第4話 俺家庭教師とトラブります

 3歳になった。俺自身は特にやらかすことも事件も無く平穏無事に普通の子供として生活をしている。多少物分かりが良く覚えがいい手のかからない子供、変なことはしてないし周りからはそんな評価に落ち着いている、といいなぁ……。

 その後の変化と言えば、家族いもうとが増えた。名前はサーシャ、父譲りの金髪と母親と同じイエローグリーンの瞳と小麦色の肌、天使の様にかわいい子だ。両親の子だから、将来はきっとすごい美人に育つだろう。


「アル、貴方は今日からお兄ちゃんよ。サーシャに挨拶してあげて」


「サーシャ…お兄ちゃんだよ。これからよろしくね」


「あいー」


「「返事した、この子は天才だ!」」


「うーあ?」


「「「て…天使だっ」」」


 サーシャは、あっという間にフロイツハイム男爵家のアイドルになった。


 

 そして、ニコルは15歳になった。少女から女性へと変わりつつある。大人と子供の魅力を併せ持った、普通に魅力的な美人に成長した。あと、違う方向へも成長した。


「おはようからおやすみまで。アル様、貴方のニコルです!どこへでもご一緒します!」


「だからって、トイレ迄付いてこないでよ。一人で大丈夫だから」


 こんな調子である。両親にも確認したのだが、彼女は別に俺の専属メイドというものでもないらしい。強いて言うなら「おもしろい」から好きにさせてるのだそうだ。

 俺も邪険にしているわけでないのだが、四六時中はさすがに……。


「あ~る~さ~ま~」


 ドアをカリカリし始めた。手のかかるメイドだ……。




 閑話休題。





 4歳になった。サーシャは1歳、最近ますますマジ天使。何をしても可愛い。凄く可愛い。よちよち歩きをみんなで見守るのが我が家の最近のブームだ。


「まぁーま!ぱぁーぱ!」


「そうよ、ママよ!ちゃんと呼べて偉いわね」


「パパでちゅよ~、えらいでちゅね~」


「にぃーに!にこる」


「うん、にぃーにだよサーシャ」


「私だけ呼び捨て!?でもかわうぃうぃ~」


 これが新しい日常となっている。

 しかし、みんないつ仕事をしているのだろうか?







 転生モノだと4歳位には、何かしらのトレーニングをして突出した力なんかを手に入れ始めるべき頃合いかもしれない。

 しかしこの世界、4歳の子供だとできる事は運動位だった。「魔法」と「魔術」があるのだが、「魔法」は「アカシックレコード」を解析中でまだはっきりとは解らない。

 なら「魔術」はとなるのだが「魔術」を使うには2通りある。

 まず「魔術石」を使用して「魔術」を使う方法。

 必要なのは魔石、これは強く成長した魔獣が体内に精製することがある。簡単に言えば魔獣の体内魔素を結晶化したものだ。大きさはさまざまだが、小さいものはビー玉位で大きいものだとソフトボール位のものもあるそうだ。

 その魔石に「精霊語」の符号を組み合わせて「魔法陣」作る。そして必要な効果の「魔法陣」をスクロールに描き、転写加工したものが「魔術石」だ。

 「魔術石」に魔力を流しながら符号を唱えることで魔術が発動する。「魔術石」毎に効果が違えば数個持ち歩くことになる。

 形態としてはアクセサリーや武具に加工している人が多い。父様は数珠の様に加工したブレスレットをしていた。ちなみにこの「魔術石」は使用すればするほど自分の魔力色に染まり発動が早くなる。

