第八章 蜜月の終わり
第八章
夜な夜な
両親とは疎遠で、友人も恋人もなく、今まで誰かに愛情のすべてを注がれたことはなかった。そして自分もまた誰かに愛情を注いだことはなかった。そんな私が愛し愛される喜びを知る日が来るなんて奇跡としか思えなかった。
「明日、定例会議があるので
布団の上に座ってそう
「早いものだ。もう一月経ってしまったのか。」
「トシ子さんの依頼の件が終わっていないのでまた戻って来ます。」
「うん。早く戻っておいで、小子。」
そう言うと布団に上がって来た。
「
「
そう言って広げられた腕に飛び込んだ。
「今度は違う呼び方がいい。」
「うん。」
恥ずかしそうにそう頷くと、いつもの愛撫が始まった。布団の上に横たわった瞬間から、期待で胸が膨らんだ。
いつも丁寧に
どんな顔をしているのだろうと、うっすら開けた目に飛び込んできたのは、
「こう・・・き」
「名前を呼んでくれたね。
「いや・・・」
「どうした?」
「やめて。」
「まだ朝になってない。」
「こう・・・」
涙がこぼれた。私が愛していたのは幻だった。
「
名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、
外が白やんだ頃、気を失うように眠っていた。目を覚ますと、横にはいつものように
「
「うん。」
確かめるのが怖かった。目の前の幸せが逃げて行く気がして。私は夢でも見たのだろうと何も見なかったことにして、いつものように
「
声をかけた。
「
「良かった。本当に生きていたんだな。」
向こうも同じことを思っていた。
「今日は何だか様子が慌ただしいですね。何かあったんですか?」
「
「俺も詳しくないんだが、骨を探しているらしい。」
「骨?」
全く聞いたことがなかった。
「大昔にいた鬼の王の骨らしい。何で探しているのかはまだ分からないんだが。
「そういえば、
「はい。」
「よっぽど
悪気のない冗談のつもりだろうが、笑えなかった。
「ずいぶん頑張っているみたいだが、手こずってるのか?
「
また
「自分で分からないのか?もしかしたら、幻術か何かかけられているのかもな。」
「良い物をやろう。元相棒への
そう言って
「
「お茶はいかがですか?」
聞き覚えのある声だった。
「君は・・・」
前回、
私は子供が立っている
「またお会いしましたね。」
子供の方からそう挨拶してきた。
「そうですね。」
何故かこの子供相手だと敬語が抜けなかった。
「来客用のお茶だったのですが、要らないと言われてしまって。もったいないので、一緒にいかがですか?」
子供がそう誘って来た。将来が末恐ろしい。
「
中庭に座るのにちょうど良い平らで大きな石があった。そこで二人でお茶を囲んだ。子供は慣れた手つきで熱いお茶を
「お菓子もありますよ。」
そう言って子供は
「
早速一口頬張った。ホワイトチョコレートがサンドされていて、抹茶を練り込んだ苦みのあるクッキーによく合っていた。
「美味しいでしょう?」
子供が
「ええ、まあ。」
子供の
「素直じゃないですね。」
子供はコロコロ笑いながら自分も抹茶ラングドシャを頬張った。
「君、お名前は?」
子供に尋ねた。子供はサクサクと音を立てて口を動かしながら、不思議な視線を私に向けた。まるで
「お名前は?」
私はもう一度尋ねた。
「僕は
口が空になると
「
「
「よく私の名前を知っていましたね。」
「ずっと
そう
「
「
わざとらしく君付けして、注意した。
「それなら問題ありません。僕の方がうんと年上ですから。
「え?」
どう見ても人間の子供だった。
「僕は
「まあ、そのことを知っているのは
そう言って
「先ほどの話に戻りますが、
「
「やっぱり気づいていなかったんですね。身体能力を含め、
「そんな。だって私何もできないのに・・・」
「急に力をつけても、
そう
「
「どういたしまして。」
「
「
中庭にいる私を見て
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
「立ち話も何ですから、中に入りましょう。」
私は
二人にちょうどいい
「
「いい人がいるの?」
「・・・・」
「お前は尼ではないのだから、いいのよ。」
「まあ、いいわ。本題に入りましょう。
「はい。」
「ノーマンはとても強いわ。だから扱う案件もこれまでとは段違いに危険を伴うものとなります。気を引き締めて仕事にあたり、学びなさい。」
「はい。」
「いい返事ね。では、ノーマン、お入りなさい。」
「驚いた?」
「ええ、まあ。」
ノーマンという名前を聞いていたから大体の想像はしていたが、完全に異国の血の者とは思わなかった。
「初めまして。
ノーマンは丁寧に挨拶をした。良かった。完璧な日本語だった。日本生まれ日本育ちというところか。
「初めまして。お世話になります
新しい先輩に敬意を表して深く頭を下げた。
「そんなかしこまらないで下さい。仲良くやっていきましょう。僕のことはノーマンと呼んで下さいね。『さん』付けされるとなんだかくすぐったくて。」
ノーマンは物腰が柔らかかった。服装はまるで
「この服変ですか?」
「いえ。」
ジロジロと見すぎてしまったか。
「
ノーマンは自分の服を眺めながら言った。
「そんなことはないです。」
その格好で表に出たら間違いなく、修学旅行の学生たちに
「そうですか。なら良かった。早速ですが、
「はい。」
「
「・・・・」
長野で
「
ノーマンはそう言った。正論だ。私は
寺と言っても住職はおらず、廃寺だった。一歩足を踏み入れた瞬間に嫌な感じがした。寺全体が邪気の吹き溜まりになっていて、霊気を感じられない人間ですら悪寒が走るだろう。
「離れないで、
ノーマンが叫んだ。
まだ崩れた鳥居を通り抜けたところだと言うのに、私たちは襲われた。火の玉のような
ノーマンは火の玉を
「
何故こんなところにいるのだろう。
『
「
「
ノーマンが駆け寄って来た。私はまだ何が起きたのか分からなかった。
「今・・・」
「大丈夫ですよ。幻術を見せられていたんです。ここの
ノーマンは
夜になると、
「
そう言って頬に触れ、私の体を布団の上に押し倒した。いつもの愛撫が始まった。
「どうした?浮かない顔だ。」
「そんなことない。」
それしか答えられなかった。
「
「
「驚かないところを見ると、やはり気づいていたか。」
私に跨ったままそう言った。分が悪い態勢だ。このまま騙され、犯されてみじめに殺されるのだろうか。
「怖がるな。お前は俺の妻だ。何もしない。お前がこの目を嫌うなら、両目共くり抜いて捨ててやろう。」
そう言うと
「いあああ!!」
何をするつもりか読めなくて、止められなかった。
「やめて!」
こんなことして欲しい訳じゃない。どうしてこんなことに。悪夢でしかなかった。両目から大量の血が流れた。
「
「この姿は恐ろしいだろう?この
「そんなこと望んでない。」
「では何が望みだ?」
「人間のあなたと添い遂げたかった。」
「それが本当の望みだな。」
「
「幻術だ。」
「良かった。」
そう呟くと、
「俺は人間の振りはできても、人間にはなれない。」
「もういい。あなたなしでは生きらない。」
「人間ではないのだぞ?」
「いい。あなたが何者でもいい。」
そう言って強く
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