第3話 俺生まれ変わりました

 転生してしまった。死んでないが赤ん坊に生まれ変わったので多分転生。そして現在、生後約半年が経った。

 ここ半年、色々予想外の事ばかりだった。本当に辛かった……ストレスでこのまま髪の毛生えないんじゃないかってくらい辛かった。

 この半年俺の身に何が起きたのか。まずあの後意識が戻った、……が何か考える前に頭にすごい激痛が。急すぎて最初頭が爆発した、なんて思う位意味不明な痛さだった。しかもぜんぜん収まる様子がない。思考が「痛い」だけに塗りつぶされる。

 あげく体があんまり動かない。光は感じるけれど、視界がぼやけて何も見えない。耳も聞こえない。痛くて叫んでみても言葉にならない、大人気も無くギャン泣きしちゃった。

 何も解らず、何も考えられず、痛みにただ振り回された。だが多少の救いはあった。急に痛みが薄れるときがあった、すっと痛みが消える。そして何かを飲まされる。コレが何なのかそして味も解らない、がコレを飲まないと死ぬ。そんな感覚があり必死に飲んだ。そして疲れ果て意識を失う。その繰り返しが1ヵ月ほど続いた。


 これは後に聞いた話だ。俺は生まれた直ぐに大泣きし始めたそうだ。しかしなかなか泣き止まなかった。しばく様子を見てみるが長時間ずっと泣き止まない。親も流石にコレはおかしい。何か有る、と言う事になり医者に見せたそうだ。しかし原因不明と診断さてしまう。

 もうそうなれば最後は神頼みだ。教会へ駆け込んで、ひたすら神に祈ったそうだ。見かねた神父さんが毎日神聖術で治癒してくれる事になった。

 そして約1ヵ月後、やっと……本当にやっと頭痛から解放された。あの日の事は今生忘れる事はないだろう。


 しかしまだ受難は続いた。次に予想外だったのが視力だ、ぼやけて全く見えない。抱き上げられても顔すら認識できない。半年経った今でも朧気に人の顔など識別できる程度だ。

 そして聴力もそうだった。何か話しかけてもらえてるのは解る。音としては聞こえるが、まったく聞き取れない。こちらは3ヵ月経った位から聞こえるようになってきた。半年たった今、ほとんど問題なく聞こえるようになったと言っても良いだろう。

 これらを体験した過程で流石に気が付いた、あぁ自分は赤子に転生したのだと。おかげで気が付いた後の授乳は、顔も見えない、良く聞こえない、で恥ずかしいなんて言う感情をあまり持たなくて済んだのだ。事にして欲しい……。

 今でこそ苦労話として語れるのだが、少し前までは本当に痛いし不安だった。


 そんなこんなで、俺は新しい人生を歩む事になった。

 名前はアルベルト・フロイツハイム。フロイツハイム男爵家の長男だ。男の子で安心した。







「アルさま~ごはんですよ~」


 そう言って部屋に入ってきたのは、まだ幼さの残るメイド服を着たヒュームの女の子だ。ヒューム、人種の事でエルフや獣人とは違う人族のことを言う。因みに俺も両親もヒュームだ。

 彼女の名前はのニコル。このフロイツハイム男爵家の使用人である。ブラウンの髪と瞳をもった少しタレ目のかわいい子だ。年齢は12歳で身長は120㎝位、その他は発展途上の様だ。


「は~い、いっぱいのんでくださいね~」


 ニコルはそう言いながら、ベビーベッドで寝ている俺を起こす。上半身を優しく抱きかかえる様にしてミルクを飲ませてくれる。もちろん哺乳瓶でだ。

 この世界は、転生者が色々開発し尽くしているらしい。おかげで栄養価の高い粉ミルクが流通している。味も牛乳に近いもので飲みやすくて助かる。

 飲み終わったら背中とんとんタイムだ。


「は~い、とんとんと~ん」


「げぷっ」


 赤子とは本当にままならないな。だけど毎回授乳プレイという言葉が頭に浮かぶ……。そんな趣味はなかったはずだ。


「それじゃおむつも変えますね~」


 またこの時間が来てしまった。ニコルはとてもいい子だと思う。いい子なのだが……。


(じぃ~~~)


