第六章 小倉山の一夜
第六章
「
嬉しそうにフサフサの尻尾を振って
「奥方様がいらっしゃいました。」
「では俺も人に化けないとな。」
そう言いながらまた
食堂に行くと、まだ
「
女主人が言った。物の
「そうか。」
席について待っていると、
「こんばんは。」
キョロキョロしながら、申し訳なさそうにしていた。
「ああ、
女主人が手招きして
ここに座るのか?と
「さあさあ、どうぞ
女主人は気づかない振りをして言った。
気まずそうに
「あっ」
「あの、新幹線でお会いしましたよね。」
「お会いしましたね。確かネゴシエーターの・・・」
「
「奇遇ですね。」
「本当に。民俗学の学者さんでしたよね。お名前を伺っても宜しいですか?」
「こう・・きだ。」
「え?」
「
俺としたことが、人間の名前を用意していなかった。
「
「私もです。」
「お仕事ですか?」
「そんなところです。」
「何をお調べに?」
「
これも答えを用意していなかった。迂闊なことを言ったか。
「この辺りに
「ありますよ。
「
「
「え、いいんですか?」
「もちろん。では夕食の後で行ってみましょう。」
「日が暮れていますが・・・」
「
「・・・そうですね。」
夕食の後、部屋に戻ると、
「
「散歩がてらに見に行くだけだ。何もしない。」
「
「心配いらないだろう。お前の
「ああ、やっぱり
「いい加減、しつこいぞ。出て行け。」
俺がそう言うと
「ご命令とあらば出て行きますけれども、この旅館の女主人のトシ子が
そう言って
「これは?」
「トシ子の亭主が使っていたものだそうです。
「気が利く女だな。」
眼鏡をかけると、より人間らしく、民俗学者らしく見えた。
「さて、行くか。お前はこの旅館でくつろいでいろ。」
「はいはい。お邪魔は致しません。」
旅館の玄関行くと、
「
そう言って駆け寄ると、
「
「どうしたんですか、
「いえ、面白い人だと思って。」
「・・・」
「行きましょうか。」
そう言って
山道は険しく、暗かった。月は出ていたが、木々に邪魔されて、光は届かなかった。唯一の明かりは手元の懐中電灯だけだった。だが、俺も
「もうすぐ社ですよ。」
そう言って息が切れ始めた
「
「やっぱり見えているんですね。」
「・・・・」
どう切り抜けるべきか。白を切るか、それとも・・・。
「私も見えるんです。光さんもずっと上を見ていたから、そうかなって思ったんですけど。」
「見えます。」
同じ霊感のある人間の振りを選んだ。
「同じですね。同じなのに、
「私、新幹線でお会いした時、ネゴシエーターなんて言いましたけど、本当は
知っていた。今更という感じだ。
「ネゴシエーターではないと思っていましたよ。なかなか聞かない職業ですから。」
「嘘が下手なんです。」
そう言って小子は笑った。
「何故、
「他に道がなかったんです。普通の人には見えないものが見えるせいで、家族から気味悪がられて、逃げるように
「じゃあ、尼さんでもあるわけだ?」
「いいえ。私はただの
人間との繋がりが希薄だと思った。
話しながら歩き、
「
そう名前を呼んで、つむじ風から庇うように
「
地面に押し倒された
「今のは何だったのでしょう?」
「さあ。」
「
「はい。あ、少し待って下さい。ここに何かあるんです。」
「
確かに一見すると古びたただの
俺がこれを
「これは骨壺ですよ。」
「え?」
「民俗学者なんで分かるんです。」
真実味のある嘘をついた。
「それなら
「お待たせしました。早く
そう言って
「そろそろ帰りましょう。」
柑子は旅館でゴロゴロくつろいでいるというのに。
「はい。」
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