 2つ目は、その自分の魔力色に染まった「魔術石」から「魔法陣」と石内部の魔力ごとアストラルボディに転写、アーカイブのように使う方法だ。


「父様、ボク父様みたいに「魔術」を使ってみたいです。教えてもらえませんか?」


「アル、君も男の子だからそうい事に興味を持つのはすごく解る。でも「魔術」はとても危険なんだよ、もう少し成長したらちゃんと教えてあげるから」


 しかし4歳児には「魔法」どころか「魔術」すら危ないと「魔術石」を触らせてもらえない。

 そもそも、俺は生まれて直ぐ何かしらの大病をしたと両親に思い込まれている為何気に過保護に育てられている。

 監視ニコルが四六時中俺にくっ付いてるは、そういう両親の愛情の面もありそうだ。


「ならっ!せめて魔術の本を読む事を許してください!」


「…ははは、そんなに勉強したいのかぁ。うーん、魔術書を読むには「精霊語」を勉強しないとね。でも、僕はそっちはあんまり得意じゃないからなぁ…」


 これは魔術を使うのに魔術書が必須ではないからだ。魔術を使うだけなら「精霊語」を知らなくても「魔術石」さえあればいい。「魔術石」は値段は高いが色んなところで売っているそうだ。

 ちなみに、魔法陣を描くのにも「魔術石」を作るのにも「錬成」のスキルが必要になるようだ。この「錬成」の取得条件は国や魔術専門機関等に秘匿されている。そして多くの国家では「錬成」のスキルを持つものを「錬成士」と呼ぶ。ほとんどの国や機関では、属した魔法研究者の資金調達源になっている為無資格での錬成は法律で禁止されていたりする。


 これはもう、残された選択肢は運動とお勉強だけだろう。適度に体を鍛えてまじめに勉強していれば、そのうち両親も安心して「魔術石」に触らせてくれるかもしれない。









 5歳になった。サーシャ2歳。ニコルは16歳。そしてずっと待ちに待った事が告げられた。


「アルベルト、君もついに5歳になった。リーナと相談してね、君の熱意に負けて「魔術」の家庭教師をつけることになったよ」


「本当ですかっ!?」


「あぁ、流石に「魔術士」は雇えなかったけれど。ちゃんと「魔術士」の方だよ」


 魔術士を名乗るには免許がいる。その中でも優秀な者は国に認定されている。それが「国家魔術士」これはとして有用な人材を国外へ流出させないための措置。首輪をつけて行動を制限する代わりに、高待遇・高収入が約束されている。

