Fourth mystery

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 ここは……ギルドか。

 しかし、なぜここに戻ってきたんだ?

 僕はまだ奴らに殺されていなかったような。


 疑問はほかにもある。


 スキルが使用されましたと最後に表示されていたが、僕はどうやってスキルを使ったんだ? 


 何がスキル発動のきっかけなんだ?


 わからないことは多いが、朝に戻ってきたことは確実だ。まぶしい朝日が窓から差し込んでいる。


 ピコン!

 <メッセージを受信しました>


 シャロールのメッセージにどう返すべきか……。

 彼女に何を言ってもスライム討伐に行こうとするだろう。

 なにせシャロールには病気のお母さんがいて、薬を買うためにお金が必要なのだから。

 しかし、どうしてあんなやつらと協力してお金を稼ごうとしているんだ?

 普通にスライムを狩ればいいのでは?

 強盗をした方が早く多くのお金が集まるからか?

 幸いにも彼女に罪悪感は残っている……と信じたい。

 なぜなら彼女は僕が殺される直前に謝っていたからだ。


 ここで考え込んでいてもしかたない。

 僕は彼女へ返信もせずに、下へ降りた。


 ギルドの入口にはシャロールの影が。

 僕がなんと答えても誘うつもりだったのだろう。


「おーい」


 僕が声をかけると、彼女は振り向いた。

 そして、口を開きかけたが僕はかまわず彼女の腕を引っ張って彼女の家へ急ぐ。

 家に着くと彼女は困惑して言った。


「スライム討伐に行かないんですか?」


「それより大事なことがあるでしょ」


 僕はそう言って、彼女の家に入る。


「あの、何を」


 彼女は全く状況がわからないといった様子だ。

 しかし、説明する時間はない。


「早くしないと、奴らが来る」

「わかるでしょ?」


 彼女にそう言い聞かせて、お母さんがいる部屋に入る。

 彼女は震えた声でこう尋ねた。


「何を、するつもり、なんですか?」


「君のお母さんの病気を治したいんだけど……」


 僕は医者ではないのでベッドに横たわり、目を閉じているシャロールの母を見ても何の病気か見当もつかない。

 しかし、この世界はゲームだ。そんなに難しくできていないだろう。

 例えば、スキルを使うとか……。

 しかし、残念ながら僕のスキルはあれだからなぁ……。


「お母さんの病気は何をしても治らないんです!」

「今までいろんな薬を使ってきたんですけど……」


 シャロールが諦めるように、つぶやいた。

 が、ここで諦めてはゲームが進まない。

 僕はダメもとでスキルを選択してみる。

 何とかスキルが発動してほしいのだが……。


「治らないって言ったじゃないですか……」


 僕がスキルを使おうとしたのに気づいたのか、シャロールが声を絞り出して言った。今にも泣きそうだ。

 僕もスキルが発動しないので、絶望的な気持ちでこうつぶやいた。


「病気が……治らない……」


 フォン。

 <スキルが使用されました>


 ん!?

 僕は目を疑った。

 スキルが使用された?

 なぜ?

 やはりこのスキルには使い方が……。


「お母さん!」


 シャロールが叫んだ。

 ベッドの方を見るとお母さんが体を起こしている。


「シャロール、なんだか体が軽くなったわ。病気が治ったようだわ」


 そう言って、シャロールのお母さんは部屋を出た。


「お母さん、まだ寝てなくちゃだめよ」


「あら、お客さんが来てるんだからおもてなししなきゃいけないでしょ、シャロール」

「それに体が軽くて寝てなんていられないわ」


「お母さん……」


 彼女は感動で目に涙を浮かべている。


 バンッ!


 そんな感動ムードをぶち壊して入ってきたのは奴らだ。


「おいおい、シャロールちゃんよ~。俺たちに協力するんだろ~」


 彼女は前回同様おびえている。

 しかし、すぐに反論した。

 今回は目に覚悟の光が宿っている。


「お母さんの病気は治りました。出てってください!」


「ああん? そんなわけないだ……ろ……」

 奴らのリーダー、ドラムだっけ?

