どうするか
「ふーん」
俺がした説明を聞き終わった雪音は短くそう返事をした。しかし俺が話した内容についての返事がそれだけって。俺は雪音の態度に拍子抜けしたような気持ちになり視線を向ける。そこには何かを思案するような表情を浮かべた雪音がいた。
やがて、考えがまとまったのか雪音は俺に視線を戻し口を開いた。
「結局兄さんはどうしたいの?」
「っ!」
雪音の俺の目をまっすぐに見ての言葉に俺は言葉を詰まらせる。それは俺の中でもまだまとまっていない問いかけだった。そこを見事に雪音はついて見せる。相手が兄妹と言うのは何ともやりずらいものである。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、雪音はこちらを見ながら言葉を続ける。
「相手が何を思ってそうしようとしたのか分からないとこっちも対策のしようがない。もしかしたら和樹兄さんにちょっかいをかけようとしているかもしれないし」
「……その可能性も確かにあるな」
雪音の言葉に俺はハッとしてそう呟く。確かに相手の目的が必ずしも朱音や片倉とも限らない。相手は俺にちょっかいをかけようとして、その手段として朱音や片倉を狙った可能性も捨てきれない。どうやら俺の思考回路は固まってしまっていたようだ。
「だから変に考えすぎてもダメ。少し落ち着く」
「ああ。ありがとう、雪音」
雪音の諭すような声音に俺は返事を返して、溜息を吐く。俺もまだだめだな。雪音に気付かれてしまうし、雪音が気付けばこの件は小春にも伝わるだろう。まぁ、警戒してもらう分にはそれに越したことはないのだが。
「とりあえずは、そっちにも何かされないか気を付けて欲しい。何かあったら呼んでくれていいから」
「わかった。朱音さんたちには伝えるの?」
「ああ、そのつもりだ。何も伝えずに巻き込まれでもしたら俺も困るしな」
俺は苦笑いしながら雪音にそう答えるのだった。
翌日。俺と雪音は珍しく同じ時間に登校している。そしてすぐに雪音と二人きりという状況は変化し朱音も合流してきたのだった。
「おはよー、和樹君、雪音ちゃん」
「ああ、おはよう」
「おはようございます、朱音さん」
朱音はいつもと変わらない元気な様子で俺たちに声をかける。俺と雪音もそれに返事を返しつつ登校ルートを進んで行く。そして間もなくして今度は片倉が登校しているのが見えてくる。
「あ! 結花ちゃんおはよう!」
「おはようございます、朱音さん。黒岩さんと雪音さんも」
朱音の声に気付き、振り向いた片倉は朱音に返事を返しつつも、次いで俺たちに気付いて言葉を続ける。俺と雪音も挨拶を返しつつ、共に並んで歩いて行く。しかし俺が並んで歩いていたのは最初だけで、途中から徐々に後ろに下がり、三人の様子を見守りながら周囲に付けている人がいないか警戒しながら歩いていた。
雪音もそんな様子の俺に気付いてはいるようで、ちらりと俺に視線を向けたが何も言おうとはしなかった。
やがてしばらく歩いて学校が近くなったころ、小春が近づいてきているのに気付いた。そして小走りで俺たちの方へと近づいてきて口を開く。
「先輩! おはようございます!!」
「ん? 小春か。相変わらず元気だな。おはよう」
「なんですか、先輩。相変わらず元気ないですね?」
「……お前が元気すぎるんだよ」
「そうですかね? まぁ、いいです。朱音先輩たちにも声かけてきますねー」
俺は小春の元気なテンションに俺はついて行けず、呆れた声で相手をする。しかしすぐに俺に興味を失ったのか片倉や朱音達がいる方へと駆けていき声をかけに行く。俺はそんな様子の小春を見ながら呆れたように苦笑するのだった。
昼休みになると昨日と同じく朱音が俺の方に近づいているのに気付く。俺は顔を上げ朱音の方へ視線を向けると、そこには片倉も一緒になって俺に近づいてきているのが見えるのだった。
「今日もか?」
俺は朱音が口を開く前に声をかける。俺から声をかけると思っていなかったのか朱音は少し驚いた後、嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、行くか」
俺は朱音と片倉にそう声をかけて立ち上がる。そんな様子の俺たちをクラスメイト達は黙って見ているのだった。そこには相変わらずの俺に対する視線、つまりは嫉妬だとか恨みがましいものも感じる。俺はそんな様子のクラスメイトに辟易しつつ溜息をついて視線を向けた。
俺が視線を向けるとその向けられたクラスメイトは俺と目を合わせないように視線を逸らした。しっかりと目も合わせられないような奴らが寄ってたかってそんな視線を俺に向けてくるのに呆れとも何とも言えない気持ちになる。
「和樹君、どうししたの? 何かあった?」
俺が立ち止まってクラスメイトの方へと視線をやっているのに気付いた朱音が不思議そうに声をかけてくる。
「いや、なんでもない。それよりも行こう。昨日と同じ場所か?」
「うんっ!」
俺の質問に対して元気に答える朱音はやけに嬉しそうに見える。俺が自分から動いたのそんなに嬉しかったのか分からないが、俺はそんな朱音に苦笑しながらついていくのだった。
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