Eighth mystery
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「はっ!」
ここはシャロールの家だ。
僕は死んだのか?
もし前回のセーブポイントからなら、何か策を考えないと。
このまま前回と同じことをしても勝てないだろう。
おそらくドラムと僕の間には、僕が何度この日を繰り返しても勝てないくらいの力量差がある。
何か、さっきと決定的に違うことをしないと。
例えば……。
「僕には君が必要なんだ」
「一緒に来てくれ、シャロール」
「……」
当然目をつぶっているシャロールから返事はない。
よかった。
こんな恥ずかしいセリフを聞かれたなら、僕は羞恥心から今ここで切腹するだろう。
まあ、生き返るからそんなことをしても時間の無駄なんだけど。
とりあえず朝ごはんを食べるか。
僕は寝室を出た。
――――――――――――――――――――
「嫌……」
今のはシャロールの声……だよな?
前と比べてずいぶん小さいな。
「あの子ったら何照れてるのかしら」
お母さんが不思議そうな顔で寝室から出てきた。
「どうかしたんですか?」
「シャロールがあなたと会いたくないって言うのよ」
「あなたシャロールに何か言った?」
「……」
もしかしてさっきの聞かれてた?
いや、シャロールは寝ていた……はず。
僕は首を振って否定する。
しかし、お母さんはにやにやしてる。
「その焦り方、何かありそうね」
お母さん、鋭い。
「……とりあえず朝ごはんを用意してあげるわ」
これで何かが変わっただろうか。
いや、そうとは思えない。
あいかわらずシャロールは来てくれそうにない。
このままでは、僕はまたやられてしまうだろう。
「今日の決闘は……前にも言ったけど逃げてもいいのよ」
「そんなことしません。だって、奴らがいる限りあなた達に平和は訪れないじゃないですか」
「そうだけど……」
困った顔をしているお母さんに僕は畳みかける。
「僕がシャロールを幸せにしてみせます!」
「まあ……」
お母さんは驚いた。
しかし、すぐに笑顔……と若干あきれ顔になった。
「若い子は情熱にあふれてるわね」
「期待しているわ」
さすがに大げさだったかもしれない。
正直僕も完全にそう思っているわけではない。
このイベントの進行のために何か言ってみたというのも事実だ。
しかし、シャロールに幸せになってほしいという気持ちもないわけではない。
あんなかわいい女の子が悲しんでいる顔は見たくない。
「無理はしませんので、心配しないでください」
僕はそう言って家を出た。
――――――――――――――――――――
ギルドに着き、奴と出会う。
そして、前回と同じように奴を広場に誘導する。
ここからが正念場だ。
「さあ、始めるぜ」
「ああ」
一発目は知っている。
横に跳んで、避ける。
奴の剣が地面に叩きつけられる。
「やるじゃねえか」
そして、僕は剣を構え直そうとしている奴の胴体に切りかかる。
ガッ。
当たった!
「フンッ」
しかし、ダメージが全然ないようだ。
僕が弱いのか、奴が強いのか。
どちらにせよ、この状況はまずい。
奴に攻撃するために近寄った僕は、奴からの反撃を避けることができない。
奴が僕の胴体めがけて、剣を払う。
なんとか後ろに引いてダメージを軽減したが強烈な一撃が入る。
「がはっ」
僕は盛大に地面を転がる。
やっぱり高校生の僕に戦闘は無理だよ……なんて弱音を吐いている場合ではない。
早く立ち上がらないと次の一撃が来る。
かすんだ視界に迫りくるドラムが映っている。
ガキィ。
なんとか剣を構えて攻撃を受ける。
しかし、そこが限界だ。
全身が痛む。
もう次の攻撃に耐えられそうにない。
「終わりだぜ」
ドラムが構えた剣を振り下ろそうとしている。
次に目覚めたときは何から始めようか。
僕はもうろうとした頭でそんなことを考える。
ヒュッ!
剣が振られ、僕の体に……。
「がんばれー!!!」
ガキィ。
「何ぃ!?」
さきほどまで動きそうになかった僕の体がなぜか急に軽くなった。
痛みも和らいだみたいだ。
そのおかげで、奴の攻撃をなんとか受け止めることができた。
しかも、奴の攻撃がさっきよりも軽く感じる。
まさか手加減しているのか?
いや、それはないだろう。手加減する理由が見つからない。
僕は奴の剣をいなし、反撃を叩き込む。
「ぐっ」
今度は手ごたえありだ。
奴がひるんでいるすきに数発叩き込む。
もちろん奴も攻撃を仕掛けるが、なぜか非常にゆっくりだ。
「止まって見えるぜ」
僕は奴の攻撃をすべてかわし、重い一撃を食らわせる。
そして、地面に倒れこんだ奴の首に剣を突き付けた。
「僕の勝ちだ」
「クソ……お前ら!!」
「ここは町の中だよ。派手なことはしない方がいいんじゃない?」
「ちっ」
「さあ、シャロールとの契約を破棄して二度と関わらないと誓うんだ」
「……ああ、わかったよ、好きにしろ!」
僕は目的の言葉が聞けたので、剣を鞘に納めた。
奴は立ち上がり、不機嫌そうに速足でどこかに行ってしまった。
……勝ったのか?
自分のことながら実感がわかない。
「佐藤ーーー!!」
「うわ!!」
シャロールが急に後ろから抱きついてきた。
「やったね!」
「シャロール、来てくれたのか」
僕がそう言うと、シャロールはもじもじしながら
「佐藤が私のこと必要だって言うから……」
と言った。
……やっぱり、聞かれてた?
「それより、佐藤があんなに強いなんて信じられないよ」
シャロールがごまかすようにこう言った。
「ああ、なんだか急に力が湧いてきたんだ。誰かががんばれって言っているのが聞こえて……」
「それ私だよ!」
「じゃあ、やっぱりスキルの効果が出たんだ!」
「スキル?」
「うん。佐藤を助けたいから、スキルが使えないかなって思ったの」
「前に佐藤が私のスキルは声に関係しているかもしれないって言ったでしょ?」
「ああ」
「だからスキルを選択してから、大きな声で応援してみたの」
そうだったのか。
シャロールのスキルはすごいのかもしれない。
「応援ありがとう、シャロール」
「えへへ」
「おーおー、若者はお熱いねー」
「お母さん!」
「こんな人目につく場所で抱きつくなんて」
「あ!」
シャロールは冷静になったのか、僕から手を放す。
「とりあえず、なんとかなったみたいだね。すごいじゃない、佐藤さん」
「ははは、ギリギリでしたよ。シャロールの応援がなかったらどうなっていたことか」
「……やっぱり、愛の力は偉大だねぇ」
何か勘違いされているような……。
「今日はお祝いだよ! 家へ来な!」
「佐藤、行こう!」
僕は彼女達に連れられていく。
またお世話になってしまうようだ。
――――――――――――――――――――
僕はふと気になって、お母さんに聞いてみた。
「僕、この家に何日も泊って迷惑ですよね?」
するとお母さんは、まるで当然のことのようにこう言った。
「あんたがいるとシャロールが元気になるからいいんだよ。好きなだけここにいな」
「私は……別に佐藤がいなくても……」
言葉が途切れたシャロールの方を見ると、真剣に悩んでいた。
「さ、今日は疲れたでしょ? 早く寝るよ」
お母さんにそう促され、僕達は眠りについた。
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