 そいつはシャロールのお母さんを見て青ざめた顔になった。


「ちっ、なにがなんだかわからんがお前は俺たちと協力するって契約したよな?」


「はい。けど、その必要はなくなったじゃないですか」


 シャロールはお母さんに目を向ける。


「クックック」


 奴は不気味な笑みを浮かべて笑った。


「何がおかしいんですか」


「いや~。シャロール、契約書を最後までちゃんと読んだか?」


「え?」


 シャロールは怪訝な顔をした。


「知らねーなら教えてやるよ」


「あの契約を破棄する場合、俺と決闘して勝たなきゃならないんだぜ」


「なっ……!」


「思い出したか?」


「そんな、ありえない! そんなこと……」

「なんだ? てめえ、俺が嘘ついてるとでも言いてえのか!? なんなら今決闘してもいいんだぜ!?」


「止めないか!」


 僕は思わず止めに入ってしまった。

 できれば危険は冒したくないのだが、困っている女の子は見捨てられない。

 それと、このままだとまたバッドエンドになりそうだ。なんとか変えなければ。


「なんだお前は? お前がこの女の代わりに決闘をするとでも言うのか?」


 僕は少し迷ったが、こう答えた。


「ああ、僕がおまえと決闘してやるよ」

「ただし、準備時間をくれないか? なにぶん僕は昨日冒険者登録したばっかりでね」


 すると奴はにやりと笑った。


「ふん、誰だか知らんが命知らずな野郎だ。他人のために命を張るとはな」


「だが、お前の勇気に免じて三日間時間をくれてやる。せいぜい悪あがきしてみるこった。三日後にギルドで会おうじゃねえか」


 そう言って、奴はシャロールの家を出ていった。


「間違っても逃げようなんて思うなよ!」


 そんな声が外から聞こえてきた。

 ひとまず危機は去ったみたいだ。


――――――――――――――――――――


「どうしてあんなこと言ったんですか!!!!」


 シャロールの顔が怒りで真っ赤になっている。


「かわいい女の子があんな奴と決闘するところなんて見たくなかったんだよ」


「え……かわ……」


 彼女の顔は依然として赤いままだ。

 シャロールのお母さんはにやにやしながらシャロールの方を向いた。


「よかったじゃない、シャロール。すてきな彼氏さんができて」


「もー! お母さん、変なこと言わないでー!」


 そして、お母さんは僕の方を向いた。


「冗談はともかく、佐藤さん、でしたっけ?」


「はい」


「あたしの病気を治してくださってありがとうございます」


「いえ、僕もよくわからないんです。もしかしたら、僕は関係ないのかもしれませんよ」

「それでも構わないわ。あなたが来たら、病気が治ったんだもの。感謝しているわ」


「それに、娘のシャロールもあなたが来てから久々に明るい顔になっていることですし」

「それはよかったです」


 二人でシャロールの方を見ると、シャロールは黙って、そっぽを向いてしまった。


「それはそうと、佐藤さん。一緒に夕食でもどうかしら?」

「いえいえ、そんな……」


 グ~。


 しまった。おなかが鳴ってしまった。


「おなか、減ってるじゃないですか~。遠慮せずに食べていってくださいよ~」


 シャロールは嬉しそうに猫耳を動かしながら、僕に近づいてきた。


「そうよ、遠慮なんていらないわ。もし佐藤さんが大丈夫なら、ここに泊ってもいいのよ」


 寝る場所は欲しいな……。


「…では、お言葉に甘えて」


「やったー!」


 シャロールが飛び上がって、喜んだ。


「あらあら、シャロールはやっぱり彼が大好きなのね」

 お母さんがそう言うと、シャロールは再び顔を赤くした。


「違うっていってるでしょ!」


「はいはい。お母さんは夕食の準備をしてくるからちょっと待っててね」


 そう言い残し、お母さんは台所で何か作り始めた。


――――――――――――――――――――


 シャロールは二人になるとなかなか話し出せないようだった。

 なので、僕から話しかける。


「三日後までに、なんとか装備を整えないといけないんだけど……」


「どこか良い武器屋とか知らないかな?」

 シャロールの顔が少し暗くなったような気がする。

 つらい現実を思い出したからだろう。

「ええと……それなら私が明日案内しますよ」

「本当に!?」


 まさかシャロールがそんなことを知っているとは。

 聞いてみてよかった。


「はい。最高の装備を買っちゃいましょう!」


 彼女は張り切ってこう宣言した。

 頼もしい限りだ。


 それからしばらくして、お母さんが料理を運んできて夕食が始まった。


――――――――――――――――――――


 僕はシャロール、そしてそのお母さんと食事をしながらいろいろなことを話した。

 彼女達の暖かい雰囲気は僕の心を穏やかにしてくれた。

 ここまで何度も殺されてどうなるかと思ったが、何とかなったようでよかった。

 そして、就寝のとき……。


――――――――――――――――――――


「一緒に寝なきゃいけないの!?」


「しょうがないじゃない。ベッドは一つしかないのよ」


「まさか、お客さんに床で寝ろと言うわけにもいかないでしょ」


「でも……」


「あらあら、恥ずかしいのね」


「そんなことないもん!」


「さあ、あなたも早く来なさい。寝るわよ」


 そんなこと言われても、見ず知らず、それも女性と一緒に寝るなんて。

 しかし、もう断れない雰囲気だ。


「は、はい…」


 僕は緊張しながら、ベッドに入った。

 当然だが、全く眠れない。

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