First apple Ⅱ
「シャロール? どうしたんだ?」
僕たちは果樹園を出て、帰路についていた。
しかし、シャロールが突然立ち止まった。
「佐藤は……」
「僕が?」
「どうして私のお母さんが病気だって知ってたの?」
「それは……」
「佐藤もドラムの仲間なの?」
「違うよ、シャロール」
「じゃあ……」
「わかった。真実を話そう」
僕はシャロールをまっすぐ見つめた。
「信じてもらえないかもしれないが、僕は死んでも生き返るんだ」
「え?」
シャロールが怪訝な顔をした。
「正確に言うと僕が死ぬと時間が戻るんだ」
「時間が? どういうこと?」
「僕は死んでしまってもその日の朝からやり直すことができる。わかるかな?」
「よくわかんない」
シャロールは首を傾げた。
「実は、僕はシャロールとスライムを一緒に倒しに行ったこともあるんだ」
「私、佐藤と行ったことないよ」
「ああ、そのとき僕は奴らに殺された。だから、時間が戻ってシャロールとは行ってないことになったんだ」
「うーん?」
シャロールがまだ不思議そうな顔をしている。
「ある時、僕はシャロールにスライム討伐に行かないって言ったんだ」
「そしたら、シャロールが僕を家に招待したんだよ」
「そうなの?」
「そのときにお母さんが病気なのを知ったんだ」
「でも、そんなの覚えてないよ?」
「それはまた時間が戻ったから……」
あれ?
そういえば、あのときはスキルが発動して時間が戻ったんだっけ。
「……」
シャロールは目をつぶって考え込んでいる。
「やっぱり信じられないよね……」
わかっていたことだ。
こんな非現実的な話を……。
「信じるよ!」
「え?」
「勇者の佐藤がうそつくわけないもん」
「そんなに簡単に僕の言ったことを信じるのか、シャロール?」
「え? 信じちゃいけないの?」
「いや、そういうわけではないんだけど……」
「全部本当なんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃあ、信じるよ」
シャロールの純粋すぎるこの性格はどうにかしないといけないんじゃないかと僕は少し不安を覚える。
しかし、この純粋さのおかげで信じてくれたわけだが。
「じゃあ、佐藤は私に騙されたことあるの?」
シャロールは複雑な表情でこう尋ねた。
とても答えづらい質問だ。
「……そんなこともあったな」
「そっか」
シャロールは一瞬何かを覚悟したような顔をした。
「ごめんなさい!」
突然頭を下げたシャロールに僕は驚いた。
「私、あのとき佐藤をだまそうとしてたの」
「い、いいんだよ。仕方なかったんだろ」
「シャロールを責めようとは思わないよ」
「佐藤……」
シャロールが再び泣いてしまいそうだ。
「さあ、帰ろう。いつまでもこんな草原に立ってたら、モンスターに襲われるぞ」
「うん……」
僕達は再び家に向かって歩き出した。
―――――――――
「これが今日取ったリンゴです」
「ほー、おいしそうだね」
「私、シャワー浴びてくるー」
「ああ、行っておいで」
シャロールはシャワーを浴びに行った。
そして、お母さんが僕に声を潜めてこう言った。
「ところで……」
「あんた、私の娘に何したんだい?」
「え?」
「シャロールの目が腫れてるじゃない」
「泣かしたでしょ?」
「それは、説明すると長くなって……」
「そんなに大変なことをしたのかい?」
「あー、まず……」
僕は何から言えばいいかと考えながら、目を泳がせる。
「ええと……」
「助けてー! シャロールー!」
「へ?」
僕は説明に困り、シャワーを浴びて戻ってきたシャロールに声をかけた。
頼られたシャロールは、僕の誤解を解こうとしている。
「あ、えっとね。佐藤は何もしてないの」
「本当に? 大丈夫なの?」
「うん」
「もうすぐご飯ができるから、詳しいことは夕食のときに聞くことにするわ」
そう言って、お母さんはキッチンに戻った。
――――――――――――――――――――
つ、疲れた。
オリーブさんのこと、僕が死んでも生き返ること。
全部話すことになるとは……。
お母さんの勢いに呑まれてしまった。
そんなことを考えながら、僕は布団に倒れこんだ。
疲れていたのですぐに眠くなってくる。
「佐藤……」
なんだかシャロールの声がしたような……。
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