事情説明

 朱音や片倉に連れられて向かうのは昨日と同じ中庭である。そこは相変わらずの人気ぶりで俺たち以外のグループもいくつかがそれぞれで集まって昼食をとっている光景が目に入った。


「あ、先輩! こっちですよ」


 俺たちが近づいて来ているのに気付いた小春が大きな声で手を振りながら呼んでいる。目立つからやめて欲しいんだが。そして、そんな小春に生暖かい目線を送り、横にいる俺の妹の雪音も俺たちを見つけると嬉しそうな反応を見せる。雪音の反応を疑問に思った俺は声をかけることにした。


「雪音、何かいいことでもあったのか?」


「特にない。ただ、今日は兄さんが素直についてきたんだなって思っただけ」


 雪音は俺とは視線を合わせずにそう淡々と答える。俺はそれに短く「そうか」とだけ返事を返し、昼食の準備を始めた。まぁ、弁当を広げるだけなんだが。


「じゃあ、食べよっか」


 俺たちが皆、昼食の準備を終えたのを見ていた朱音がそう口を開く。俺たちはその言葉を合図に弁当を食べ始めるのだった。




「あ、小春ちゃん、それおいしそう。自分で作ったの?」


 昼食を食べ始めてしばらくした頃、朱音はふと小春の弁当を見て口を開く。朱音の言葉に小春は苦笑し首を横に振って返事を返す。


「まさか。私は登校時間ぎりぎりまで寝る女ですよ?」


「だよな。小春が自分から起きて弁当を作っているなんてありえない」


「あ、なんですか先輩! 失礼ですよ?」


 小春の言葉に俺は頷いて相槌を打ったがその言葉が不本意だったようで小春が膨れて反論する。俺はそれを無視して弁当の中身に集中しているとさらなる言葉が小春からもたらされた。


「それに先輩、今日なんだかいつもと違いません? 何かありました?」


 小春の言葉に雪音以外の皆から視線を向けられる。俺はそんな言葉が雪音からならともかく、小春から言われるとは思わず固まってしまった。しかしそれも一瞬で取り繕うと、俺は努めて冷静に口を開いた。


「なんでそう思ったんだ?」


「んー、雰囲気ですかね。いつもよりも目つき悪いです」


「ほっとけ。生まれつきだ」


 どうやら小春は俺の雰囲気がいつもと違うと直観的に感じていたようだ。確かに俺は今日、普段よりも周りを警戒しながら歩いていた。しかしそれを小春に気付かれるとは思っても見なかったが。


「確かに今日の和樹君、いつもと違うとは思ってたけど……」


「朱音もか?」


 俺と小春の会話に朱音がそう言って首を傾げる。恐らくこうなってくると俺が普段と違うと感じていないのは一番付き合いが短い片倉だけな気がする。なぜ、こいつらはこんなにも勘が鋭いのか。俺はため息を吐きながら朱音や小春に視線を向ける。その後流れるようにして雪音にも視線をやると、雪音がちらりと俺の方を見て口を開いた。


「和樹兄さんは分かりやすい」


 雪音の言葉に朱音や小春が頷く。


「……俺ってそんなに分かりやすいか?」


 俺の質問に再度、雪音や小春、そして朱音が頷く。そんな皆の反応に俺はため息をついてしまう。俺のそんな様子を見て、朱音が口を開いた。


「それで和樹君はなにを悩んでいるのかな?」


「悩んでいるわけではないが……」


 俺はそう言って口をつぐむ。実際には雪音には内容がばれてしまっているわけだし、ここで黙っていても何時かは伝わってしまうだろう。それに加えて昨日の奴の先輩ってのが次の手を打ってこないとも限らない。


「先輩らしくないっすよ? 何かあるなら言ってくださいよ?」


 俺の言い淀んでいる様子に小春までもがそう言ってくる。俺はこの場にいる、雪音、小春、朱音、片倉の順に顔を見渡し、観念したように口を開いた。


「そうだな。黙っていても仕方ないし、言ってしまうが昨日のあったことだ」


「昨日って……。あ、後をつけてきた人のこと?」


 俺の言葉を聞いて朱音が「あっ」っと思い出したように声を出す。それにしても朱音がどうして気付いているんだ? 俺は疑問に思って朱音に尋ねる。


「なんで朱音は気付いてるんだ?」


「そりゃ、視線をずっと感じているんだもん。それに和樹君の様子もおかしかったし」


「そ、そうか」


 俺は朱音の答えに釈然としないものを感じつつも言葉を返した。それに片倉が驚いていない様子を見るに昨日の時点で朱音に話を聞いていたようだ。なんだか俺が隠そうとしていることは全部ばれている気がするな。


「じゃあ、まぁ、説明を続けるが。昨日俺たちの後をつけていた奴に話を聞きに行ったんだが―――」


 俺が説明を始めると、皆が黙って聞き始める。そしてすべての説明が終わると、朱音が口を開いた。


「そっか。わかった。気を付けておくね」


「ああ、頼んだ。こっちでも何かないかは気を付けておくが……」


 言ってしまえば朱音はこの手のトラブルには慣れてしまっている。俺の説明を聞き終わった朱音の反応は実に淡々としたものだった。それに対して慣れていないだろうと思われる片倉の反応は俺たちに取っては新鮮であった。


「えっと、私はどうしたらいいんですか?」


「まぁ、そうだな。できるだけ一人にならないで欲しいって言うのが正直な所だな。少なくともこの件が片付くまでは」


「わ、分かりました」


「大丈夫だよ、結花ちゃん。私もいるし、ね?」


 俺の言葉に対して緊張した面持ちで返事をする片倉に朱音が優しく言葉をかける。俺はそんな二人の様子をみて、大丈夫だなと安心する。そんな俺たちの様子を見ながら口を開いたのが小春であった。


「先輩、私は?」


「……。お前は、そうだな。適当にがんばれ」


「ひ、酷いです!」


 そんなふざけた会話をしながら俺たちは昼食を終えるのだった。

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転校生と幼馴染と mk @mzkksmt

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