Sixth mystery
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「ぎゃっ!」
「え!」
僕は突然腹を襲った衝撃で目覚めた。
何事かと目を開けるとシャロールが僕を踏んづけていた。
彼女は急いで足をどかした。
「あ、ごめん! ぼーっとしてたの!」
「大丈夫、大丈夫……」
僕はおなかをさすりながら答えた。
まだ少し痛むが、それは黙っておこう。
「起こしちゃってごめんね」
シャロールが申し訳なさそうに言った。
「いいよ、いいよ。もう朝みたいだし」
窓の外は明るくなっている。
「じゃあ、朝ごはん食べない?」
シャロールはそう言って寝室を出ていった。
――――――――――――――――――――
「今日はギルドの裏の広場に行っていろいろ試したいんだ」
「いろいろって?」
「僕たちのスキルの練習や、武器を使った戦闘訓練とか」
「それいいね!」
シャロールはテーブルから身を乗り出して賛成してくれた。
「ふわぁ~、今日はどこに行くの? あなた達」
お母さんが眠そうに目をこすりながら、寝室から出てきた。
「今日はギルドで、いろんなことするんだ!」
「ほ~、いろんなことね~」
お母さんの顔が笑っている。
一方シャロールは顔を赤くして、叫ぶ。
「お母さん! 変なこと想像しないで!」
「さしあたりスキルの練習でしょ?」
「え! なんでわかったの?」
「あたしも冒険者になりたてのときはよくやったもの」
「えー!!!」
シャロールが先ほどよりさらに大きな声を出して叫ぶ。
なんと、お母さんは冒険者だったのか。
「なんで今まで言ってくれなかったの?」
「それは……言わなくていいと思ったからよ」
「もー! お母さんのいじわる!」
シャロールは頬を膨らませる。
「すみません、話に割って入ってしまうんですが……」
僕が話し始めると、お母さんがこちらを向いた。
「あら、何?」
「どんなスキルを持っているんですか?」
「あたしのスキルは……秘密よ」
「「え」」
僕達は顔を見合わせる。
しばらくしてお母さんが手を叩いた。
「さ、私の昔話を聞いてる暇があるなら早くギルドに行きなさい」
僕達ははっとして玄関を出た。
――――――――――――――――――――
「まずは何をする?」
「うーん」
やりたいことはたくさんあるが……。
「シャロールのスキル、使ってみてよ」
「えー?」
シャロールがあからさまに嫌そうな顔をした。
「しょうがないなー」
「でも、がっかりしないでくださいね」
「ああ」
シャロールがステータスを出してスキルを選択する。
しかし、何かが起きる気配はない。
「ね? 何も起きないんですよ」
「……」
確かに何も起きないが……。
シャロールのスキルは話術だ。
何か話すことと関係しているスキルなんじゃないか?
今は誰とも話していないから何も起きないとか?
僕はシャロールにこのことを言ってみた。
「確かにそうだね……」
「もしかしたら僕はもう話術の影響を受けているのかも」
「ふ~ん。何か心当たりが?」
「いや、ただの直感だよ」
「な~んだ」
シャロールが残念そうな顔をする。
「で、佐藤のスキルは?」
「僕のスキルは……」
ステータスを開いてスキルを選択してみる。
しかし、何かが起きる気配がない。
「やっぱり何も起きないな~」
「お母さんを治したときはどうだったの?」
「あのときはメッセージが出てきたんだけど……」
「じゃあ条件があるのかも」
「条件?」
「そう。スキルには条件があるものもあるの」
「佐藤や私のスキルはそんなスキルかも」
「なるほど」
「ま、いつか見つかるでしょ」
シャロールは明るく言い切った。
「じゃあ、次は……」
「何するの?」
「剣でも持ってみるか」
「めんどくさい……けどせっかく買ったんだし」
シャロールはしぶしぶ剣と防具を装備した。
僕もアイテム欄から鉄の……。
「あ」
「どうしたの?」
「……」
「早くしてよ~」
アイテム欄は文字化けしてるんだった。
ええと、確かレアリティが高い順に上から並んでいるんだったか?
