Taking Apple (リンゴ狩り)

First apple Ⅰ

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 朝だ。

 でも、今日は何もすることがない。

 いつまでも寝ていられるじゃないか。二度寝でもしようかな。

 <メッセージを受信しました>

 ん?

 一体誰からだ?

 シャロール……はまだ隣で寝ている。

 ということは……。

 <突然すみません。大切な話をしたいのですが、今日お時間ありますでしょうか? byオリーブ>

 やはりオリーブさんか。

 けど、大切な話ってなんだろう?

 とりあえず、時間はあるから返信してみる。

 <はい、ありますよ by佐藤>

 僕が返信すると、すぐにメッセージがきた。

 <ありがとうございます。では、今日のお昼にノーチル果樹園にお越しください byオリーブ>

 果樹園?

 待ち合わせに果樹園とは、ちょっと変わっている人だな、オリーブさん。

 <わかりました by佐藤>

 さて、そうと決まったら朝ごはんを食べて準備をするか。

 ノーチル果樹園に昼までに行かなきゃ。

 

 ……というか。


 ノーチル果樹園ってどこだ?


「あんたたち、いつまで寝てるの!」

「起きなさい!」


「ふわぁ~」


 シャロールが眠そうにあくびをする。

 一方僕はすでに起きていたので、すぐに寝室を出た。


「おはようございます」


「おはよう。朝ごはんはできてるよ」


 僕は席について、朝ごはんを食べ始める。

「あの、ちょっといいですか?」


 なかなか起きないシャロールを起こしに行こうとしていたお母さんを引き留める。


「ノーチル果樹園ってどこですか?」


「何かそこに行く用事があるのかい?」


「はい」


「ノーチル果樹園はこの町を出てすぐのところにあるんだが……」


「シャロール、連れてってやりな」


「ふにゃ?」


 まだ寝ぼけている顔のシャロールが寝室から出てきた。


「今日の昼までに着かないといけなくて……」


「そりゃ大変だ。シャロール、早く食べなさい」


「ん~?」


――――――――――――――――――――


「どうして……!」


「なんで私がこんな朝早くに佐藤を町の外まで連れていかなきゃならないの!」


「ごめん、ごめん」

「謝ってるじゃないか、シャロール」


「む~」


 シャロールは見るからに不機嫌そうだ。

 さっきからずっと僕を責め立てている。

 しかし、なんだかんだ言ってここまで道案内をしてくれているのも事実だ。

 シャロールはツンデレなのだろう。


「ここがノーチル果樹園だよ」


「おお」


 町の外は見渡す限り野原だと思っていたが、こんな建物もあるのか。

 そこまで大きい建物ではないが、シャロールの家よりは大きくて、ギルドと同じくらいの大きさだ。

 そして、その建物の隣には柵に囲まれた多くの木々が見える。おそらくここに果物がなる木があるのだろう。

 僕たちは扉を開けて中に入った。


「いらっしゃいませー」

「あ、佐藤さん……とシャロールさん」


 目の前にある受付で、制服を着たオリーブさんが出迎えてくれた。


「今、仕事中ですのでお昼までお待ちください」


「はい」


「わかったー」


「その間、リンゴ狩りでもどうですか?」


「今の季節はリンゴがおいしいんですよ」


 オリーブさんはにっこり笑った。


「は、はい」


 僕達はオリーブさんの笑顔と勢いに押されて、リンゴ狩りをすることになってしまった。


――――――――――――――――――――


「もう、佐藤ったら」

「なんでリンゴ狩りするって言っちゃうかな」


「いいじゃないか、シャロール」

「どうせ待たなきゃいけなかったんだぞ」


「そうだけど……」


「それに、お母さんも喜ぶんじゃないか?」

「うーん」


 このままでは、シャロールとずっと口論することになる。

 とりあえず話題を変えよう。


「シャロールはここに来たことあるのか?」

「うん。小さいときによく来てたんだ」

「お父さんがリンゴ好きだったから」


「へー」


 ん? お父さん?


