第六十七章 急襲

  第六十七章 急襲きゅうしゅう


 「今回の戦いは大仕事になる。俺も小子しょうこも命を落としかねない。」

 天乙てんおつが気をかせて二人きりになると光輝こうきが言った。

 「分かっている。」

 私は光輝こうきから目をらした。目を見ればどうなるか分かっていた。

 「俺が死んだらとむらってくれるか?」

 光輝こうきが言った。

 「かりにも神になろうと修行をしていた身だ。あかねの炎をらったところで死にはしないのだろう?」

 私は胸が張り裂けそうなほど心配だった。


 「小子しょうこ、明日死ぬならお前を抱いておきたい。冥土めいど土産みやげだ。今夜も俺の腕の中で眠ってくれ。」

 光輝こうきが急にしおらしく声で甘い言葉をささやいた。いつもの尊大そんだいな態度はどこへ行ったのだろう。私は光輝こうきの顔を見上げた。憂いを帯びたひとみが私を捕らえた。あとはもう止まらなかった。光輝こうきに抱きつき、唇を求めた。光輝こうきは私の体を抱きとめ、何度も熱い口づけをした。それでもまだ足りなかった。


 私は光輝こうき翡翠邸ひすいていの自室に引き込んだ。光輝こうきの服を脱がせ、自分の服も脱いだ。何の躊躇ためらいもなかった。一糸いっしまとわぬ姿で口づけを繰り返した。

 「抱いて。」

 私が一言そう耳元でささやくと、うれいを帯びていた光輝こうきの目は爛々らんらんと光った。まるで光輝ひかりかがやく月のように美しかった。輝明てるあきにこの男の名から一文字とりたくなったわけがよく分かった。美しいこの男の血を受け継いでいると伝えたかったのだ。


 「小子しょうこ。俺の妻。」

 光輝こうき愛撫あいぶを繰り返した。耳から首筋くびすじに舌をわせ、胸を優しくみしだいた。私はすぐに立っていられなくなって、その場に崩れ落ちた。両手をついていになると、光輝こうきが私の上におおかぶさった。

 「そのまま。」

 光輝こうきは耳元でそうささやいて、太ももの間に手を伸ばした。指が体に入った。光輝こうきは何度も指をしたりいたりして中をかき回した。その度に私は快感かいかんふるえた。

 「気持いいのか?」

 光輝こうきが背後から尋ねた。吐息といきほおにかかかった。

 「うん。」

 横から見上げてそう答えると光輝こうきが口づけをした。みつのように甘く、とろけるような口づけだった。

 腕にも力が入らなくなり、自力で上半身すら支えられなくなった。光輝こうきは力なく崩れ落ちた私を抱き起して敷いてあった布団ふとんの上に横たえた。

 「小子しょうこ、足を広げてくれ。」

 光輝こうきが言った。言われた通りにすると、仰向あおむけになった私の上に光輝こうきが乗った。昨夜と同じ光景だった。


 光輝こうきはゆっくり私の体に入って来た。快感かいかんが全身を駆け巡った。光輝こうきのものになれた喜びで満たされた。

 「光輝こうき。」

 そう名前を呼んで光輝こうきの首に手をからませると、光輝こうきは嬉しそうにゆっくりとこしを動かした。これ以上ない快感かいかんだった。波のように押し寄せる快楽かいらくに身を任せ、光輝こうきを味わった。熱い吐息といきも汗ばむ肌も私を刺激した。たくましい光輝こうきの体に足をからめ、奥深くに届くようその動きに合わせて私もこしらした。調子が合うと背筋がゾクゾクするほど気持ち良かった。


 「光輝こうき、もっと。」

 さらに光輝こうきを求めて言った。

 「分かっている。そう急かすな。小子しょうこ。」

 光輝こうきはそう言って私の口を塞ぐように口づけをした。私は甘いみつを吸い尽くし、さそうように手を背中にわせた。

 光輝こうきは私にせがまれ、今度は大きく腰を動かした。さっきまでの緩慢かんまんな動きと打って変わって激しかった。何度も深部しんぶを強く刺激され、体が火照ほてりだし、声を我慢がまんすることができなかった。