<bjみpbを装備しますか?>
おそらくこれが鉄の鎧のはずだ。
「よし」
鉄の鎧が現れた。
同じ手順で剣も装備する。
「どうしてそんなにもたもたしたの?」
「いやぁ、ちょっとね」
これは信じてもらえそうにないから話さない方がいいだろう。
「さあ、まずは素振りから始めよう」
「うん!」
シャロールは意気込んで答えた。
しかし、すぐに僕の顔をじっと見始めた。
「でも、素振りってどうやるの?」
僕はガクッとなる。
「知らないの?」
「うん。そういう佐藤は?」
「……実は僕もよく知らないんだよね」
僕達は黙りこんで、顔を見合わせる。
「「ははははっ」」
そして、お互いに笑い出した。
「なんだ、佐藤も知らないじゃんー」
「シャロールも知らないんだろー」
笑いのツボに入ったのか二人ともしばらく笑い続ける。
やっと落ち着いてきたところで
「あの~、楽しそうですね」
と声をかけられた。
声が聞こえた方向を見ると、そこには見知らぬ人がいた。
髪は緑色で肩までかかるくらいの長さだ。
年齢は見た感じ二十代後半くらいの女性だ。
シャロールはかわいい女の子だったが、この人は美しいお姉さんといった感じだ。
「なぜそんなに笑ってらっしゃるんですか?」
「佐藤が素振りの仕方を知らないって言うの」
「お前もだろ、シャロール」
「でも、佐藤からやろうって言いだしたのに」
「よろしかったら練習にお付き合いしましょうか?」
彼女がそう言うと僕たちは言い争いを止めて彼女をじっと見た。
「ご迷惑でしたか?」
彼女はちょっと困った顔をしている。
「いえいえそんな!」
「全然!」
「「やりましょう!」」
僕たちは息ぴったりにハモって答えた。
「ふふっ、仲がいいんですね」
彼女は微笑んだ。
一方僕達は照れて顔を赤くした。
「見たところあなた方は剣をお使いになられるんですよね?」
「「はい」」
「では、私も剣を使うのでいろいろと教えることができそうですね」
「まずは剣をこのように構えて……」
そこから練習が始まった。
――――――――――――――――――――
「ハァ……ハァ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
「では今日の練習はここまでにしましょうか」
「お疲れ様でした……」
「でした……」
な、なんてハードな練習なんだ。ものすごく疲れた。
優しそうな見た目とは裏腹に練習はおそろしくスパルタだった。
「せっかくですし、また後日一緒に剣の練習をしませんか?」
「は、はい……」
「それで、フレンド登録をしておいたほうが連絡もとりやすいでしょうし……」
「あ、わかりました」
僕はシャロールのときと同様に彼女と……そういえば。
「あの、お名前は?」
「僕は佐藤です」
「ああ、すみません。練習に夢中で忘れていました」
「私の名前はオリーブです」
<オリーブとのフレンド登録が完了しました>
その後、シャロールもオリーブさんとフレンドになった。
「では、またいつか」
「さよならー」
「今日はありがとうございましたー」
二人で彼女を見送った。
「さ、僕らも帰ろうか」
「そうだね……」
シャロールは何か言いたげだ。
「どうしたの?」
「暑い!」
そう言って、シャロールは突然鎧を脱いだ。
確かに通気性の悪い鎧の中は蒸れて、汗をかく。
もう汗びしょびしょだ。
僕も鎧を脱いだ。
「じゃあ……」
シャロールの方を向くと見てはいけないものを見いた気がして、後に続く「帰ろっか」を呑みこんでしまった。
「どうしたの?」
「い、いややっぱり鎧を着けて家まで競争しない?」
「そんな気分になってきたんだ」
そう言って僕は再び鎧を装備して走り出した。
「えー! なんでー!」
口ではそう言っているが、シャロールも鎧を着けて僕の後ろからついてきている。
――――――――――――――――――――
「ただいまー!」
「おかえり……ってなんで鎧着たまま帰ってきたのよ」
「佐藤がこのまま競争しようって。そのくせ負けてるけど」
「シャ、シャロール。早いよ」
「あんたも男ならもっと体力つけなさい」
「は、はいぃ」
「それと、早く暑苦しい鎧は脱いじゃいなさい」
「はーい」
そう言って、シャロールが鎧を脱ぐとお母さんが慌ててこう言った。
「シャロール? 本当に鎧を着けたままここまで来たのね」
「そうだけど?」
「早くシャワーを浴びてきなさい」
「え? この家にシャワーなんて……」
「あたしが今日水道を改造して作ったのよ。台所の隣よ」
「えー! お母さんすっごーい!」
「これ?」
「そうそう。その囲いの中でシャワーを浴びるのよ」
そして、水が出る音が聞こえ始めた。
「佐藤さん、お気遣い感謝するわ」
「え?なんのことです?」
「とぼけないでちょうだい。鎧を着けて競争だなんて変なことしといて」
「あはは、ばれちゃいました?」
「あのままじゃまずいと思ったので……」
「でも、少し見てしまいました、すみません」
「いいのよ。不慮の事故でしょ?」
「あなたが娘の心配をしてくれるような優しい人でよかったわ」
「そんな、そこまで立派な人物じゃないですよ」
「いいえ、あなたはそんな人だわ」
お母さんは真剣なまなざしで僕を見つめた。
「お母さん、佐藤と何話してるの?」
シャワーを浴びたシャロールが戻ってきた。
「いいえ、なんでもないのよ」
「ふ~ん」
シャロールは何か腑に落ちないという顔をしている。
「それより、早くご飯を食べましょう」
こうして、夕食が始まった。
――――――――――――――――――――
僕は夕食後、布団の中で静かに考える。
明日は決闘か。
勝敗なんてわからない。
しかし、僕は死んでもまたリスポーン、やり直しができる。
きっとなんとかなるだろう。
横のベッドを見ると、シャロールが昨日と同様幸せそうに眠っている。
まったく僕の気も知らないで。
そう思いながら眠りについた。
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