 これはヤメテ欲しい。なぜか毎回観察される、男のシンボルを。中身がおじさんだから余計に羞恥プレイ過ぎて辛い。自分は割と変態だ、と転生前は思っていた。だが違った、普通に恥ずかしい。


(じぃ~~~)


 まだ見るの!?誰か助けて!!!




 

 閑話休題。



 

 フロイツハイム男爵家、俺の新しい家族を紹介しようかと思う。

 父親はドイドル・フロイツハイム男爵。21歳の白人系、金髪でグレーの瞳の爽やかな笑顔が似合うイケメンだ。身長は180㎝位の細身で運動はそこまで得意ではなさそうだ。

 母親はカトリーナ・フロイツハイム。肩下まで伸ばしたアイボリーの髪の毛をハーフアップにして、瞳の色はイエローグリーン。日焼けしたような肌のエキゾチックな美女だ。美人なのだが、表情に少年ぽさがありとても活発そうに見えてしまう。実際手には剣ダコがあるようなのできっと活発な人なのだろう。

 因みに、二人は学院の同級生で恋愛結婚らしい。俺が生まれた今でもラブラブだ。弟か妹がすぐ生まれるかもしれない。

 後は執事のベルモット。メイド長のマーサ、そしてメイドのロニーとニコル。他にも居るそうなのだが、今はまだこの人達しか知らない。



 そう言えばあの頭痛のせいか、前世の記憶が薄れている気がする。名前や家族は思い出せるのだが、友人などの顔を思い出せなくなってしまった。それは悲しい事なのかもしれないが、新しい人生へ影響を与えないように、前向きに考えて行こうと最近思い始めた。

 そして例の頭痛、恐らくアカシックレコードのせいだろうと思っている。あの本達のイメージをまだちゃんと処理できていない。意識を向けると激痛がするのだ。もう少し成長すれば、脳も耐えれる様になて行くのだろうか……。

 そもそも、アレの記録って日々増え続けるものだから、俺の脳が耐えれるのだろうか……。前向きに考えていきたいのだが、ため息が出てしまう。


「あぅ~…」


「アルさま、どうしたのですか~?お腹すきました?」


 そして最近増えた悩みはこのニコルだ。

 ニコルは気が付けば俺の側にずっといる、のだが……メイドの仕事をちゃんとしているのだろうか?

 大体このニコルは、最初から言動や行動が色々おかしい。


「あーう」


 なんとなく、ニコルが差し出してきた指を握ってみる。


「ふひっ、アルさまかわいいぃ~うへへ~」


 底知れない不安を感じる。この子実は色々開花してる気がする。





 閑話休題。





 1歳の誕生日を迎えた。俺もよちよち歩きが出来るくらいには成長した。

 他に変わった事と言えば色々と自分の能力が解った位だろうか。一部であるがチートかもしれない。

 「アカシックレコード」から頭痛と引き換えに得た情報はこうだ。

 まずこの世界には「ステータス」が存在した。存在することを知る人間も少数で、普通はまず見れないらしい。見るには「鑑定」を使う必要があり、「鑑定」を持つ人間は希少だそうだ。

 その希少な「鑑定」があっても相手より格下場合、相手の「ステータス」を見る事が出来ないそうだ。

 俺の場合「鑑定」スキルを所持していて、しかも「アカシックレコード」とリンクしているようで。赤ん坊でもいろんな人の「ステータス」を「鑑定」できてしまった。

 この世界の「ステータス」はこうだ。まずLvは無い。次にHP・MPは数字で表記される。そしてSTR・VIT・DEX・INT・MND・LUKの6つの項目にA~Gで表記される。これはAが高くGは低い事になる。この能力が上がると「+」が追加で表記されて「++」の次はランクが上がる仕様のようだ。