「シャロールのお父さんって……」


 僕がそう言うと、シャロールの顔が曇った。


「私が小さい頃、どこかに行っちゃったの……」


「まだ、帰ってこないんだ……」


 まずいことを聞いてしまった。


「ごめん、つらいこと聞いて」


 シャロールは首を振った。


「ううん、いいの」

「お父さんはきっと帰ってくるから」


 彼女はそれっきり黙ってしまった。

 僕もかける言葉が見つからず、気まずい時間が流れた。


――――――――――――――――――――


「どうでしたか?」


 ある程度リンゴを取って、僕たちは受付に帰ってきた。

「ええ、こんなに取れました」


 僕は手にしている小さい籠いっぱいに入ったリンゴを彼女に見せた。


「わあ、結構取りましたね」

「リンゴお好きなんですか?」


 彼女は笑顔で尋ねた。

 しかし、対照的にシャロールの顔は暗い。

 この話題をこのまま続けるのはまずい。


「は、はい」

「それより。話ってなんですか?」


 リンゴの話からそらすため、というか単純に気になっていたので尋ねてみた。


「あ、そうでしたね。こちらへ……」


 今度は彼女の顔から笑顔が消えた。

 僕たちは受付の隣にある廊下を少し進んで、応接室のようなところに入った。


「そこに座ってください」


 向い合せに置かれているソファーに腰かける。


「ええと、どこから話せばいいのか……」


 オリーブさんは言いにくそうにしている。


「好きなように話してください」


「ありがとうございます」

「では……まず、数日前に私の父が病気になったんです」


 お父さんが病気になった。

 どこかで似たようなことを聞いたような。

「そして、それからすぐにドラムという輩が来たんです」


「私のときと同じだ!」


 さきほどまでうつむいていたシャロールが急に顔を上げて、こう叫んだ。


「同じ?」


「うん! 同じだよ!」


「待て待て、シャロール」

「まずは最後までオリーブさんの話を聞こう」


「でも……」


「続けてください、オリーブさん」


「はい。ごめんなさい、シャロールさん」「もう少しで全部話し終えるから」

 シャロールは不満そうな顔だ。


「ええと……そのドラムは病気を治す薬を売ってやるから、俺に協力しろと言ってきました」


「やっぱり……」


「従わないなら痛めつけると言ってきました」


 あいつならそんなこと言いそうだ。


「私はなんとか奴らの撃退に成功しましたが……」


 まじか。オリーブさん、只者じゃないな。

「当然奴らを追い返しても父の病気が治ることはなく……」


「そうですか……」


「私が気になったのは奴らの捨て台詞です」


「捨て台詞?」


「奴らは私に敵わないと見るや、逃げていきました」

「そして、そのときドラムが……」


「なんて言ったんです?」


「シャロールみたいに治りはしないだろう、と言ったんです」


「私!?」


 シャロールが驚いて、変な声を出した。


「シャロールさんは何か奴らと関係しているんですか?」


「私は……」


 シャロールはおどおどして、言葉に詰まっている。


「まずは、さっきの『同じ』ってどういうことか説明してくれないか、シャロール」


「それは……同じなの」


「つまり?」


「私もお母さんが病気になってから、ドラムが来たの」

「そして、協力しろって」


 なるほど、状況が同じだと言いたかったのか。


「私、オリーブさんみたいに強くないし……」


「それで僕をだましたのか」


「私、佐藤のことだましてないよ」

「う、うう……」


 しまった、今の一言は余計だった。

 確かに僕はシャロールにだまされて殺されている。

 しかし、生き返ったときに時間が戻っているから(なぜかは知らないが)、シャロールからしたら僕を一度もだましていないことになるのか。

 とはいうものの、僕をだまそうとはしていたようだが。


 オリーブさんは僕を一瞬にらんで、シャロールに優しく声をかける。


「シャロールさん、泣かないでください」「仕方なかったんですよね」


 そして、僕の方を向いて、


「佐藤さん。女の子を泣かしたのですから、謝ったらどうですか?」


 と言った。


 僕の言ったことは事実なのだから、謝るのはしゃくだ。

 しかし、僕の言い方もまずかった。


「ごめんよ、シャロール」


「いいの、佐藤。だって、佐藤の言うように、私あなたをだまそうとしていたから」


「嫌なことを思い出させて悪かったな」


 完全に場が静まり返ってしまったので、僕は口を開いた。


「えっと……話を戻していいか?」


 シャロールはこくりとうなずいた。

「シャロールのところにもあいつが来たのか、お母さんが病気になってから」


「うん」


「オリーブさんのところにあいつが来たのも、お父さんが病気になってからですよね」

「はい」


 うーん、何か引っかかる。

 どうして奴らは病人がいる家に来るんだ?

 それも薬を売りに来るなんて、病人がいるのがわかっているかのようだ。

 さらに怪しいのは病人が出て、すぐに奴らが来ていることだ。

 とても偶然来ているとは思えない。

 協力しないと痛めつける……というのはいかにも奴らがやりそうなことではあるが。


「あの、お考え中悪いのですが……」


「もうお昼休みが終わってしまいます。続きはまた明日にしませんか?」


 もうそんな時間か。


「はい、わかりました」


 僕たちは部屋を出た。

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