Fifth mystery Ⅱ
「鉄の鎧と剣だぜ。受け取りな」
おじさんが奥から戻ってきた。
「これはシャロールちゃんの分だ」
「ありがとうございます」
シャロールは重そうな鎧を受け取り、少しよろめいた。
「そして、これが佐藤の分だ」
おじさんは装備を渡した後、僕の耳元で
「今回はあんたのシャロールちゃんへの熱意からおまけしといたよ」
「代金は二人分で800ピローだ」
と言った。
僕からシャロールへの熱意というのはよくわからないが、得をした。
「ついでに、この回復ポーションもおまけでつけてやるよ。二人いるから二個だ」
「わあー、ありがとうございます!」
そこまでサービスしてくれるとは……。このお店大丈夫だろうか。
「お代は変わらずだぜ」
<お金を支払いますか? はい/いいえ>
なんだこのメッセージ? 見たことが無いな。
そういえば今まで買い物したことなかったっけ。
こんなメッセージが出るんだな。
もちろんはいを選ぶ。
「よし、支払い完了だ。また来てくれよな~」
おじさんはそう言って、僕らを見送った。
店の外に出ると日がだいぶ傾いていた。
「急がないと、日が暮れちゃいますね。走りましょっ!」
シャロールちゃんは突然走り出した。
引きこもりがちで運動が苦手な僕はなんとか彼女についていった。
――――――――――――――――――――
「で、結局どこまでデートに行ってきたの? こんな遅くまで」
「だから違うってー!」
シャロールが声を荒げた。
「装備を買いに行ったの。これからの冒険のために」
「あらそうなの」
「だからデートじゃないの」
シャロールが自慢顔でお母さんにそう言った。
「別にお母さんは構わないのに。……デートでも」
「え、お母さん、何か言った?」
「なんでもないわ。それよりご飯に集中なさい、シャロール。手が止まってるわよ」
「はーい」
お母さんはシャロールから目を離し、僕を見た。
「本当は二日後の決闘のために買いにいったんでしょう、佐藤さん」
「うぐ!?」
図星をつかれた僕は、驚いてパンをのどに詰まらせかけた。
「げほっげほっ。どうしてわかったんです?」
「あんたたちが考えていることなんてお見通しよ」
「ははは……困ったな……」
僕は引きつった笑みを浮かべた。
「あなたが自分で考えたことだから止めはしないわ」
お母さんは僕と目を合わせた。とても真剣なまなざしだ、
「ただ、逃げたくなったら逃げてもいいのよ」
「……」
僕は返す言葉が見つからずに黙ってうつむいてしまった。
逃げる……か。
「さ、暗い話はここまで。ご飯は楽しく食べましょ、シャロール、佐藤さん」
いつのまにかシャロールは食べるのを止めて僕たちの話を聞いていたようだ。顔が泣きそうになっている。
「そういえば、今日久々に買い物に行ったんだけどね」
お母さんが話し始めるとシャロールの顔に少し元気が戻った。
「えー!? お母さん、買い物に行ったの!? 大丈夫だった?」
「あなたじゃないんだから、大丈夫よ」
「もー! それどういう意味!?」
「はははははっ!」
お母さんが盛大に笑った。
こうして食事の時間が過ぎていく。
――――――――――――――――――――
忘れていた。
また同じベッドで寝ることになるのか。
いや、そもそも今日は泊っていいなんて言われていない。
ご飯はもうお世話になってしまったが、寝床は宿にでも……。
「あ、あの~。今日はギルドに泊まろうかと思うので……」
僕がそう言うと、お母さんは待ってましたという顔になった。
「あら、遠慮してるのね」
「安心なさい。あたしが今日なんのために買い物に行ったと思ってるの? ついてきなさい」
お母さんはそう言って、寝室に入っていった。
「シャロール、なんだと思う?」
「さあ?」
二人で首をかしげながら、寝室に入ると……。
「これが今日私が買ってきて作った布団よ」
なんとベッドの横には布団がある。
「お母さん、今日はずっとこれを作ってたの?」
「そうよ」
「佐藤のために?」
「ええ」
「……お母さんこそ佐藤のこと好きなんでしょ」
お母さんは一瞬びくっとなったが、ごまかす。
「早く寝ちゃいなさい」
「お心遣い感謝します」
「いいのよ、礼なんて。娘の大切な彼……友達なんだから」
なにか誤解されている気がする。
しかし、それよりも僕は早く眠りたかった。今日は歩いて疲れたから。
布団に入るとすぐに眠ってしまった。
――――――――――――――――――――
「ぶっ!」
なんだ!?
僕は突然の衝撃に驚いて、目を開けた。
あたりは真っ暗だ。
しかし、徐々に目が慣れてくると、真相が明らかになる。
よく見ると、シャロールが枕をベッドの下に落としたようだ。
もちろんそこには布団で眠る僕がいる。
なんだ、そんなことか。
「えへへ……。そんなことないですよ……」
彼女は楽しく笑いながら寝言をつぶやいている。
こんなにかわいい顔は初めて見た。
やはり彼女には暗い顔は似合わない。
この笑顔が続いてほしいな、なんて恥ずかしいことを思いながら僕は再び眠りについた。
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