 自由が無い、それは高待遇と言えるのか俺としては疑問なのだが。しかしこの世界の人間は安定を求めて「国家魔術士」を目指すものは多いと言う。


「来週から来て頂ける事になったから、ちゃんと準備をしておくんだよ」


「解りました!父様ありがとうございます!」


 楽しみだ。











 待ちに待った家庭教師が来た。正直楽しみすぎてここ一週間夜しか眠れなかった。もうテンションもおかしくなるくらいには、この日をすごく心待ちにしていた。


「彼女が家庭教師をして下さるアンリエッタさんだ。王立中央都市学院出身で優秀な魔術士だよ」


「初めまして、アルベルトです。よろしくお願いします」


「男爵様は、ワタクシの先輩と伺いました。しかもワタクシと同じデュアルだとか。素敵な先輩のお子様を教えることができて光栄ですわっ」


 デュアルとは「魔術」の詠唱を2つ同時にできる「魔術士」の総称だ。平時はもちろん戦闘中でも2つ同時に発動出来て初めてデュアルの称号を得るそうだ。

 因みに「国家魔術士」はトリプルが最低条件、トリプルは千人に1人居るか居ないかという希少存在だそうだ。


「私も優秀な後輩が、息子の家庭教師を受けてくれてうれしいよ。では私は仕事があるので一旦失礼するね」


「そんな、もっとゆっくりして行かれませんか?折角ですし、ワタクシ先輩ともっとお話ししたいですわ」


 あれ、なんかこの人まったく俺の方見ないし。父様に色目を使って媚びを売る情婦に見えてきたぞ……。


「ははは、うれしいお誘いだけれどね。君にお願いしたいのは息子の「魔術」の家庭教師なんだよ。それに部下も待たせてるしね」


「その家庭教師の事で詳しくご確認したいことがありまして。ぜひ二人だけでお話ししたいのですわ」


 この女胸元を開けて父様を誘惑し始めたぞ……。ドイドルお前も赤くなって何度も胸をチラ見してんじゃねーよ。カトリーナにチクるぞ。


「…はっ!?い、いや急ぐので失礼するよ!後はよろしく頼むっ」


 あんなにあからさまなに表情を表に出すとは、父様は腹芸が苦手な貴族だったのか…。そう俺が父親の評価を下降修正してると。


「ッチ。…で?お坊ちゃんが「魔術」習いたいんだって?はっ!苦労も知らないボンボンですって顔して、そんな簡単に「魔術士」になれたら誰も苦労しないんだよ」


 お?なんだ説教か?面白いこと言い始めたぞ。とりあえず明らかにハズレなのは確定したけれど。なんでこんなに俺に敵意むき出しなんだ?


「何お前、ビビっちゃったんでちゅかぁ?ママのおっぱいでも吸ってた方がいいんじゃないでちゅかぁ?」


 思春期の子供の口喧嘩かよ。こいつもしかして…


「バカなのか?」


「あ?何だとクソガキ」


 あ、声に出てた。おお…顔真っ赤。流石に手は出してこないようだけれど。さて大人を呼んだ方が良いのだろうけれど…。


「貴女は「魔術」の家庭教師に来られた、と父親から聞いています。父親が貴女に払う報酬の対価、がその態度と先ほどの言動、という事で宜しいのですね?」


「ッチ!…クソガキがっ!……あの女のガキだけあってクソ憎たらしい!」


 なるほど原因母様か…。何したのあの人……。ていうか父様も頼む前に身元洗えよな……もの凄い遺恨あるっぽいじゃん。


「…はぁ。とりあえず何かしら「魔術」について授業をしていただけませんか?こちらも父親が報酬を支払っていますし、契約破棄にするのもお互いにあまりよくないはずだ。…授業さえしていただけるなら、先ほどまでの暴言と態度について不問にします。」


「……ッチ!……その魔道具に触れな、それでMPが解る。の才能が無ければ教える価値はないって事で契約は破棄だ。もちろん迷惑料をもらう、アハハ…才能がないお前を恨むんだな」


 なんでこうまで俺にMPが無い前提で話すんだろう?確かに母親にはMPがほとんど無い、でも少なくとも父親はデュアルだし、鑑定で見る限りこの女よりはMPがある。

 もしかして、この魔道具の測定機能に何かしら細工がしてあるとかだろうか?

 いや、そもそもMPの数字では才能は測れないはずだ、何か大切なことを見落としてる?

 とりあえず測定だけするか。少し怖いけれど魔道具に触れてみるか。


「なっ!……っ、何この光!……アンタ壊したんじゃないだろうねっ!これ高いんだから弁償しろよっ!」


 この人自分の魔道具の効果知らないのか…。ちゃんとMPが多いほど強く光るって鑑定にも出てるのに。因みに俺の今現在のMPは1600だ。頭痛と戦いながら「アカシックレコード」を解読してたら増えた。

 俺が魔道具から手を離すと光が消えた。アンリエッタが恐る恐る魔道具に触れると微妙な光が点灯した。あ、なんかすごい泣きそうな顔してる。と思ったら急に廊下に飛び出して。


「そこの使用人!至急男爵様にお伝えして、貴方の息子について大変なことが判明したって!」


「え…あっ、はいっ!伝えてきますっ!」


 メイドが走り去っていく足音が聞こえる。ニコルじゃなさそうだな。とか考えてると部屋に戻ってきたアンリエッタがとても似合う悪人顔で


「おいクソガキ、このワタクシがお前を売り飛ばしてやる。そしてこの家をめちゃくちゃにしてやるからなっ!アハハハハ!これであの女の泣き顔を拝める!サイコウだねぇ!」


 なんか脳内麻薬キマッてるみたいだけれど。この人、俺専門の盗聴器ニコルが全て聞いてることをに気が付いてないのかな?

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異世界でドロップアウトして猟師になりました。 有夢 @arishihinoyume

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