 時折甲高い声を上げてあえぐ私を見つめながら、光輝こうきは口元にうっすら笑みを浮かべていた。


 「こんなにみだれているのが可笑おかしい?」

 息を切らしながら私は尋ねた。

 「何も可笑おかしいことはない。舌を噛むからもう喋るな。」

 光輝こうきも荒い息遣いでそう答えると、嬉しそうに微笑ほほえんでまた私の体を激しくいた。

 光輝こうき身悶みもだえながらあえく声に興奮していた。私をかせようと何度も何度も激しくき、その思惑通おもわくどおり私はき続けた。

 快楽かいらくおぼれ、我を忘れ、しびれるような快感かいかんに包まれながらただ光輝こうきを求めてき続けた。


 光輝こうきは次第に恍惚こうこつとした表情になり、激しく息を切らしながら獣のようにえた。たけくる光輝こうきもまた美しかった。

 「小子しょうこ。」

 光輝こうきがそう私の名を呼びながら愛のしずくを注ぎ込んだ。心地良い温かさを感じながら、快感かいかんに打ちふるえている光輝こうきの顔に触れた。光輝こうきは満足したような優しい面差おもざしに変わると口づけをした。とろけるほど甘美かんびで、忘れられない夜になった。



 その晩、再び目覚めると悪夢のような光景が広がっていた。

 隣で寝ていた光輝こうきが血を流して力なくうなだれていた。私も火傷やけどい、部屋は火の海だった。

 「小子しょうこ!どこだ!?」

 天乙てんおつの声がだった。

 「天乙てんおつ!」

 私はただその名を呼んだ。何が起きたのか全く分からなかった。

 「小子しょうこ!そこか!」

 天乙てんおつは私の声を聞きつけて炎の中すぐに駆け寄って来た。


 「天乙てんおつ光輝こうきが・・・光輝こうきが・・・」

 私はあまりにももろかった。血だらけの光輝こうきを目の前にして、頭が真っ白になり、心は今にも壊れてしまいそうだった。

 「大丈夫。まだ息はある。」

 天乙てんおつ光輝こうきに触れるとそう言った。

 「助けないと。光輝こうきを助けないと。」

 私は涙をボロボロとこぼしながらそう言った。陰陽道人おんみょうどうじんへの呼び声も高かった私だが、恋に落ちればただの人。死にかけた光輝こうきを見て完全にうろたえていた。


 「小子しょうこ、しっかりするんだ。草摩そうまあかねを使って奇襲きしゅうをかけてきた。さっきの攻撃でこのむね陰陽師おんみょうじ大半たいはんが死んだ。生きていても重症じゅうしょうで動けない。小子しょうこは・・・光輝こうきかばったから無事なんだ。」

 天乙てんおつが言った。私のせいだ。私のせいで光輝こうきが死ぬ。目の前が真っ暗になった。


 「小子しょうこ、頼むからしっかりして!」

 うなだれる私に天乙てんおつが言った。何だか天乙てんおつの声が遠くに感じた。

 「小子しょうこ輝明てるあきを見捨てるな!輝明てるあき小子しょうこの助けを待っている!」

 天乙てんおつがそう叫んでいたが、光輝こうきのこと以外はどうでも良かった。光輝こうきを助けられるなら、自分の命でも何でも差し出す。このまま光輝こうきが死んでしまうのなら私も一緒に死んでしまいたい。そんなふうに思っていた。


 「輝明てるあき小子しょうこ光輝こうきの子だ!我が子を見捨てるな!何度生まれ変わっても小子しょうこ光輝こうきを愛していることに気づいたように、輝明てるあきのことも愛していたことに気がつく。今はまだ気づいていないだけだ。ここで見捨てたら一生後悔するぞ!」

 天乙てんおつが魂から声を出しているかのように叫んだ。私は我に返った。


 「輝明てるあきはどこ?」

 私は天乙てんおつに尋ねた。

 「おそらく稽古場けいこばの方だ。まだ火の手が上がっていない。そこへ逃げているはずだ。」

 天乙てんおつは頭の回転が早かった。だからおそらく稽古場けいこば輝明てるあきを追い立てることが敵のわなだと気づいているだろう。

 「分かった。光輝こうきを頼む。」

 「任せて。死なせはしない。」

 「ありがとう。天乙てんおつ。」

 私は最後の決戦の舞台へと向かった。

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