Third quest
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ここは……やはりお城の前か。
さて、どうしよう。
お金を稼ぎ、宿泊するためにはギルドで冒険者登録をしなければならない。
しかし、ギルドに行くとまたあの男に殺されかねない。
なので、適当に時間をつぶしてあの男がギルドから出るのを待つしかない。
じゃあ、どこで時間をつぶそうか。
なにせ僕は一文無しだ。お店には入れない。
なにかただでできる暇つぶしはないか。
そういえば、特定の依頼をこなすとお金がもらえるんだっけ。
依頼をこなすのにお金はかからないだろうから、今の僕にうってつけだ。
しかし、そもそも依頼ってどこで受けるんだ?
「ヘルプ!」
このゲームにヘルプがあって本当によかった。
ええっと、依頼は……。
「基本的に依頼はギルドの依頼板で確認できます。その種類はモンスター討伐や素材調達、その他に分けられます。また、市民から情報収集を行うことで、特殊依頼を受けることもあります」
「またギルド!」
僕は思わず叫んだ。
どうしてこうもギルドが多くのことに関係しているんだ!
このゲームの作者、絶対ギルド以外の施設作るのめんどくさかったんじゃないか?
まあ、それは置いといて……。
市民……おそらくNPCから依頼を受けることもあるのか。
しかし、この町は広く、多くの人がいるだろう。
今僕が歩いているこの通りも人でいっぱいだ。
闇雲に話しかけていったら、日が暮れてしまう。
誰か重要そうな人物はいないかな……。
僕はあたりを見渡す。
しかし、道行く人を見ただけで誰が依頼をくれる人かなんてわかるはずがない……と思っていたが……。
「ん?」
僕は人ごみの中に気になる人を見つけた。
あの人だけ歩くのが遅い。どこかぎこちない動きで足を動かしている。
顔を見ると、深いしわが顔に刻まれている。
どうやら老人のようだ。
僕がこの町に入ってから老人のNPCを見るのはこれが初めてだ。話しかけてみる価値はありそうだ。
「すみません」
僕がこう声をかけると彼はこちらを向いた。
「突然すみません。何か困っていることはありませんか?」
すると老人はしゃがれた声で
「おぉ、おぉ、なんて親切な若者なんじゃ。わしの頼みを聞いてくれるかの?」
と言った。
どうやら僕の勘は当たったようだ。
そして、目の前に
<老人の頼みを聞きますか?>
<はい/いいえ>
とメッセージが出てきた。
もちろん、はいだ。
はいを選ぶと老人は話し始めた。
「実は友人に届け物をしたかったのじゃが、なにぶん遠くての。わしはここらで限界じゃったんじゃ」
「親切な若者よ。わしの代わりにこの荷物を届けてくれぬかの」
そう言うと、老人は懐からビール瓶のようなものを取り出した。
ちょっと大きいな。しかも、割れ物だ。
この老人、どうやって懐にこんなものを入れていたんだ?
少し気になったが、受け取る。
まあ、ゲームだし、深く考えても無駄か。
それにしても、このまま手で持っていると割ってしまいそうだな。アイテム欄に収納とかできないのか……。
突然手に持っていた瓶が消えてしまった。
おそらく収納されたのだろうが、それを確認する前に老人が再び話し始めたのでそちらに集中する。
「わしの友人はこの道をまっすぐ行って、三番目の角を右に曲がって、そこから三百メートル進んだら、左手の路地に入っていって……」
なんだなんだなんだ!? こんな長い道案内覚えられるわけないだろ!
老人は未だに話し続けている。一応最後まで聞いてみよう。途中の説明聞いてないから無駄だと思うけど。
「……まあ、わかりやすく言うとギルドの右隣の家じゃな」
いや、最初っからそう言えよ! なんで最後に言うんだよ!
そうツッコミたい気持ちを抑えて僕はこう尋ねた。
「あの、ご友人の名前はなんですか?」
これがわからないと、荷物を間違えて届けかねない。
「コドーじゃ。ちなみにわしの名前はアレグじゃから、そう伝えてくれればわかってくれるはずだ」
「では、よろしく頼んだよ」
そう言って、老人はゆっくり去っていった。
老人の背中は夕日に照らされている。
ん? 夕日だって!?
まずいぞ。
日が沈んでしまったら、街灯がないこの町は真っ暗になる。前回のプレイで学んだことだ。
また暗がりから誰かに刺されて死んでしまうのはごめんだ。
僕は駆け足で、ギルドに向かった。
――――――――――――――――――――
「着いたー!」
なんとか日没前にギルド……の横の友人宅に着くことができた。
おや、ギルドから誰か出てくるぞ。
「げっ!」
あいつじゃないか。
あと一歩遅かったら鉢合わせるところだった。危ない危ない。
なるほど、前回僕を殺したのはやはりあいつかもしれないな……なんてことを考えながらコドーさんの家の玄関をノックする。
しばらくして、年老いた男の人がでてきた。
「なんですか?」
老人は怪訝な顔をしている。
「アレグさんから、お届け物です」
僕がそう言うと老人の顔がぱっと明るくなった。
僕は彼に瓶を手渡そうとして、あることに気づく。
あれ? 瓶どこだ?
ここまで急いで来たのはいいが、消えた瓶を探すのを忘れていた。
心当たりはない……わけじゃない。
「ステータス、オープン!」
ステータスのアイテム欄にあるんじゃないだろうか。
そう思って、アイテム欄を見ると……。
バグってるんだった!
これじゃあどれがあの瓶かわからない。
いや、そもそもアイテム名を聞いてないからバグってなくてもわからなかっただろうけど。
僕は少し考え込み、じっとアイテム欄を見つめた。
そして、アイテム名の色を見て、どれがあの瓶か見分けられることに気づいた。
今はチュートリアルのときと違い、アイテムは四つしか表示されていない。
緑と赤色のアイテムはそれぞれ一つずつしかない。今装備している革の防具と木の剣だ。
そして、黄色のアイテムが二つあるが、片方は幸運の女神だろう。つまり、黄色のアイテムのどちらかがあの瓶なのだ。
試しに上のアイテムは選択すると
<現在装備中です。手渡すことはできません>
とメッセージがでた。
じゃあ、残ったこのアイテムがあの瓶だ!
そう考え、そのアイテムを選択すると
<老人に手渡しますか?>
<はい/いいえ>
と選択肢が出てきた。
もちろんはいだ。
すると、老人の手の中ににあの瓶が現れた。
「わざわざ届けてくれてありがとう。どうだい、一緒に夕食でも」
老人は僕を家の中に招き入れてくれた。
――――――――――――――――――――
この世界に来て初の食事はとても暖かいものだった。物理的にも、心情的にもだ。
誰かと行う食事は楽しいし、人助けもできて気分がよかったからだ。
老人との話も弾んだ。彼は僕に届け物を頼んだ彼についてもいろいろと話してくれた。
楽しい会話は食後まで続いた。
そして、老人はこう言った。
「もう夜も遅いことだし、泊っていってはどうかね?」
ちょうど寝る場所がなく、困っていた僕は喜んで泊めてもらった。
とりあえずベッドで寝ることができたことに安心して、僕は深い眠りについた。
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