 そして6つの項目の総合力でHP・MPも変動するらしい。

 らしいという表現になるのは「アカシックレコード」を使いこなせていないからだ、まだ意識を向けると頭痛がする。今は様子を見ながら少しずつ慣らしている状態なので確証はもてないのだ。

 そして俺の「ステータス」と周囲の成人したヒュームの平均値()表示はこんな感じだ。


 HP 50 (500)

 MP 1000 (300)

 STR   G++ (D)

 VIT   G+ (D)

 DEX   G+ (D)

 INT   C+   (D)

 MND  C+ (D)

 LUK  C


 スキル:「鑑定」



 1歳ならこんなものだろう、その中でもMPやINT・MNDが高いのは「アカシックレコード」のせいだと予想している。そしてスキルは「鑑定」の様な特殊なものだけ表示されるようだ。

 周囲の大人を「鑑定」した限りでだが、剣術や魔力感知みたいファンタジーによくあるスキルは存在していないのかもしれない。


 ちなみに父親のドイドルは魔法使い系で、母親のカトリーナは予想通り戦士系の「ステータス」だった。ただSTRがB++だったので怒らせないようにしようと思う。鉄拳制裁とかされたら多分死ぬ…。



 繰り返しになるが俺がこの世界に来て早くも1年経ってしまった。最近やっと乳歯が奥の方にも生え始めた。なのでそろそろ多少歯ごたえのあるものが食べたい。だって歯茎がすごくむず痒いのだ。この家にはと言うか、この世界にはおしゃぶりなんてものが無い。なので普段、実はニコルの指をはむはむしている。


「あっ、アルひゃまぁ、あっあぁ…あっだめぇ。そんなにつよくかんじゃだめぇ」

 

 おかげで?ニコルの変態性がランクアップしてしまった。だがきっと俺のせいじゃない……。だってニコルだもん。

 そのニコルの事なのだが、彼女は教会の孤児院で育ったのだそうだ。俺の生後1ヵ月間の治癒の時に何度か神父に連れられて家に来ていたらしい。この世界では平民は10歳を過ぎた辺りから働きに出る者が少なくない、なので男爵家とニコルの顔合わせの面もあったのだろう。採用した理由は知らないがニコルはそのまま住み込みでメイドとして働く事になったのだそうだ。

 そして働き始めて約一年、成長したニコルさんはと言うと。必ず俺をご飯の時間に膝の上に座らせてくる。俺が座るのではなく、ニコルが俺を座らせるのだ。強制的に抱っこであーんで食べさせてくるのだ。とても1歳児では抜け出せないような力で抱っこされる。


「は~い、アルさまあーん」


「……」

 

 正直もう自分で食べれるし、両親も見ているし中身はおじさんだし俺にはこれはもう羞恥プレイ以外の何物でもないのだが……。


「もう!アルさまっ!あーんして下さい!あーん」


「あ…あーん」

 

 うん、おいしい。食べる以外は考えてはいけない。


「あらあら、アルってば良いわねぇ」


「だね、そうだリーナ。僕にも食べさせてくれる?」


「なぁに、アナタったら甘えんぼさんなの?」


「うん、いいかな?」


「もう、しょうがないわね。はい、あーん」


「あーん。うん、とっても美味しいよ」


「ふふっ、もう可愛んだからっ」


 目の前で両親がイチャつき始めた。最近は大体こうなる。だがチャンスだ。ニコルさんが顔真っ赤で食い入るように見入ってる。今のうちに自分で食べるぞ。


「はっ!ア…アルしゃま!わたしたちも負けられません!はい!あーん!」


「えぇ…」


 謎の対抗戦が始まったようだ。


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