Fourth quest Ⅰ
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なんて気持ちのいい目覚めなんだ。
ここに来てから、一度もまともに寝ていなかった僕は感激した。
そして、朝ごはんもごちそうしてくれた親切な老人と会話しながら今日の予定を考えていた。
まずは冒険者登録に行きたいな。これをしないと何も始まらない。
そして、行くなら人が少ないであろう朝早くがいいかもしれない。
昼に行くとまた誰かに絡まれるかもしれないからだ。
そうと決まれば、さあ出発しよう。
僕は食事が終わると、老人に出発の旨を伝えた。
老人は少し寂しそうな顔で
「おお、そうかい。若者は行動が早いのう」
と言った。
そして、僕がドアを開けようとしたとき、老人が僕を呼び止めた。
「これは、昨日のお礼じゃ。少しだが役に立つだろう」
そう言って、僕に袋を手渡した。
少し重く、ジャラジャラしている。硬貨だろうか。
このままお金を持ち歩くのは……と思ったら、消えてしまった。
あの瓶も突然消えたと思ったらアイテム欄に表示されていたことから考えて、今回もアイテム欄に収納されたのかもしれない。
僕は老人に感謝の言葉を述べ、家を出た。
――――――――――――――――――――
隣のギルドに入ると、人はまばらで静まりかえっていた。
僕は入り口からまっすぐのところにある受付に進んだ。
そして、受付のお姉さんに声をかける。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが」
お姉さんは愛想よく笑って
「はい、冒険者登録ですね」
と言った。
そして、受付の奥に行き、何か書類を手にして戻ってきた。
「こちらに名前、生年月日をご記入ください」
「わかりました」
と返事をしたが、日本で生まれた僕の生年月日は異世界の書類に書けないのではと思った。
しかし、よく見るとなぜか生年月日は日本仕様になっている。
この世界はゲームなので、細かいことは気にしなくていいようにできているのかもしれない。
名前を書き込んで、書類を渡す。
するとお姉さんは
「では、スキル鑑定を始めましょう。ついてきてください」
と言って、受付の右にある部屋に入っていった。
僕は慌てて、ついていく。
――――――――――――――――――――
部屋に入ると目の前には大きな鏡がある。
たぶんここにスキルが……。
「この鏡の前に立ってください。しばらくするとあなたのスキルが鏡に表示されます」
やはり、予想通り。ここでスキルを判別するようだ。
僕は一度お城で王様にスキルを見せたが、あの時はスキルの説明を聞けなかった。
なので、今回こそ自分のスキルについて詳しく知りたいところだ。
そんなことを考えながら鏡の前に立った。
お姉さんが横から
「たまに鏡がすごい色になることがあるんですけど、何も問題はないのでご安心ください」
と声をかけた。
今から始めるのに恐ろしいことを言わないでもらいたい。
しかし、しばらくしても鏡にはなんの変化もない。
もしかすると、スキル鑑定は時間がかかるものなのか? なんて考えていると、鏡に何やら文字が浮かび上がってきた。
<なし>
「えぇっと……なしだそうです」
お姉さんが困惑しながらそう言った。
しかし、そんなことは見ればわかる。
「つまり、僕にはスキルがないってことですか?」
「そんなはずは……たいてい誰でも何らかのスキルは持っていますよ」
僕は鏡にまだ映し出されている『なし』の文字を見つめる。
「それにこの鏡は今持っているスキルを表示する鏡なんです。持っていないのなら、何も表示されないはずです……。
「では、これが僕のスキルですか?」
「おかしいですね……こんなこと初めてです」
「ちょっとどいてもらえませんか。私のスキルを鑑定してみます」
そう言うと、お姉さんは鏡の前に立った。
しばらくすると、鏡に文字が出てきた。
<魔法強化>
「あれ?ちゃんと出てくる。じゃあ、故障じゃないのかな」
そうつぶやくと、お姉さんはこちらを向いてこう言った。
「故障ではないとすると、あなたのスキルはなしなのかもしれません」
僕は疑問に思ったことを尋ねる。
「スキルがなくても冒険者になれるんですか?」
「冒険者は基本的には誰でもなれます」
「それと、もう一つ」
「あなたにはスキルがないのではなく、『なし』がスキルだと思いますよ」
そんな馬鹿な。
しかし、ここでないものについて議論をしても仕方ない。
「スキルの詳細がわからず、申し訳ございません。こんなことになるなんて想定外だったものですから」
そんなに謝られると、こちらも申し訳なくなる。
「大丈夫です。苦労するのはもう慣れてますから」
何回もチュートリアルで殺されたりしたからね。
「そうですか。では、受付に戻って冒険者証をお渡ししますね」
そう言うや否や、お姉さんは速足で受付に戻っていった。
僕もついていく。
――――――――――――――――――――
「こちらが冒険証です」
お姉さんから鉄でできたポイントカードくらいの大きさのものを受け取る。
「失くしてしまった場合は、こちらで再発行します。有料で」
「え? 今回は……?」
「ご安心を。初回発行は無料です」
お姉さんはいたずらっぽくほほえんだ。
「冒険者特典についての説明は必要ですか?」
「はい、お願いします」
後になってヘルプを開くのも面倒なので、聞いておこう。
「まず、冒険者になることでモンスターの討伐を行うことができるようになります。それにより、そこにある依頼板の討伐依頼をこなし、報酬を得ることも可能です。ちなみに、討伐の際はギルドの職員が同行し、依頼の進行度を記録しますのでご安心ください。また、依頼にはおすすめレベルが設定されていますので、自身の実力や装備を考えて挑んでください」
「少し話がそれましたが、冒険者特典の話に戻りますね。他には、宿泊特典があります。このギルドの二階は宿として宿泊できるようになっているのですが、それを冒険者ならばただで使用することができます」
「ただで!?」
僕が驚いて大声を出したので、お姉さんは苦笑いしている。
「はい。他にもあちらにある食堂での料金も割引価格となっています」
どうやらギルドは冒険者を徹底的にサポートするような仕組みになっているようだ。
ただ……。
「ギルドの運営に必要な費用は大丈夫なんですか? これだとギルドの経営は赤字になってしまうのでは?」
僕はこの世界がゲームなのではないかと思っていながらも、こんなことが気になって質問してみた。
「いえいえ。あなたがた冒険者がモンスターを倒すことで町の平和は守られていますし、モンスターの素材を町で売ることでこの町の経済は回っています」
「なので、これくらいのサポートは当然でしょう」
「なるほど……」
思っていたより、しっかりとした設定が作られているようだ。
……最初のチュートリアルがあんなに雑だったのに。
「最後に、このギルドについて少し説明しますね」
「入口から入って正面がここ受付です。なにか困ったことがあればここに立っている職員にお尋ねください」
「そして、左が依頼板です。ここで、受ける依頼を決めたら受付に依頼を受ける旨を伝えてください。こちらの職員が同行します」
「右は食堂です。こちらで料理を受け取ってギルド内のテーブルで食べてください。あ、食器の持ち出しは厳禁ですよ?」
「そして、依頼板のさらに左にある階段が二階の宿への階段です」
「あと、ギルドの裏に広場があります。自由に使うことができますので、ここで戦闘訓練をしてもらっても構いません」
「以上がギルドの説明です。質問はありませんか?」
「ありません」
僕がそう言うとお姉さんはうなずいて
「では、良き冒険者ライフを」
と言いながら手を振った。
僕はまだここに残って依頼板を見たりしたかったのだが、そう言われると出ていかないわけにはいかない。
「ありがとうございました」
僕は受付のお姉さんにそう告げて、ギルドを出た。
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