……」
ここで急に会話が途切れた。
しかし、オリーブさんが重い口を開く。
「では、本題に入らせていただきます」
オリーブさんはお母さんに向かってこう尋ねた。
「キャイアさんは数日前まで病気だったのですか?」
「そうだよ」
「しかし、今は元気そうですね」
「治ったからね」
「一体どうやってここまで治ったのですか?」
「それは……そこにいる佐藤さんのおかげだよ」
キャイアさんが僕の名前を言うと、オリーブさんは僕の方を向いて、頭を下げた。
「どうか父の病気を治してください!」
あまりの勢いに圧倒されて僕が黙っていると、彼女は畳みかけるようにこう言った。
「父の苦しむ姿はもう見たくないんです!」
「どうすれば病気が治るのですか!」
「えっと、それには僕のスキルが……」
「佐藤さんのスキルが関係しているのですか?」
「多分そうです」
「お願いです……父の病気を治してくれませんか?」
「はい。もちろんいいですよ」
断る理由はない。
「ありがとうございます」
オリーブさんが再び頭を下げた。
「それでは、今からでも私の家に来てくれませんか?」
「行くのはいいんですけど……」
「今からでは帰りが夜になってしまうので……」
できれば夜道は歩きたくない。
それを聞くとオリーブさんははっとして、少し考えるようなそぶりを見せた。
お父さんのことに夢中で、そこまで考えていなかったのだろう。
「では、私の家に泊ってください」
「いいんですか?」
「はい。それくらい大丈夫です」
泊るとは言うものの、特に持っていくものもない。
今すぐ出発できる。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
僕はオリーブさんの後に続いて、家を出た。
「待って!」
すると、後ろから思わぬ声がかかった。
「私も連れて行って!」
そう叫んだのはシャロールだ。
「どうしてだ?」
必要なのは僕のスキルであって、シャロールは来る必要がない。
「それは……その……」
「シャロールも行っておいで」
キャイアさんが後ろから声をかける。
「最近ノーチルに会ってないから、久しぶりに娘の顔を見せてやりたいわ」
「お母さん……!」
シャロールが驚いた顔でお母さんを見た。
「そうですか」
「シャロールさんも行くのですね」
「うん!」
シャロールがうれしそうに答えた。
後ろでは、お母さんがやれやれといった顔をしている。
こうして僕たちは再び果樹園を訪れることになった。
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